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蓮華  作者: 釜瑪秋摩
島国の戦士
110/673

第110話 離反 ~巧 1~

「あいつ……俺に向かって殺気を放ちやがった……あいつが俺に殺気を……」


 麻乃が出ていったドアを見つめ、修治は呆然としたままて呟いている。


「シュウちゃん、麻乃は少し気が立ってただけよ。常任なんて初めてのことなんだし、いつもみたいに気負ってるだけよ」


 修治は巧が肩にかけた手を引き離し、大股で鴇汰の前に歩み寄った。


「おまえ、あいつに一体なにを言った!」


 今の出来事に驚いて、放心したままになっていた鴇汰の肩口をつかみ、立ち上がらせて怒鳴りつけている。


「なんで俺が……」


「あいつはおまえと医療所でやり合ったあとから、ずっと様子がおかしいんだよ! 一体なにを言いやがったんだ!」


「そんなの俺が知るかよ! あんたが麻乃を甘やかし過ぎたせいじゃねーのかよ!」


「――おまえ!」


 振り上げられた修治の腕を、徳丸がつかんで止め、そのまま引き寄せて修治の頬を張った。


「らしくねぇぞ修治。鴇汰を責めるのは筋違いだろうが」


 応戦しようと身構えた鴇汰を、穂高と梁瀬が腕を取って押さえつけている。

 唇を噛み締めていた修治は、もう一度、鴇汰に向き直り、二人は睨み合った。


「もしも、あいつになにかあったときには……俺はおまえを絶対に許さない」


 押し殺した声でつぶやくと、そのまま会議室を出ていってしまった。

 鴇汰は押さえている穂高と梁瀬の腕を乱暴に振りほどき、興奮したままそばにあった椅子を蹴った。


「なんだよあいつ! 見当違いなことを言いやがって!」


「本当に見当違いかな? 麻乃が鴇汰の言葉を意識してるのは間違いないんだぞ」


 穂高にそう言われた鴇汰は、鋭い目つきで振り返った。


「穂高も俺のせいだっていうのかよ?」


「少なくとも麻乃は、鴇汰の言葉を受けて、顔を合わせないようにするつもりでいるよ」


 途端に鴇汰の表情が険しくなる。

 いつもの穂高らしくない言い方に、巧は驚いて穂高をみつめた。


「西区常任なんてことになったから、もう、ここへは来ないかもしれないな」


 ため息をついて椅子に腰をおろした穂高は、追い打ちをかけるように鴇汰に言うと、頬づえをついて目を閉じた。


「持ち回りで西区にならないかぎり、ちゃんと姿を見るのは、さっきが最後だったかも……」


 鴇汰は机の上に放り出された資料をつかむと弾かれたように会議室を飛び出していった。

 開かれたままのドアを閉め、巧はドアにもたれた。


「なにがあったのか知らないけどさ、ずいぶんと面倒なことになったのは確かなようね」


「このあいだ、麻乃が怪我をしたときに、鴇汰がひどいことを言ってね。そのせいで、二人ともかたくなになっちゃって」


 穂高が医療所での鴇汰と麻乃のやり取りを、簡単にみんなに説明してくれた。


「あの馬鹿、そんなことを言いやがったのか」


「そりゃあ麻乃もかたくなになるわよ、あの子の胆じゃないの。多分シュウちゃんがさっき言ったとおり、離れるために自分から常任を申し入れたわね。麻乃の考えそうなことじゃないのさ」


 ドアにもたれたまま、巧は指先を頬に滑らせて全員の顔を見た。


「普通に独り立ちするのなら、それは良いことだと思うんだけど、最近の麻乃さんはちょっと不安定過ぎるし、今、修治さんから離れるのは危ないんじゃないかなぁ? 逃げ場がなくなっちゃうでしょ?」


「それに、確かに腹の立つことだったんだろうが、鴇汰の言葉に反応し過ぎじゃねぇか? 修治に殺気を放つなんざ尋常じゃねぇだろう」


 梁瀬も徳丸も、麻乃の態度に不安を抱いているのか、表情が渋い。


「誰かしら西に詰めるから、まるっきり一人になるわけじゃないけれど、修治さんだけじゃなく俺たちからも離れるつもりかもしれないよ」


 穂高も、鴇汰にはああ言ったものの、気になるのかため息ばかり漏らしている。


「取り敢えず、これから持ち回りで西に入る私とトクちゃんで、気をつけて様子を見ておくしかないでしょ。余計なことを言えば麻乃のことだもの、もっとうちにこもっちゃうわ」


 巧は、相づちを打つ徳丸へ目配せをして、視線を窓の外へ移した。


「麻乃のほうはともかく、鴇汰も困ったもんよね。あの二人、最近どうも落ち着きがないわよね。変に憤ったり落ち込んだりさ」


「そういえば鴇汰のやつ、最近、感情の起伏が激しくて落ち着かないって、自分でも言っていたよ」


 穂高がそう言うと、梁瀬が苦笑している。


「笑いごとじゃないけど、鴇汰さんも変に意固地なところがあるから。子どもみたいに好きな子には意地悪しちゃうんだろうね」


「それなんだけど、鴇汰が自分に気持ちを向けてるってことを、麻乃はハッキリと否定するんだよね」


 穂高が机を指でコツコツとたたいた。

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