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蓮華  作者: 釜瑪秋摩
島国の戦士
105/673

第105話 決意の瞬間 ~麻乃 5~

 東区は戦場となる海岸がないせいか、穏やかな雰囲気に包まれている。

 そんな中、訓練所だけがにぎやかになった。


 まずは演習の労をねぎらうと、これから始まる訓練の内容についてを話してから、麻乃は次の言葉を探して視線を泳がせた。

 古株の隊員たちは真っすぐな目で麻乃を見ている。いかにも『早く言え』と言わんばかりだ。

 フッと小さくため息をつくと顔をあげ、麻乃は思い切って話しを始めた。


「この訓練が終わったら、一日明けて次の日からはもう、実戦に入ることになる。と言っても今、うちの国に入ってきている大陸の情報からみると、向こうが大変そうで敵襲のない日が続いている。だから、いきなり防衛戦に当たることにはならないと思うんだけどね」


 言葉が途切れたとき、訓練所の奥にある森の中から鳥のさえずりが響いてきた。

 振り返って空を仰ぎ、また一息つく。


「本来は巫女ば……シタラさまの占筮で、週ごとに各浜にそれぞれの部隊が振りわけられるんだけど、うちの部隊はこの先……西区常任になることが決まった。みんなにも、追って通達があると思う」


 隊の新人たちがざわめき立ち、一番の古参である小坂がそれを一喝した。


「本当はみんなに相談したうえで決めるべきことなんだけど、あたしの一存で決めた。これはもう、本当にあたしのワガママなんだ。急な話しでみんなにも考えるところはあると思う。それで決めてほしい。各々が思うことと違う、こんな勝手をする上にはついていくことはできない、少しでもそう思ったものは今ここで、この場を去ってくれて構わない」


 静まり返り、張りつめた空気が満ちる。


「演習、あれだけのことをさせておいて、いまさら、と思うかも知れない。けれど、この先は命のやり取りが関わってくる。信頼一つが大きく左右することもある。だから今、少しでも違和感を覚えたものは……」


 麻乃の言葉をさえぎるように、隊員たちが大きくざわめいた。


「ほんっとにいまさらですよ。そんなの、答えは一つに決まってるじゃないですか」


「この部隊に選任されたのを受けた時点で、こっちはどこまでもついて行く気、満々ですからね」


「隊長が私たちを選ぶのと同じように、私たちだって隊長がこれまでにしてきたことを知ったうえで選んで、受けて、ここに立っているんです」


 口々に言いあって、誰もその場を立ち去る様子はない。

 数秒、ぼんやりその様子を眺めてから、ハッとわれに返った麻乃は後ろを向き、両手を顔に当ててワシワシとこすった。

 一歩前に出た小坂が背中越しに小声で言う。


「ホラ、だから言ったじゃないですか。こっちははなからついて行く気でここに立ってるって。よほど目にあまることをしないかぎりは、俺たちゃなにも言いませんよ」


「あんたたちはホントに馬鹿だなぁ……まぁ、あたしほどじゃないけどさ」


 振り返ってみんなを静めると泣きそうになるのをこらえてから鼻をすすった。


「そういうわけだから、この訓練が終わり次第、西詰所の宿舎を使ってもらうことになる。増築、改築も頼んであるから、中央ほどじゃないけど使い勝手は今より良くなるからね。まだ、ほかの隊に知られるわけにはいかないから、通知が発表されるまでは絶対に黙っていること。くれぐれも、ほかの隊の隊員たちには言わないように」


 麻乃は隊員たち、その一人一人の顔をしっかりと見た。


「つらい目に合わせることもあるかもしれない。嫌な思いをさせることも……でもあたしは、そのぶん、どこまでもみんなを守るから。絶対に」


 そして、それから……とためらいがちに言って、軽く咳払いをした。


「実はうちが大変なんだよね。なんていうか……訓練が終わったら片づけ、ちょっと手伝ってくれると助かるんだけど」


 麻乃のその一言で、訓練所にドッと笑い声が響いた。

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