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幻想浪漫譚 ~リベリオンズ・ラプソディ~  作者: GaN
第一章 辺境領 プリズンバレー
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第一話 狂気と策士と

 目が覚めた。

 相も変わらず寝起きは最悪だ。何千何万の声を聞き、目まぐるしく変わる情景に翻弄され、最終的に阿鼻叫喚に呑み込まれて朝を迎える。『向こう』にいたころよりもひどい有様だ。


「……頭が痛くなる。ちゃン僕はこンな思いがしたくて転生して来たンじゃあないンだよ」


 不快な汗と重い頭痛。元々持っている低血圧のせいで動きたくない。だが動かねば始まらないので、レイダー・アブダクトはぬるりとベッドから引きずり出た。

 だらだらと身支度を整える彼は、この世界の統一国家『エターナルユートピア』によってこの世界に呼ばれた異世界転生者だ。向こうの世界ではしがないサラリーマンだったらしい。

 とりあえず室内服に着替え、彼は大広間に向かう。目が痛くなるような原色をところどころに使った、異様に派手な服。孔雀の尾羽だろうか。それを飾り付けたつば広帽。極めつけは……、顔に施された道化師を思わせる化粧だ。奇抜この上ない立ち姿は、彼の狂気をそのまま表しているように思える。

 ニヤリと不気味な笑みを浮かべ、大仰に扉を開け放つ。一斉に頭を垂れる配下たち。ああ、この瞬間がいつも自分の存在を認識させてくれる!


「諸君! 退屈な日にしてくれるなよ!」


 レイダーの高笑いが、大広間に響き渡った。


 ―◇―◆―◇―◆―◇―


 プリズンバレー。

 統一国家の王都から見れば田舎も田舎のド辺境。とはいえ要衝であることには変わりはなく、ここを抜かれるのは街道の関所五か所を抜かれるのと同義である。

 城壁に囲まれた街の背後には険しい山が鎮座しており、街の側面から前にかけて、山から流れる河川が二本交差するように流れている。

 城門は側面に二つと、後方に一つ。しかし立地的に防備を強化するのは側面の二門のみに限定でき、その先にも深い森が広がっていて、容易な侵攻を許さない。ついでに言えば、この森はエンシェントハウンドと言われる魔物が支配しているらしい。


「んだよめんどくせえ立地だなオイ」

「天然の要害ですねぇ。さてラウド。貴方ならこの戦場、どう彩る?」


 アポカリプス・リベリオンの駐屯地の最奥。そこで二人の軍師が地図とにらめっこをしていた。

 ラウドと呼ばれた方――フルネームを、ラウド・ヴァイパーという――は、翠髪をツーブロックにした目つきの悪い男性で、中肉痩身の体躯をかっちりとした黒のスーツで包んでいる。アクセントとして白の革手袋やネッカチーフを用い、履いている革靴もピカピカ。

 ただ黙して立っているだけなら、紳士とも見紛うが、先程のように口は悪く、素行もいわゆるヤンキーに近いので、避けられることが多い。――根は優しく、真面目な青年なのだが……。


「彩るもクソもあるかよ。まだまだ情報が足りねぇ。だが、あえて定石を用いるんなら、川登りして二方向から。だな」


 ラウドの言うように、この立地で攻めるならば、進軍しやすい川を利用するのが定石だ。教科書通りと言われてしまえばその通りなのだが、裏を返せばそれは堅実とも言える。


「さすがラウド。いつも堅実な軍略ですね。優等生ならではです」


 右手に持った羽扇で口元を隠しつつ、もう片方の軍師が笑顔を浮かべた。本人にそのつもりは無いのだろうが、見る人によっては嫌味ったらしく見えただろう。


「じゃあ逆に。だ。お前ならどーすんだ、サナ」


 ラウドは細い目を精一杯開いて、サナと呼ばれた軍師を睨みつけた。

 そう言われて、サナティウス・ヴェンティは羽扇を弄びながら考えるような素振りを見せた。

 スーツで固めたラウドとは裏腹に、サナの衣服は全体的に白く、ゆったりとしている。分かりやすく言えば、魔術師が身に纏うローブだ。体型は、やはり中肉痩身。背丈はラウドと同じくらいだろう。黒髪の長髪で、頭のてっぺんをお団子にして纏めている。


「そうですねぇ、私なら……。まず、森を焼きます」


 裏表が無いと分かる屈託ない笑顔で、サナティウスはものすごく物騒なことを言ってのけた。


「……森を焼くってお前……。まさかとは思うが、全部か?」

「全部です。当たり前じゃないですか。その方が相手への威圧にもなりますし、攻めやすくなるでしょう?」


 至って真面目ですと言う顔をしながら、サナティウスはそう答えた。それに対し、ラウドはあからさまに肩を落とし、顔を抑えて深ーいため息をついた。そして、きょとんとしているサナティウスに声を荒げながら言い放つ。


「あのなぁ! 森を焼き尽くしちまったら、陥落させた後が大変になんだよ! 城壁からここまでぜーんぶ見えちまうんだ! がら空きだがら空き! せっかく天然の要害になってんだから、それは今後も活かすべきだろ!?」

「そうでしょうか……。むしろ見通しが良くなって逆に守りやすくなるのでは?」

「兵力がありゃあな! 統一国家に比べたらこっちはだいぶ少ないんだよ! ただっぴろい荒れ地を守るのには頭数が足りねぇんだよ! それに……!」

「そ、それに?」


 ラウドの怒号がようやく収まったところで、サナティウスはそう聞き返した。耳鳴りでもしているのだろうか。ポーカーフェイスの彼が珍しく顔をしかめながら耳を抑えている。


「……まだ確定情報じゃねぇが、どうやら森にいる魔物どもを操っている奴が、向こうにいるらしい」

「……だったら尚のこと焼き討ちしないと……」

「バーロー! 森の主まで敵に回してぇのかお前は!」


 ひとしきり叫んで、ラウドとサナティウスは再度地図とにらめっこを始めた。二人の唸り声だけが響く時間が数分経過し……。


「あ……! そうだ!」

「うわぁビックリした! なんか名案でも……」


 サナティウスが急に大声を上げた。それに驚いたラウドがサナティウスに視線を向けるが、その表情を見たラウドが顔を抑える。そしてまた、深ーいため息をつく。


「どうしましたラウド。あんまりため息をついていると、運が離れますよ?」

「……お前がそういう笑い方をする時は、ろくでもないイタズラを思いついた時って相場が決まってんだよ。ガキの頃からな」


 軍略会議用のテント内に、幼馴染同士の含み笑いとため息が響き渡った。



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