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それから

 やっと一限目の終了のチャイムが鳴った時、実習生の顔は汗だくになっていた。肩で息をしながら、帰っていく姿と、それを追いかけていく町子達の姿が目に入った。


 ちらっと町子がこちら…じゃなくて、メグの方を見た。


そして、フンと鼻を鳴らすと、教室から出ていった。


「まったく、何様のつもりよ」


 あたしの後ろに、メグが立っていた。


 あたしは振り返って、メグの顔を見上げた。


「大丈夫?何かメグを睨んでいたよ」


「まあ、何か仕返しでもしてくるんじゃない。別に、恐くないけど」


 メグは笑ってみせた。それから、ちょっと腕を組み、


「でもね。あの実習生の取り巻きの中に、サッカー部のマネージャーがいたのよね。もし、今の事が、高橋くんに言われて、気の強い女だと思われたら、どうしょう」


と身をくねって、悩む素振りを見せた。


「まあ…いいじゃない。本当の事なんだから」


 思わず、口に出してしまった。


「なんですって!睦美。あんた、あたしをそんな風に思っていたのね!ひ、ひどい」


 少し芝居がかっているメグ。


「そんな風じゃなくて、その通りでしょ」


「て、てめえ」


 メグは、あたしの首を絞めにかかる。


「ち、ちょっと、やめてよね」


 2人の笑い声が、教室に響いた。


 メグとじゃれあう内に、いつのまにか先程の嫌な予感を忘れてしまった。





 1日、1日…過ぎる日を考えるなんてことが、とても馬鹿らしく思える癖に、いつも最後の授業を告げるチャイムを聞くと、少し物悲しくなるのは、どうしてだろう。


 みんなは、今日1日の授業が終わったという解放感だけを楽しんでいるみたいだけど、毎日毎日早く終わることだけを望んでいる場所にいて、本当に楽しいのだろうか。


だけど、もし学校にいない子になったとしたら、それはただの落ちこぼれて、世間的には、おかしいだけの子になるのかな。


 あたしは学校が好き…。勉強も嫌いじゃない。友達だっている。


 それに今の自分がいることのできる…唯一存在することが許されている場所と、どこか感じているから。あたしは、ここで学生という存在でいることができる。


 できるだけ、もう少しだけでもそんな存在でいたいのに、終業のチャイムは、あたしをそんな場所から遠ざける。




 ガタガタ。


 忙しい音がして、教室全体が揺れていた。みんなが、帰る準備をしているからだ。早い子はもう鞄を持って、教室から出ようとしている。


 部活。すぐに家に帰る子。少し寄り道しょうかと考えている子…。


 放課後の過ごし方は、いろいろある。


「睦美。またいつものとこで、待っててね」


 メグがまだ完全にしまっていない鞄を両手で抱えながら、小走りに教室を出ていった。


 その様子を目で追っていたあたしの前を、町子を含む三人が横切っていった。


そして、メグが出ていった方とは反対方向に消えていった。


 少しおかしく思ったが、逆方向だったこともあって、あたしはあまり気にせずに、自分の机の上の教科書を片付けることにした。


「はあ〜」


 やっと片付け終わった時には、教室の中はあたし1人だけになっていた。


 結構…1人が好きな癖に、放課後の1人っきりだけは嫌いだった。


 今までいたたくさんの級友が全員いなくなって、静まり返った教室はまるで…。



 夕陽がいつのまにか、教室内を照らしていた。


 その妖しい光は、すべてのものが死んでしまって…そうこの世の終わりみたい。


 夕陽があたしの体も赤く染めた時、あたしはあたしじゃない存在に変わったような気がした。


だけど…どうしてだろう。今日の夕陽はなぜか…いつもより温かい。


「!」


 突然、誰かがあたしを見ているような感じがして、後ろを振り返った。


 誰もいない。


 誰もいない、誰もいない…。


 あたしは鞄を引っ掴むと、教室を飛び出した。


 廊下も真っ赤…。


 すべてが赤い中を、なんとかメグとの待ち合わせ場所まで走り抜けようとした。西校舎と東校舎をつなぐ渡り廊下を突っ切り、東校舎内をそのまま右に曲がれば、体育館への長い渡り廊下がある。そこが、待ち合わせ場所であった。


 東校舎から飛び出す扉を開け、渡り廊下に出ると、真上に一面の空が広がっていた。


 赤い空、赤みかかった雲。


そして、右側に広がるグラウンド。サッカー部が練習していた。


 いつもの場所。


 メグを待つ為に、いつもグラウンドを眺めているあたしの定位置。


 でも、そこには、彼がいた。



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