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2人だけのエデン

 夕陽が沈むと、勇気は旅立った。この時代の世界を見る為に。


 そして、後に生まれる子孫の為に。




 あの日から、三年の月日が流れた。


 あたしは、制服を脱ぎ捨て…1人の大人になっていた。




「可愛いなあ〜!睦美は!」


 成人式に出る為に、着物の着付けを終えたあたしは、鏡の前で全身のチェックをしていた。


 我ながら、赤い振り袖が似合っている。


「可愛い過ぎるよ」


 あたしの後ろで、涙を流しながら、頷いているのは…スーツ姿の森山である。


 高校を卒業してからも、腐れ縁のように付き合いは続いていた。


 女の子好きの森山が、いつもそばにいたから、あたしはあっち方面と思われているのか…変な男が寄って来なかった。


(結果的には、よかったのかな)


 複雑な思いを抱えているあたしに気付かず、


「可愛いい」


を連発する森山。


(し、仕方がないか)



「おい!遅いわよ。そこの怪しい関係の2人」


 美容院の外で待っていた太田が、痺れを切らして、中を覗き込んだ。


「ごめん!今いく!」


 あたしは、感動している森山を置いて、外に出た。


「遅れるわよ」


 1人さっさと前を歩く太田の後ろ姿を追いかけながら、あたしは思った。


(愛花は、憶えているのかな?)


 あの日、記憶を消すと言って…体育館裏から消えた太田。


 彼女に、未来の記憶が残っているのか。


 きくのも変だ。


 だから、あたしは未来の件には触れることはなかった。



「おい!待てよ!」


 美容院から、慌てて森山が飛び出してきた。




 成人式の会場まで走りながら、あたしは考えていた。


 本当は…着付けまでして、気合いを入れなくてもよかったのだけど。


 あたしは予感がしていた。


 世間がいう決まり事の大人ではなく、真実の大人になる日が近いと。


 勇気とは、あれから会っていなかった。


 だけど…あたしはつねに、勇気の存在を感じていた。


 彼を思えば、心が温かくなった。


 強く念じれば、会話もできたかもしれないけど…あたしはしなかった。


 どうしてかと言うと、彼が今、物凄いことをしているのが、無言でも感じられたからだ。




「は、は、は」


 息を切らし、振り袖を軽く振り回しながら走るあたしは、突然…足が軽くなった。


「む、睦美!?」


 あたしの下から、森山の声がした。


(え!下から)


 驚いたあたしが、足元を見ると、森山と太田が小さくなっていくのが、見えた。


「ええ!」


 あたしはいつのまにか、空を飛んでいた。


 眼下に広げる町が、豆粒くらいになった時、あたしの上で声がした。


「迎えに来たよ。睦美」


 あたしが顔を上げるより速く、声の主はあたしの目の前に現れた。


「勇気くん!」


 あたしの前で浮かんでいるのは、勇気だった。


 いつも…あなたは、いきなり。


 勇気の超能力で、あたしは空を飛んでいた。


 勇気が差し伸べた手を掴むと、あたし達は雲の中で、回転した。


 もう重力なんて、関係ない。


「今まで、どこにいたのよ!」


 二年前までは、こまめに訪れた場所の映像を、あたしの頭に送ってきていた。


 だけど、二年前からは、思念は感じられるけど、映像が送られることはなかった。


「ごめん、ごめん。少し遠くにいたから。それに、何もないところでさ…送る映像もなかったんだ」


「それでも!」


 あたしが何か言おうとしたら、勇気は唇でふさいだ。


「ず、ずるいよ」


 真っ赤になるあたしを見て、勇気は幸せそうに笑った。


「だけど、もうできたからさ」


 勇気はもう一度、キスをしてきた。


「もお〜」


 なんか…誤魔化されるような。


 勇気はあたしを抱き締めて、空から見える丸い地平線に目を細めた。


「俺は最初の一年…世界中をまわった。その結果、人間同士でもわかりあえずに、争っている光景を何度も目撃した」


 抱き締める腕に、力が入る。


「これから生まれる子供達やミュータントは、多分…相いれることはできない。この時代で、どんなに頑張っても」


 勇気とあたしの周りに、透明の球体ができると、側面が赤く燃えだした。


「だから、いずれ…時がもっともっと経ち、お互いを理解…いや、ミュータントが、対等に人間と対話できるまでの居場所をつくろうと思った」


 空を上がっていくあたし達のスピードは加速し、一気に大気圏を突破した。


 摩擦熱で燃えていた球体も、もとに戻った。


 空気の層から、宇宙へ…あたし達は飛び出した。


「えええ!」


 上も下も右も左もない…宇宙空間を飛んでいく2人。


「心配しないで」


 勇気に抱かれて、あたしは宇宙を飛んでいた。


「すぐに、着くから」


「ど、どこにいくのよ!」


 パニクるあたしの頭を撫でながら、勇気はさらっと言った。


「月」


「つ、月!?」


「ああ…俺達の居場所だ」


「ええ!」


 あの月ですか。 あたしは、目を丸くした。


 確かに顔を上げると、もう月が近付いてくる。


 地球の方が、遠いくらいだ。


(お母さん…ごめんなさい。娘は、月に嫁ぎます)


 さすがに、月は携帯…圏外だろうなあ。


 月対応なんて聞いたことがないし、パニクってるあたしの頭は、訳がわからんことを考えてしまう。


 そんなあたしに、勇気は笑いかけた。


「昔…ミュータントは一時期、月に住んでたのを思いだしたのさ。だから、月に住むことを決めたんだけど…酸素がなくって、苦労したよ」


 勇気は、思いだし笑いをした。


「だから、酸素発生装置やなんやらを、未来から送って貰ったんだ」


「未来から!?」


 驚くあたしに、勇気は頷いた。


「人間や動物は、リスクが高いけど…無機質なものは、時の流れに逆らっても、大丈夫なんだよ。だから、たまに遺跡から、オーパーツ…その地層からあり得ないものが見つかるだろ?」


 勇気は、あたしを抱きながら、一回転した。


 星が、目の中で回る。


「でもさ!睦美!」


 勇気は、あたしを少し離すと、顔を覗き込み、


「俺が、何かをやるたびに!未来が変わっていくんだよ!」


興奮気味に言った。


「出来上がった部屋を見てさ。どこかで、見たことあると思ったら!ミュータント博物館で見たんだと思い出した。だけど!」


 勇気は満面の笑顔になり、宇宙を見回した。


「よく考えたら、そんなのなかったのに…学校の遠足で見たと記憶があるんだよ。つまり、未来で生まれた俺が、そこに行ってるんだよ!今の俺が、つくった部屋を見てるのさ」


「?」


 あたしは、すぐには理解できなかった。


 首を捻るあたしの仕草に、勇気は微笑んだ。


 そして、あたしの両手を握り締めると、


「もうすぐ…俺の知ってる未来ではなくなる。ミュータントは月で生まれ…月で暮らすんだから」


 またキスをした。


「勇気…」


 どこか寂しそうな勇気の表情に気付いた。


 仕方ないことだけど、今を変えれば、未来が変わる。


 勇気が知っている思い出は、なくなるのだから。


「心配しないで」


 今度は、あたしが言った。


 あたしから、優しくキスをすると、笑顔を向けた。


「これから…2人で、最高の思い出をつくろうよ」


「睦美」


 涙を滲ませながら、あたしを見る勇気。


「これからは…あたし達のすべてが、変わらない思い出になるの」


 そんな勇気に、もう一度はあたしからキスをした。


「大好き」


「俺もだ」


 あたしと勇気は抱き合いながら、宇宙に浮かぶ月へと降下していった。


「行こう!睦美!」


「うん!」


 あたしは頷いた。


「2人だけのエデンへ」







「行ったわね」


 もう見えなくなっても、太田は空を見上げていた。


「ど、どうなってるんだ」


 頭を抱える森山に苦笑すると、太田は歩きだした。


「お幸せにね」


「ああ!ええ!」


 まだパニクってる森山に、少し歩いてから、太田は振り返り、睨み付けた。


「もたもたするんじゃないの!この足腰筋肉馬鹿!その足で、足手まといなら…死ね!」


 太田の剣幕に、森山はたじろいだ。


「でも…む、睦美があ!」


 まだうるさい森山に、頭に来た太田は駆け寄ると、鞄から小型の注射器を取りだし、目にも止まらない速さで森山の首筋に突き刺した。


「あ…」


 その場で崩れ落ちる森山。


 その注射器の中身は、記憶削除剤だった。


 倒れた森山を見下ろし、


「全部…消えたりは…しないよね」


少し心配になったけど、太田は肩をすくめ、


「まあ〜いいか」


気にしないことにした。


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