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出会い

 とっくの昔に、授業は終わっているし、部活の演劇部も今日はお休み。早く帰ってもよかったのだけど、なんか気持ちがはっきりしなくって、渡り廊下から運動場ではしゃぎ回るサッカー部の練習をぼおっと眺めていた。


 ボールが跳ね回り、まるで生きているように慌ただしく、本当に跳ね回る。それを追って、男の子達が走り回っている。土埃が舞い上がる。


 シュート。


 ボールがゴールネットに突き刺さる。


 あっと、思わず声が出た。


 その次の瞬間、シュートを決めた長身の男の子がこちらの方を振り返った。


 目が合ったかなと思ったけど、少し距離があいてるからわからない。


 確か…あの男の子は、親友のメグが好きだと言っていた同じ学年の子…。何組だったっけ。


 少し考えてもわからないから、考えるのをやめた。


 どうでもいいから…。


 でも、確かに…面食いのメグがいうだけあって、いけてる。


 うんうんと、思わず頷いてしまう。


 そして、そのまま鞄を持つ手で助走をつけて、渡り廊下から階段へダッシュした。


 階段を下りるあたしの頭にぽつんと、一粒の雨粒が落ちてきた。


 最後の2、3段を飛び越えて着地すると、空を見上げてみた。


 すべてが赤く染め上げる夕陽が眩しくて、雨雲なんて一つもない。


 もしあったとしても、すべてが真っ赤でわからなかった。


 1日は、昼と夜しかないという人もいるけど、夕陽は何になるのだろう。


 なぜすべてを…赤く染めるのだろうか。


 他の色じゃ駄目だったのかな。あたしだったら、何色に塗るのだろう。


 そうよ、多分…。


 神様は選ぶほど、絵の具を持ってなかったのかもしれない。


 歩きだしたあたしは、帰ろうとして、一歩を踏み出した。


 ポチャン。


 地面につこうとした足の爪先が、何かに触れた。


 水溜まり…。


 あたしは、そこに下り立った。周囲を見回すと、一面に小さな水溜まりが、たくさんできているのを確認できた。


(え…)


 思わず足を引っ込めてしまった。


 その動きが水面に、波を作りだした。


 広がっていく波紋。静かに、静かに…大きく、大きく。


 その先にあるだろうと思われる校門は、赤い夕陽の逆光の為に見ることはできない。


 沈もうとする太陽の最後の日差しは、目に痛い程赤く鋭かった。


 波紋が消えていく…。


 手をかざし、目を細めると、遠くに1人の少年が立っている姿が見えた。大きな黒い瞳に、軽くつむんだ唇が印象的で、あたしを射ぬくように見つめていた。



(誰…?)


 この学校の生徒じゃない。制服が違う。ここは、ブレザーだ。



 少年は、瞳と同じような黒い学生服を着ていた。


 少年の瞳が、あたしの瞳を見つめている。それからおもむろに、今までつむんでいた口をほぐし、少年は微笑んだ。


 微笑みが、あたしを包んだ。


 ビクっと思わず、身を震えさすあたしを見て、彼は手を差し伸べようと、一歩踏み出した。



(こっちに来るの…)


 あたしは彼の瞳から目を離さずに、ただそのままの姿で、凍りついてしまった。


 夕陽が沈んでいく。


 彼の瞳が近づいて来る。


 あたしは…。





「睦美!」


 後ろから、声をかけられた。


 バネでもついてるのかなと思う程の勢いで、あたしは振り返った。


「どうしたの。恐い顔して、何かあったの?」


 そこには、親友の相沢恵美が首を傾げながら、立っていた。


「メグ…」


 毎日見慣れたメグの顔を見て、あたしは呪縛が解けたように、体の緊張が解けていくのに気付いた。


 ちょっとふらっとしたあたしを、メグが両手で支えてくれた。


「ちょっとどうしたのよ!睦美。あんた、大丈夫なの!」


 あたしは首を軽く横に振ると、メグの手を取って微笑んだ。


「大丈夫…ちょっと目眩がしただけ…」


「校門の方を向いて、ぼおっと突っ立ってて変だよ。あんた」


 校門。メグの手から離れ、急いで振り返った。


「何もないじゃない…」


 メグは肩をすくめて見せた。


 いつのまにか夕陽は沈み、夜へと変わり始めていた。最後の光のまどろみがまだ少し、残っていた。


 赤い絵の具の上から、黒い絵の具が少しずつ水で薄められながら、何度も何度も空を覆うように、夜へと変わっていく。


 そんな空とは違い、校門や校舎…いつもの道は、見慣れた感覚を取り戻していった。


 水溜まりもなく…。





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