最後の選択
「馬鹿な…。こうも簡単」
白い装飾銃を見つめながら、ユウヤは立ち上がった。
「おのれえ!」
三人も立ち上がると、再び銃口を向け…撃った。
しかし、銃弾は勇気の前で、塵と化す。
「そ、そんな…」
唖然とする三人と違い、ユウヤは拍手した。
「さすがは、アダム!さすがは、竹内勇気!ミュータントの中でも、最強と言われることはある」
「竹内…勇気」
竹内…あたしと同じ名字。
あたしは呆然と、勇気の力強い後ろ姿を見つめた。
「そうか〜。もう通用しないんだったら、仕方がないな」
ユウヤは銃を見つめながら、ため息をつくと、銃口を三人に向けた。
「え!」
女の実習生は、目を丸くした。
そばにいた二人の仲間が一瞬にして撃たれ、消滅したからだ。
「役立たずは、いらない」
そして、彼女もまた…数秒後に、消滅した。
「え?」
あたしも目を丸くしていた。
ユウヤが消えたと思った瞬間、三人が消滅したからだ。
あたしの目では見ることができなかったけど、ユウヤは物凄い速さで動き、三人を撃ち殺したのだ。
「貴様!自分の部下を!」
簡単に仲間を殺したユウヤを、勇気は睨み付けた。
ユウヤは苦笑し、
「自分の部下?そんなものは、はいて捨てる程…未来にはいてね。あんまり価値はないよ」
銃を捨てた。
「それに…最初から、連れて来た者達は、始末するつもりだったんだ」
ユウヤの姿が…変わる。
「どうしてかって?この時にはね…。時祭家が、代々隠匿してきた秘密があるからだよ」
筋肉が盛り上がり、骨がみしみしと音を立てながら、強度の太さを増していく。
「それは、祖先が…ミュータントと同じということか?」
勇気は微動だもせず、体躯が二倍になったユウヤを見ていた。
「そうだ!お前達…ミュータントは、そう伝えているが!我々人間は、お前達の夜迷い言としているがな!真実は!」
ユウヤは瞬きの速さで、勇気の横に移動すると、倍になった拳を脇腹に叩き込んだ。
「お前達…ミュータントが正しい!」
にやりと唇が裂けたと思う程笑うユウヤ。
「勇気!」
勇気の体は、軽くふっ飛び、体育館の壁に激突した。
地面から三メートルくらいの位置で、壁にめり込んだ。
あたしは勇気のもとに駆け寄りたかったけど、そばに立つユウヤの迫力に動けなかった。
動けば、殺される。
足がすくむあたしを無視して、ユウヤは勇気に向かって、拳を突きだした。
「特異体質!僕の祖先達は、類い稀なる頭脳だけでなく、この肉体を使って、人類の頂点に立つことができたのさ」
「く」
壁にめり込んでいた勇気が、崩れた欠片とともに、地面へ着地した。
肩を押さえながらも、真っ直ぐに立つ勇気に、ユウヤは驚いた。
「ほお〜。普通の人間なら、一撃で致命傷になり…バリアを張っていない状態のミュータントならば!軽く死んでるはずだが?」
ユウヤは首を捻りながら、
「咄嗟に張ったのか」
勇気に近づいていく。
「貴様の目的は、なんだ?」
勇気は睨みながら、脇腹を確認した。
「ミュータントをなくす!それは、君と同じだ。一つ違うことは!」
ユウヤは拳を握りしめ、
「双子のうち…僕の祖先は生かし!人類の支配者として、育てあげる」
勇気に向かって、振り上げた。
「そんなこと…させるか!」
勇気も拳を握りしめると、光を纏ったパンチで、ユウヤの拳を迎え撃った。
「フン!」
ユウヤは、鼻を鳴らした。ユウヤの拳は、サイコキネッシスの光を破り、勇気の拳を砕いた。
「く!」
顔をしかめた勇気にできた隙を、ユウヤは見逃さなかった。
膝を、勇気の腹に叩き込んだのだ。
「うぐう!」
跳ね上がる勇気の体を、下半身を捻ったユウヤの裏拳がふっ飛ばす。
まるで、人形のように空中を飛んでいく勇気。
「ハハハ!」
ユウヤは笑い、
「僕達はこの力で、逆らう勢力を、皆殺しにしてきた。考えごらん!肉体的に劣る黄色人種の僕達が、どうして未来の支配者になれたと、思うんだい?」
勇気のあらゆる攻撃を避けた。
その反射神経は、人間を軽く凌駕していた。
次第に、ぼろぼろになっていく勇気に、あたしは何もできない。
「時の意思を発見した僕の祖先は、忌々しい竹内の名を捨て、時祭と名乗る事にした!」
ユウヤの単純な攻撃も、スピードとパワーがずば抜けている為、かわすことすら、困難になっていた。
「僕の祖先に粛正された者達は、皮肉を込めてこう言うよ…血祭とね」
「チッ」
勇気はテレポートすると、ユウヤの後ろに回り込み…手を突き出した。今まで見たことのない程、腕全体が黄金に輝き、光の砲台になる。
しかし、勇気は…撃たなかった。
「どうした?戦闘機すら、撃墜する…君の真の力ならば、この体も砕くことが、できようぞ!」
ユウヤはいやらしい笑みを浮かべると、両手を広げ、
「だだし!この学校の一帯は、吹き飛ぶだろうけどね!」
楽しそうに高笑いをしてから、ゆっくりと勇気に近づいていく。
「さっきのミュータントの女も、この学校に気を使わなかったら、死なずにすんだかもね」
(メグ!)
あたしの頭に、いっしょに学校ではしゃいだ日々がよみがえる。
そして、頭の中の映像が渦のようにごちゃごちゃになり…何もない空き地となった場所で、独り泣くあたしの映像が浮かぶ。
後悔の思いが、あたしを包んだ。
(あたしは...)
この映像の意味は、わからないけど、次の瞬間、あたしは駆け出していた。動かなかった足が、突然あたしを飛び出させた。
気付いた時には、あたしは勇気とユウヤの間に立っていた。
「もうやめて!」
あたしは勇気に背を向け、盾になるように両手を広げると、ユウヤに叫んだ。
(そうよ!)
やめさせないといけない。
なぜか…あたしに恐怖の感情はなかった。
あたしは、こうしたかったのだ。
ずっと…昔から。
しかし、そんなあたしの行動を、ユウヤはせせら笑った。
「無理だね。君らの命で、諦めるほど、安くはないのでね」
ユウヤの筋肉が躍動し、腕がさらに倍の太さになった。
「心配しなくていいよ。一部は、傷一つつけないからさ」
ユウヤはあたしの前に立つと、拳を振り上げた。
「さよなら…イブ」
あたしは、目をつぶった。
だけど、逃げなかった。
(もう駄目!)
死ぬだろうとも思った。
だけど、あたしを守ってくれたメグのことを思ったら…少しは強くなれた。
それに、今逃げたら、あたしは一生後悔する。
多分、生まれ変わっても。
「大丈夫」
そんなあたしに、優しい声が聞こえてきた。
「心配しないで…。大丈夫だから」
耳許で、勇気の声がした。
「あ…」
勇気の声を聞いた瞬間、あたしの力は抜けた。
恐怖感さえも。
あたしはゆっくりと、目を開いた。
「!!」
目の前に、巨大な拳があった。
「き、貴様!」
血管が浮き上がる程力を込めているユウヤの拳を、男にしては、か細い勇気の手が、受け止めていた。
「ば、馬鹿な!あり得ない」
思い切り力を込めても、ビクともしない自らの拳を見て、ユウヤは絶句した。
「少し考えていた…」
勇気は、あたしに囁くように言った。
「俺は…ミュータントの未来だけでなく、人間の未来にも、関係していたんだなと」
「勇気くん…」
後ろから、あたしの肩に片手を置く勇気に振り向いた。
「本当は…君には、見せたくないんだけどね」
勇気は、悲しげに微笑んだ。
「だけど、君が勇気をくれたから…。俺は、自分のすべてを受け入れる!」
ユウヤの拳を受け止める手に、力が入る。
「できれば…目をつぶってほしい」
勇気の願いに、あたしは頷くと…瞼を閉じた。
「ありがとう」
勇気も一度、目をつぶった後、一気に開けた。
と同時に、勇気の全身が盛り上がる。
「確かに…お前達は、俺の子孫だ!」
「そんなはずがあ!」
片手で弾き返された拳。
次の瞬間、勇気とユウヤの姿が消えた。
「え?」
逆に静かになった空気の中で、あたしは目を開けた。
「終わったよ」
あたしの目の前に、傷だらけになった勇気が、微笑んでいた。
前に突きだした拳の先で、消滅していく光が見えた。
「フゥ…」
軽く息を吐くと、勇気はあたしのもとへ戻ってきた。
「俺は、亜流…突然変異のミュータントなんだ。普通、肉体的にはひ弱なミュータントの中で、俺だけが人間を超えた肉体を持つことができたんだ」
勇気はため息をつき、
「だけど…姿が醜いから、あまり発動させないんだけど」
あたしに微笑んだ。
「君が、俺に…勇気をくれたから…本当の勇気を」
「ゆ、勇気くん!」
あたしは勇気に駆け寄り、抱きついた。
「終わったよ」
勇気は優しく、あたしの頭を撫でた。
「で、でも…メグが!」
安心すると、今度は涙が溢れて来て、悲しみがよみがえった。
「メグが!」
涙は、しばらく止まらなかった。
「心配しないで、大丈夫」
勇気はあたしの髪を撫でながら、空を見上げた。
「あいつも、言ってただろ…。未来で会えるって」
メグが生まれるのは、まだ五百年くらい…未来の話だからだ。
「ところで、質問があるんだけど」
突然、勇気は振り向くと、体育館裏の奥に話しかけた。
「俺は、この後…どうなる?未来の仲間達は、俺に教えてくれなかったからさ」
勇気の質問に、体育館の側面に身を潜めていた…太田が姿を現した。
バレていると思ってなかったから、少し顔を赤らめた太田は咳払いをした後、こたえた。
「記録には、残っていないわ。未来に帰ったという記述もなかったし…。ただ…この学校は、今月でなくなったとは、記録に残っているけど」
太田の言葉に、勇気ははっとすると…腕を押さえた。
そんな勇気に気付かずに、そこまで言ってから、太田も別の意味ではっとした。
「どうして、そんなことを私にきくのよ?仮にも、私は人間側よ。別に、あなたに教える義務はない」
いきなり、つんけんしだす太田。
勇気は腕を下げると、そんな太田に笑顔を向けた。
「あんた…混ざっているんだろ?つまり、あんたの何代か前に、人間とミュータントのハーフがいたな」
「なぜ…そう思った?」
顔をしかめると、太田は腕を組み、勇気に再び訊いた。
「簡単なことさ。監査員などと言っているが、自分の時代に戻れないような仕事をさせられるのは、ミュータントの血を引くものくらいだろ?」
勇気の言葉に、太田は鼻を鳴らした。
「もう五百年くらい前の話よ。でも、今の時からは、未来…」
太田は目を細め、
「まだミュータントと人間が、争う前の話。普通に、ミュータントと結ばれる人間もいたのよ」
肩をすくめた後、ため息をついた。
「だと言って…私は、超能力を使えない。なのに…ミュータントの血を引いているってだけでね」
苦笑すると、太田は…勇気とあたしに背を向けた。
「記録とは違い…あなた達は、すべてを知った。だから、運命は変わったわ」
そして、ゆっくりと歩き出した。
「どこにいくんだ?」
勇気は、太田を呼び止めた。
「フッ。どこにもいかないわよ。教室に戻るだけ…。その前に、記憶を消すわ。自分の未来の記憶を」
太田は立ち止まり、振り返った。
「だって…未来も変えるんでしょ?」
「ああ」
勇気が頷くと、太田は一瞬嬉しそうな表情を見せた後、再び前を向いて歩き出した。
もう…あたし達に振り返ることはなかった。
そ の頭脳と力で、人間の支配者になった…時祭家は、自らの治世の為に、ミュータントの存在を明かし、その危険性を鼓舞した。
その為、ミュータントと人類の長い争いが始まり、勇気は過去に来ることになった。
なぜ…時祭は同じ親から生まれたのに、ミュータントを迫害したのだろうか。
それは、彼らがミュータントの能力に目覚めず、彼らだけの力を持ってしまったからかもしれない。
人とも、ミュータントとも違うものを。
人は、同じ人間でも争うのに… 異なる力を得たり…違う容姿をした者とは、絶対に相いれないのかもしれない。
同じ人から、生まれたのに…。
だけど、まったく違う者が出会い…惹かれる時もある。
勇気と…あたしのように。
愛するという気持ち。
その気持ちが、運命も未来も変える。
絶対に。




