さよなら
「僕らには、時間はない。それなのに、君は昨日も何もしなかったしさ」
ユウヤは、引き金に指をかけながら、首を傾げ、口許を緩めた。
「さっさとここで、やってくれないかな?」
「何」
「それができなければ…君の精子と、彼女の…!!」
ユウヤは、最後まで言えなかった。
勇気の手から発生した風が、ユウヤを後ろに押し戻した。
「下衆な男だ」
勇気は、ユウヤに向かって、顔をしかめた。
「総統!」
三人の実習生が慌てて、ユウヤの背中に手を伸ばした。
「勇気くん!メグを助けて!あたしの親友なの」
あたしは、勇気の背中に手を触れた。
「わかってる」
勇気は頷いた。
ユウヤ達の向こうに、倒れているメグが見えた。
「まずは、こいつらを何とかする!」
勇気は一気に、四人を気絶させることを決めた。
右手が光り、サイコキネッシスを発動させようとした。
「僕を舐めやがって!ミュータントのくせに!」
後ろに下がったユウヤは、自分を支えてくれた三人を振り払うと肩を入れて、さらに銃を突きだした。
三人の実習生も頷き合うと、銃を構えた。
「勇気くん!」
あたしは、勇気の後ろに隠れた。
「心配しないで。たかが、銃くらい」
勇気の右手に宿った光が、円状の盾になった。
「馬鹿目!」
ユウヤは笑った。
四丁の銃の引き金は、一斉に弾かれた。
静かに、銃声が再び…体育館裏にこだました。
「まったく…あんた達は、いつも…」
あたしと勇気の前に、メグが立っていた。
「肝心な時に、駄目なんだから…」
メグの張ったバリアを貫通して、四発の銃弾は…すべて命中していた。
メグの全身に。
「メグ!」
着ていたブレザーを真っ赤に染めて、後ろに倒れるメグを、勇気が受け止めた。
「どうしても…」
驚く勇気に顔を向けて、メグは笑った。
「あいつらの銃は、新型よ。サイコキネッシスの壁を突き破る…。だから、あたしもさっき…」
「くそ!」
ユウヤは、盾になったメグの体を見て、顔を逸らした。
「どうして…」
次々に起こる…信じられない出来事に、あたしは口を手で覆った。そんなあたしに向かって、メグは手を伸ばした。
「睦美」
メグは、勇気の胸にもたれながら、後ろ手であたしの腕を握った。
「本当は…あなたに、言わなければいけないことがある」
「メグ」
「一年前…あたしから、あんたに話しかけたのには、意味があったの…。あ、あたしは…ウグ!」
メグの口から、血が流れた。
「メグ!」
「睦美!」
動揺するあたしの腕を、しっかりと掴み…メグは言葉を続けた。
「あたしは、本当の好きな人がいたの!それが、勇気!」
「え?」
「だけど…それは、一年後に、やってくる人。出会った頃のあんたは、知らない」
メグは悲しく…微笑んだ。
「だけど!あたしは、知っていた。あんたは…勇気と出会い!恋をして!彼の子供を産む!そ、それが、あたし達…ミュータントの運命……だけど!」
メグの瞳から、最後の涙が流れた。
「許せなかった!好きな人が、他の女と結ばれるのが…運命だなんて!だから、だから!運命を変えたかった…」
メグは、勇気の胸の中で反転し、あたしの顔を見た。
「なのに!」
メグの顔は、涙でぐちゃぐちゃになっていた。
「なのに…あんたとの一年…楽しかった。人間の友達なんて…初めてできたから…。あんたが!あたし達…ミュータントの運命の女でなかったら…どんなによかったか…どんなに…」
「メグ…」
「睦美…ごめんね」
メグはそう言うと、その場でゆっくりと崩れ落ちていく。
「恵美!」
勇気が、メグを受け止めた。
「勇気…」
メグは、勇気の腕にもたれながら、微笑んだ。
潤んだ目で、勇気を見上げ、
「あんたには、さよならは言わない。未来で…また会いましょう」
最後の力を振り絞って、メグは手を伸ばし、勇気の頬に触れようとした。
「だけど…今度は…せめて…あたしと少しは…」
メグの言葉は、最後まで発することはできなかった。
「メグ!」
勇気の腕の中で、メグの体は消滅した。
その最後は、まるで…メグという人間がいなかったと思わすように、あっさりと…消えた。
そんなメグの最後を見て、あたしはその場で泣き崩れた。
「メグ!メグ!メグ!」
メグの消えた空間に向かって、叫び続けるあたしを、ユウヤはせせら笑った。
「ミュータントと人間…くだらない友情ごっこは、見飽きたよ」
あたしは、そんなことを言うユウヤを睨み付けた。
「友情ごっこじゃない!メグは、あたしの親友だった!それなのに!許さない!」
「フン!」
ユウヤは鼻を鳴らすと、あたしに銃口を向けた。
「ミュータントの子を産むしか価値のない女が、僕に向かって許さないだと!」
あたしは、銃口を向けられても、ユウヤから目をそらさない。
「馬鹿な女だ。自分がイブだから、撃たないと思っているのか?貴様など、卵巣以外に価値などない」
ユウヤは引き金に指をかけ、
「そこだけ、摘出すれば…子供はつくれる」
撃とうとした時、勇気が間に割って入った。
「貴様!」
ユウヤが、勇気を睨んだ。
残りの三人も、銃口を向けた。
「まだ理解していないのかい?この銃の前では、超能力は無力だ」
ユウヤは、片方の肩をすくめて見せた。
「そう…さっきまではな」
勇気も腕を突きだした。
「何のつもりだい?」
ユウヤは笑った。
勇気は無表情になり、こう言い放った。
「撃ってみろ」
「はあ〜!」
勇気の言葉に、ユウヤは片眉を跳ね上げた。
「な、舐めるなよ!小僧!」
ユウヤは、引き金を弾いた。
「望み通り!蜂の巣になりな!」
ユウヤの銃から、少し遅れて三人の銃から、銃弾が発射した。
「勇気くん!」
あたしは叫んだ。
「大丈夫」
勇気は、前方を睨んだ。
「な!」
ユウヤ達は、勇気の手から放れたサイコキネッシスによって、後ろにふっ飛んだ。
「ば、馬鹿な…」
激しく背中から、地面に強打したユウヤ達。
「勇気くん」
あたしの顔が、笑顔になった。
勇気に向かって放たれた銃弾は、空中で止まっていた。
そして、塵になって消えた。
勇気は、倒れたユウヤ達を見下ろしながら、腕を下げた。
「お前達が、兵器を進化させる度に…俺達ミュータントは、能力を進化させてきた。悲しいいたちごっこだ」




