運命の刻
いつもと変わらない日常。
高橋は別のクラスだから、どうなったかはわからないけど…町子達はちゃんと授業に出ていた。
勇気が記憶を消した為、昨日の詳しいことは覚えていないようだけど、病院に運ばれた高橋のことを心配していた。
(本当に…好きなんだな)
あたしはそんな町子を見て、そう思った。
昨日のことがあったから、高橋のことは好きにはなれないけど、町子がいれば、彼も大丈夫だろうと…少しほっとした。
でも…そんなことより、心配のことがあった。
メグが来ていない。
いや…正確には、学校には来ていた。
勇気に気を探られないように力を抑え、メグは体育館の裏にいた。
息を潜め、体の中で、力を溜めていた。
「あたしが…この世界で、ミュータントのイブになればいい。そうすれば、すべての運命は変わるけど…ミュータントは生まれる!」
その為には…。
メグが一限目の授業の終了を告げるチャイムとともに、携帯を開いた。
「睦美…」
素早くメールを打つ。
携帯を閉じた瞬間、メグの体が跳ね上がった。
「な」
メグの胸の辺りから、血が飛び散った。
「すいませんねえ」
体育館裏に、飛び込んできた五つの影。
「あなたが、イブになられては困るんですよ。僕的にはね」
銃を構える四人の間から、前に出たでのは、ユウヤだった。
「時祭!」
撃たれた傷口を押さえながら、苦々しくメグはユウヤを睨んだ。
「あなたの役目は、終わりましたよ。アダムとイブを深く結びつけるという…役目はね」
ユウヤも、銃を構えた。
白銀の銃身に、豪華な装飾を施された銃。
「終わりです」
ユウヤはにやりと笑った。
「なめるな!」
メグは右手を突きだし、サイコキネッシスを放った。
静かな銃声が、体育館の裏でこだました。
「まったく!何なのよ!」
メグからメールを受信したあたしは、毒づきながらも、体育館裏に走っていた。
「学校に来てるんだったら、教室に来なさいって!」
メグには、言わなくちゃいけないことがある。
あたしは、好きな人がいる。
だから、高橋君とはどうすることもない。だから、ギクシャクした二人の関係をもとに戻したかった。
いつもの二人に。
この学校に来て、一番仲良くなったのは、メグだった。
メグだったら、学校を卒業しても、親友でいれる。
そう思っていた。
「メグ!」
あたしは、体育館裏に飛び込んだ。
「え!」
その場にいないと聞こえない程小さな銃声がして、メグの体がふっ飛んだ。
「メグ!」
メグとあたしの間には、五人の男女がいた。
皆…スーツを着ていたから、生徒ではない。
あたしの声に反応して、一番後ろにいた女が振り返り、銃口を向けると同時に発砲した。
「チッ」
一番前にいたユウヤが振り向くと、あたしを見て舌打ちした。
「え…」
コンマ零秒の世界。
普通なら、即死だっただろう。
なぜなら、銃弾は…あたしのこめかみ辺りを通過したのだから。
「貴様!」
ユウヤは銃口を、あたしに向けて発砲した女に向けた。
「彼女が、死んでいたら!どうするつもりだ!」
顔をひきつらせ、ユウヤは引き金を弾いた。
後ろを向いていた女の後頭部が、破裂した。
即死だった。
「見るな!」
突然横合いから、あたしを押し倒した男が、あたしの目を手でふさいだ。
声だけでわかった。
「勇気くん!」
「何とか…間に合ったよ」
勇気は、あたしを抱き抱えながら、立ち上がった。
「これは〜これは〜」
勇気を見て、ユウヤは笑顔を向けた。
ユウヤに撃たれた女は、地面に倒れた瞬間、消滅した。
「イブに、アダム!お揃いで」
ユウヤは銃口を下ろすと、慇懃無礼に頭を下げた。
「お前が…時祭か」
勇気は、あたしの目をおおっていた手を外した。
恐る恐る目を開けて、あたしは前を見た。
死 体が、転がっているはずだったが、どこにもなかった。
「え?」
驚くあたしに、勇気が言った。
「未来から来た者が、この時間で死んだ場合…無に帰る。なぜならば、生まれたのは、未来。時の粒子の流れに、そっていない」
「そう!自らの意志を強く持ち、己を保つか!それとも、未来の記憶を捨て、この時代にのまれて、生きていくか!その二つしか、過去にいれる方法はないのだよ」
ユウヤは、残りの三人を押し退けて、あたし達の前に来た。
「時も意思を持っている。我々のような心ではないけど。過去から、未来に流れていくという意思」
勇気はそこまで言うと、ユウヤを睨んだ。
「その意思に気づいたのが…お前の祖先」
「それは、君の子供でもある」
「!?」
驚いた顔をする勇気に、ユウヤは笑った。
「おやおや〜。知らなかったとでもいうのかい?ハハハ!鈍感だな…アダムは!」
高笑いをするユウヤを睨みながら、勇気はあたしを離すと、自分の後ろに誘った。
「大丈夫…」
小声で、あたしに向かって呟いた。
「君は…イブである彼女の出会いを邪魔しに来た。なぜならば…彼女は、この時間にアダムと出会い…結ばれ、子供を産む!」
ユウヤは再び、銃口を上げた。
「その子供の一人が、ミュータントだからだ!」
興奮気味のユウヤを、勇気は唇を噛み締めた。
そんな勇気を見て、ユウヤは鼻を鳴らした。
「フン!まだわからないのかな?」
そして、一歩前に出た。銃口が妖しく光った。
「この時期に、彼女が出会ったのは…君だけだろ?」
引き金に指をかけながら、
「君がアダムだ!」
ユウヤは楽しそうに笑った。
「つまり…ミュータントは、突然変異で生まれた訳ではない。君の子どもだから、ミュータントになるのは、当然だろ?」
「勇気くん…」
あたしは気付いていたけど、鈍感な勇気は…。
心配そうに後ろから、勇気の顔を見上げた。
「そうか…」
勇気は呟いたけど、あまりショックを受けていないようだった。
「だとしても…俺は、運命を変える!」
勇気は一呼吸を置くと、あたしを庇いながら、一歩前に出た。
「残念だけど…」
ユウヤは銃口を突き出した。
「運命を変えるのは、君じゃなく…僕だ」




