未来と今と...この気持ち
「…で、彼らはまだ…結ばれていないと」
「はい」
廊下を歩くユウヤに、実習生の女が報告していた。
「困ったな」
未来から来たユウヤ達は、受精反応がわかる装置を持って来ていた。
それにまだ…反応がない。
学校で反応があるのが、おかしいんだけど、記録では…竹内睦美は妊娠することになっていた。
妊娠しなければいけないのだ。
「しかし、時祭様」
後ろを歩く実習生の1人が、きいた。
「何かな?」
実習生達は、期間中…別室を用意されていた。授業があるまでは、そこで皆、待機していたのだ。始業のチャイムとともに、職員室に向かうのだ。
「ミュータントの男が、竹内睦美と結ばれなくて、彼がこのまま未来に帰れば…ミュータントは、滅びるのではないですか?彼に真実を告げさえすれば」
そこまで、話した女は…振り向いたユウヤの眼光の冷たさに、凍りついた。
「余計なことは、考えるな。君達は、僕の思惑通りに動いたら、いいのだよ」
ユウヤの言葉に、
「は!」
歩きながら、実習生達は頭を下げた。
そんな実習生達の行動に、ユウヤは鼻を鳴らした。
「おかしいでしょ?歩きながら、頭を下げるなんて」
「申し訳ございません」
謝る実習生達から、ユウヤは視線を外すと、
「君達はもういいよ。未来に帰るまで、話しかけないでくれたまえ」
もう口をきくことはなかった。
「ふわあ〜」
教室の自分の席に座ると、あたしは大欠伸をした。
橋の下で、少しは寝たとはいえ…寝不足である。
家には、メグの家に泊まったと連絡はしていたけど、そのまま学校に来ると、少し後ろめたかった。
「よお!睦美!おはよう!」
妙に元気よく挨拶してきたのは、森山である。
「おはよう…」
あまり元気のないあたしの肩を、森山は叩き、
「朝の元気は、すべてのもとだぞ!」
と言って、笑った。
「おはよう」
森山の後ろから、太田が挨拶した。
「おはよう」
さっきよりは、元気よく挨拶してみた。
「?」
なぜか…太田の目が、あたしを探るように見ているような気がした。
だけど、太田はすぐに笑顔になると、
「朝から元気過ぎるのは、馬鹿の証拠だから、真似しなくていいのよ」
いつもの毒舌キャラに戻った。
「ひどい!愛花〜!」
少し涙目になる森山を無視して、自分の席に向かった太田は、首を傾げた。
「うん?」
近づくまで見えなかったものが、机の上に突然現れたからだ。
太田の目の色が、変わった。さっとそれを掴むと、鞄だけ置いて、教室から出ていった。
「あ、愛花?」
いつも落ち着いている太田が、少し急いでいるように飛び出していった。そんな彼女の後ろ姿を見送って、森山は首を傾げた。
「トイレか?」
勿論、太田が向かった場所は、トイレではない。
鉄製のドアを開け、朝の日差しが眩しい屋上へと、太田は飛び込んだ。
「あたしを呼び出すなんて…何の用かしら?」
少し目を細めた太田の目の前に、空中から、勇気が下り立った。
「君にききたいことがある」
勇気は、太田の目を見つめた。
「監査員である君は、本当なら…俺と同時に、この時代に来てもいいはずだ。なのに、君は…」
「あら。それだったら、あなたの知り合いのミュータントも、同じことが言えるじゃないの?」
勇気の話の途中で、腕を組んだ太田が逆に訊いた。
「あ、あいつは…」
口ごもる勇気を見て、太田はため息をついた。
「ほんと…あなたは似てるわね」
太田は顔をしかめた。
「時祭総統に」
「時祭…!そうだ!時祭だ!」
勇気は、興奮気味に叫んだ。
「俺達の記録では、ミュータントの始祖の名字は、時祭のはずだ!なのに、彼女は、竹内だった」
勇気の言葉に、太田は眉を寄せた後、肩をすくめた。
「どうしてかしらね。私達の時間では、あなた方とこうして、話す機会なんて絶対にないのにね」
それから、少し考えた後、太田はおもむろに、話し出した。
「あなたの疑問は…なぜ、ミュータントと人が争うかという根源にぶつかるわ。そして、真実は人間側でも一部の者しか知らない」
「それは…」
勇気はもう少しで…答えが導かれそうな感じがした。
考え込む勇気を見て、太田はこめかみに指を当てた。
「そうだったわね。あなた方ミュータントの中では、普通に事実として伝えられていること…。ただ…人間が認めていないこと。禁句となっていること」
「そうか!」
勇気は理解した。
太田は、腕を組み直した。
「俺達の歴史は、こう言っている。俺達ミュータントを産んだ女性は、同時にもう1人の子供を産んだ」
「そうよ。それこそが…」
太田は周囲を確認した後、
「私達の世界で、人間の頂点に立つ…時祭家」
歴史の裏側を口にした。
「時祭家は、数多くのことを発見、発明したわ。その中でも、彼らの地位を安定させたのは…タイムトラベル。過去にいける方法を見つけたこと」
時祭家の始祖である…双子の片割れは、ミュータントではなかったが、類いまれなる頭脳と肉体を持ち、後に人類の指導者にまで上り詰める。
「彼の偉業は知っている。だから、彼の母親である彼女の名字は、時祭だと思ったのだけど…」
首を傾げる勇気を、太田は目を細めて見つめた。悩む勇気に、太田は背を向けた。
「ミュータントであるあなたに話せるのは、ここまでよ」
屋上から出ていこうとする太田を、勇気は慌てて止めた。
「待って!君の目的は」
「まったく…」
太田はドアノブに手をかけながら、振り返ることなく話し出した。
「私は監査員…。本当ならば、平等でなければならない。だけど…少し平等でない私への罰として、教えてあげる」
太田はドアノブを握りしめ、
「私は、あなたが未来を変えた後、ある人物を支援し…人類のリーダーにすることを依頼されているの」
ゆっくりと、ドアノブを回した。
「その依頼者は、グローバル家よ」
「!?」
勇気は、その名に息を飲んだ。
「…人類も、一枚岩ではないのよ」
そう言うと、太田はドアの中に消えた。
鉄製のドアが閉まる音を聞きながら、勇気は顎に手を当てて考え込んだ。
グローバル家。
圧倒的な力を持つ時祭家に次ぐ…名家。ミュータントと人類の争いの歴史上…何度か表舞台に出てきており、 ミュータントとの共存を主張していた。
しかし、彼らの言葉にのったミュータント側は、月の住み処を失ってしまった。
こちらに、いい顔をしながら…単に、時祭家から政権を奪うことだけを考えている…者達。
「そうか!」
勇気は理解した。
つまり…自分が運命を変えれば、時祭家の先祖は産まれない。
だとすれば…未来の知識を持つ太田が、サポートする者を、自分達の世界の支配者にさせることができるかもしれない。
(そうなれば…未来は変わる)
しかも、その未来に、ミュータントはいない。
(だからと言って…関係ないと無視していいのだろうか?)
勇気は、空を見上げた。
単純に、ミュータントを存在を消したら、争いはなくなると思っていた。
それなのに…。
「綺麗な空…」
勇気は感嘆した。
未来で戦士として、人類の戦闘機と空中戦を行った空は、汚れていた。
視線を水平に持ってくると、四方に広がる…人工物。
そのすべてに、人がいる。
しかし、未来は…人工物がほとんどない。
生き残る為と、人類もミュータントも、あるものはすべて破壊した。
(この時代も世界は、まとまってはいないと聞いている)
それなのに、未来より平和そうだ。
(やはり…ミュータントが産まれたから、争いが生まれたのか?)
勇気は、自分の手を見た。
その手で、何人の人を殺したことか…。
「ああ…」
自らの手を見つめながら、勇気はそのまま…崩れ落ち、頭を抱えた。
「そうなんだ…」
勇気は気づいた。ミュータントを消したい。そう思った自分の理由を…。
(俺はあまりに殺し過ぎた自分を…消したかったんだ)
家族を殺された勇気は鬼神の如く、人間を殺した。
なぜならば、彼らが鬼畜だからだ。
戦士として、1人で人間の街を消し去った時、炎の中で瓦礫に立ち、歓喜の表情を浮かべていた…勇気は見た。
自分が破壊したビルに下敷きになり、死んだ人間の家族を…。
そのそばで泣く…男の子を。
「お父さん!お母さん!」
死体にすがりつく…男の子。
顔を上げ、勇気を睨む目が…自分の幼い頃と重なった。
その日初めて、勇気は嗚咽した。
自分の行動は、新しい自分を、自分のような子供を生むだけだと。
勇気は、その日から、自分の存在を否定した。
その思いの果てが、ここにある。
だけど。
(俺がやろうとしてることは…正しいのか?)
ミュータントの存在を消すことが、いいのか。
それは、単なる…自分だけのエゴではないのか。
勇気は初めて、自分自身に疑問を覚えた。




