彼といる時間
何とか勇気を、橋の下まで移動させることができた。
橋の下は影になっており、街灯の届かない川辺でも、さらに暗い場所だった。
あたしは、勇気と密着すると、彼の上着を2人の肩にかけ、コンクリートの壁にもたれ、座った。本当は、家に帰らないといけないけど、勇気をほっておくことはできなかった。
しばらくすると、町子達が目を覚ました。
「高橋くん!」
町子はすぐに倒れている高橋に気づくと、慌てて駆け寄った。
町子以外の女の子が、携帯で呼んだのだろう。
しばらくすると、土手に救急車がやっと来て、担架で運ばれる高橋の姿が見えた。
そんな出来事も、あたしには、遠い世界のことのように思えた。ただ自分にもたれかかる勇気の重さと、温かさだけが…今のあたしのリアルだった。
早いようで、長いような時間が過ぎ、いつのまにか…あたしも寝てしまった。
次に目覚めたのは、昇った朝日が川の向こうから、橋の下に射し込んだ時だった。
横からの日射しの眩しさに、目を開けた時、あたしの目の前だけが暗かった。
あたし達の前に、誰かが立っていたからだ。
その人の影が、あたしの顔を上げた瞬間、あたしの視界を遮った。
「!?」
やがて、慣れてくる目と目覚めていく頭が、目の前に立つ人物を認識させた。
「メグ?」
あたしと勇気の前に立っていたのは、メグだった。
「おはよう」
メグはあたしを見下ろしながら、呟くように言った。
「おはよう」
逆光の為、はっきりとメグの顔は見えなかった。
だけど、メグの視線があたしより、隣で眠る勇気に向けられているのが、わかった。
「あっ!あのね〜」
はっとして、何とか言い訳をしょうとするけど、どう説明していいのかわからない。
軽くパニックるあたしを無視するように、メグは顔をあたし達からそらすと、歩き出した。
「め、メグ?」
メグは足を止めることなく、橋の下から出ていく。
「メグ!」
あたしが叫ぶと、メグはやっと足を止めた。
だけど、振り向くことなく、
「まだ…時間はあるけど…学校遅れないでね」
それだけ言うと、土手を上がっていた。
「メグ!」
立ち上がって、追いかけようとしたけど、あたしの肩に寄りかかる勇気の存在を思い出した。
「ううう…」
軽く寝返りをうつ勇気を起こす訳には、いかなかった。あたしはただ…遠ざかるメグの姿を見送った。
土手を上がると、歩道はすぐである。らに橋を渡ると、学校も近い。
「どうでしたか?君達のアダムとイブの様子は」
メグを待っていたように、歩道の上にユウヤがいた。
「…」
メグは、ちらっとだけユウヤを見ると、 無表情のまま横を通り過ぎた。
そんなメグの反応に、楽しそうにニヤリと笑うと、ユウヤは振り返った。
「愛する男が、他の女と一夜をともにした。その現場を生で見て、どうでしたか?――ハハハ!」
高笑いすると、そのまま言葉を続けた。
「だけど!これは、決まっていたことだ。あなたが、どんなに策を練ろうが、運命を変えられない」
「…」
メグは決して振り返ることなく、見えないように唇だけを噛みしめながら、歩き続けた。
「せっかく、時をこえて来たのにね。残念だ」
その言葉に、メグは足だけを止めた。
深呼吸した後、
「先生」
「何かな?」
改まった感じのするメグの口調に、ユウヤは笑みを止めた。
少し間をあけてから、メグは口元に微笑をたたえながら、言った。
「あまり寄り道ばかりしていますと、学校に遅れますよ」
その言葉に、ユウヤは片眉を上げ、
「心配してくれて、ありがとう」
メグの背中に軽く頭を下げた。
そして、頭を上げた時には、メグの姿は歩道から消えていた。
ユウヤは舌打ちすると、周囲を確認してから、毒づいた。
「たかが…ミュータントごときが、舐めよって」
ユウヤは前方を睨みながら、歩き出した。
「いくぞ」
すると、川と反対側の草むらから、銃を構えた実習生達が出てきた。
彼らは、ユウヤの後について、歩き出した。
「メグ…」
あたしは、勇気の呼吸を感じながら、目をつぶった。
あの子を探しに来たのに…あたしは勇気といた。
あの子に、高橋くんのことを言われたのに、あたしは勇気といる。
だけど、後ろめたい気持ちはなかった。
それが、あたしの答えだから。
今日、学校に行ったら、 メグに伝えよう…すべてを。
あたしに、好きな人ができたことを。
その人は…普通じゃないけど、大好きなんだと。
そうメグに伝えたかった。
朝焼けが少し落ち着くと、またあたしはうとうとと…眠りに入ってしまった。
それから数分後、勇気が目を覚ました。
「ここは…?」
勇気は場所を確認するよりも早く、隣にあたしがいることに驚いた。
思わず飛び上がりかけたけど、あたしが寝ていることに気づくと、勇気はそっと立ち上がった。
「情けない…」
勇気は拳を握りしめると、力を確認した。
フル回復はしていないが、超能力は使えそうだ。
勇気は、橋の下で壁にもたれ眠るあたしに頭を下げた。
そして、しゃがむと、2人で使っていた上着をあたしにかけ直した。
「こんなはずじゃなかっんだけど」
勇気は、あたしの寝顔を見つめながら 、
「こんな危険な目に、会わすはずもなかったのに」
わなわなと体を振るわせた。
「ごめん」
勇気はまた…頭を下げた。
ゆっくりと頭を上げると、勇気はあたしに背を向けて、歩き出そうとした。
「ああ、あのお〜」
あたしは目を開けて、慌てて勇気に声をかけた。
本当は、少し前から目を覚ましていたんだけど、あたしに頭を下げる勇気の言葉に、目を開けるタイミングがわからなかったのだ。
だけど、絶対に伝えなればならないことがあった。
「あ、あたし!」
あたしは立ち上がった。
勇気は驚きながら、振り返った。
「あ、あ、ありがとう!いつも助けてくれて」
そうよ。 勇気は、何度もあたしを助けてくれた。
それなのに、謝るなんて…。あたしには、感謝しかない。
「ありがとう!本当にありがとう…」
その気持ちを伝えたくって何度も、何度も、あたしは言った。
「ありがとう…」
そう言いながら、あたしの目に涙が滲んできた。
感謝の気持ちと…もしかしたら、あたしのせいで、勇気を危険にしてるんじゃないかという思いが、涙となって、あたしの頬に流れた。
その涙を見て、勇気はとても驚きながらも、あたしに近づき、ズボンのポケットからハンカチを取り出した。
そして、あたしの涙を拭ってくれた。
「俺の方こそ、ありがとう」
「あ…」
お礼を言われると、また涙が溢れてきた。
そんなあたしに、少し困ったような顔をした勇気。
「ごめんなさい」
あたしは、勇気から少し離れた。
そして、指で涙を拭った。ハンカチを出す余裕なんてなかった。
そんなあたしに、勇気は微笑んだ。
無理矢理かもしれないけど、優しい勇気の微笑みに、あたしは心を奪われた。
しばらく勇気を見つめてしまうあたしと、そんなあたしを見守る勇気。
無言の時が、朝の清々しい空気の中で流れていった。
今…何時かはわからない。
携帯で確認したらいいんだけど、そんな余裕もない。
多分7時くらいだろうか。
橋の上を行き交う車の数が、増えてきた。
橋の下は、静寂から程遠くなってきた。
だけど、そんな喧騒も、あたしの耳には入らない。
勇気の目を見つめながら、あたしは少しずつ、勇気に聞かなければならないことがあることに、気づいた。
あたしは、緊張しドキドキしている鼓動をおさえて、勇気に向かって、口を開いた。
「あなたに、ききたいことがあります」
あたしはぎゅっと胸を握りしめ、一度唇をきゅっと引き締めた後、
「高橋くんが言った…運命って、何です。あなたが、ミュータントという超能力者だということは、わかりました。だけど!」
あたしは声を荒げた。
「あなたはどうして、あたしを助けてくれるんですか?あなたは、一体…どこから来たのですか?」
あたしの質問に、勇気は目を瞑り…少しだけ考え込んだ後、おもむろに口を開いた。
「俺は…」
一度言葉を切った後、真実を告げた。
「未来から来た。君の運命を変える為に」




