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生誕

「高橋くん。ごめん!」


 あたしは土手を下りると、高橋のもとに駆け寄った。


 本当なら、話しにくい相手なんだけど…今は、メグのことがあるから、そんなことを気にしてる場合ではない。


「メグは、ここからどっちに行ったの?」


「…」


 あたしが声をかけても、高橋はこたえない。少し俯いている為、高橋の表情がわからない。


「高橋くん?」


 あたしは訝しげに、高橋の顔を覗き込もうとした。


 すると、高橋はいきなり顔を上げ、あたしを見つめた。


「え」


 その眼光の鋭さに、あたしが思わずたじろいだ瞬間、あたしの体は金縛りにあったように動けなくなった。


「ええ!」


 あたしは、指一本も動くことのできない状況よりも、あたしを見つめる高橋の目に息を飲んでいた。街灯のあたらない…月明かりだけの川辺で、赤く燃えるような瞳。


(普通の人間じゃない?)


 その感覚は、昨日までの高橋にはなかったものだった。


 高橋は、動けないあたしに向かって、手を差し伸べた。


「君は、もう…知ってるはずだ。僕の気持ちを」


 そして、ゆっくりと近づいてくる。


「い」


 高橋の手が、あたしの顎先に伸びてくる。


「いや…」


 あたしの顎に手をかけた高橋は、笑った。


「何が嫌なんだい?僕達の運命は、決まってるのに」


「う、運命?」


「そう」


 高橋は頷いた。


「運命って、何よ!そ、それに、メグを探さないと」


 あたしは何とか動こうとするが、びくともしない。


 もがくあたしを見て、高橋は苦笑した。


「心配することはないよ」


 高橋は、抵抗できないあたしの顎を上げた。


「彼女も了承済みだよ。今から、君と結ばれることに!」


 高橋の目が光ると、あたしの着ていた制服が破れた。


「え!」


 下着をさらしたあたしの姿を見て、高橋は口元を緩め、


「これくらいで、驚いて貰っては困るな」


 ゆっくりと、顔を近づけてきた。


「もっと…凄いことをするんだから」


「高橋くん!」


 あたしの唇が奪われる寸前、川沿いに生える草むらから、町子とその取り巻き2人が、姿を現した。


「どうして!」


 涙を浮かべている町子が叫んだ。


彼女達は全裸であり、破れた上着で、前を隠していた。


 放課後…正門の近くで、高橋とメグを待ち伏せし、後をつけた彼女達は…ミュータントにさせられた高橋に襲われたのだ。


「あたし達を弄んで!」


 涙が溢れた町子の叫びに、高橋は鼻で笑い、


「フッ」


冷たい視線を向けた。


「お前達は、彼女の為の予行練習に過ぎない」


 高橋の言葉に、町子達はその場で腰が抜けたように、崩れ落ちた。


「我らミュータントの未来の為だ!光栄に思え」


 高橋は、町子達に向かって手を向けた。


「ああああ!」


 突然、町子達の頭が、小刻みに揺れだした。


 まるで、ミキサーにかけられているかのように。


「ひどい…」


 やがて、目を回しながら、地面に頭から倒れた町子達を見て、あたしは何とか動く目だけで、高橋を睨んだ。


 そんなあたしの見て、高橋は微笑んだ。


「ごめん。心配しなくていいんだよ。あいつらとは、何でもないんだよ」


 そして、再び唇を近づけてくる。


「好きなのは、君だけだ」


 あたしは、動けない体で抵抗するよりも、高橋を憎む心でいっぱいになった。


(こいつは、乙女の敵よ)


 近づけた瞬間、唇を噛みきってやる。そう決めると、なぜか高橋は途中で顔を近づけるのを止めた。


 にこっと笑いかけられると、あたしは口も動かせなくなった。


「もう…あきらめてよ。君は、僕の子供を生む…それが、運命なんだよ」


 高橋は、楽しそうに笑った。


「いや…違うな」


 突然、横から声がした。


「な!」


 あたしの唇に触れそうになっていた…高橋の顔が止まった。


 動かそうとするが、動けない。


 逆に、あたしは動けるようになった。


 自由になるとすぐに、あたしは高橋の頬を殴った。


「勇気!」


 あたしが振り向くと、そこに勇気が立っていた。


 勇気が微笑むと、あたしの肩に学生服の上着がかけられた。


「き、貴様!」


 高橋は何とか顔を動かすと、血走った目を勇気に向けた。


「彼女は、誰の子供もまだ産むことはない!」


 勇気は突きだした手に力を込め、 高橋を吹き飛ばそうとしているようだけど、高橋はゆっくりだが、体を動かせるようだ。


「クッ」

 

 勇気は顔をしかめた。


 逆に、高橋は笑った。


「この程度の念動力!」


 全身に力を込めると、高橋は勇気の念動力を吹き飛ばした。


「苦でもないわ」


「チッ」


 勇気は舌打ちすると、高橋の動きに注意しながら、あたしに話しかけた。


「今の俺は、ほとんど超能力を使えない。だから、ここから逃げてほしい」


「え?」


 驚くあたしに、勇気は優しく笑いかけた。


「でも、心配しないで。あんなミュータントに、無理矢理目覚めさせられたやつになんて、負けないよ」


「負けないだと?」


 高橋は血走った目を見開きながら、勇気に向かってくる。


「その程度の力をしか使えない貴様が!ミュータントの創造主になる僕に!」


「勇気!」


 あたしは無意識だけど、ずっと彼を呼び捨てにしていた。


「死ね!」


 高橋の両手が光った。


 そして、あたしのような普通の人間でもわかるくらいの殺傷力のある光線を放った。


 その光が、勇気に当たる瞬間、彼は光線を見ないで、あたしを見ると、優しく微笑んだ。ゆっくりと動いた唇の動きで…あたしは、彼が何と言ってるかわかった。


 大丈夫。


 勇気の笑顔に見とれてしまったあたしの目の前で、放たれた光線がそのまま、高橋に向かって返っていくのが見えた。


「え?」


 跳ね返った光線は、勝利を確信して無防備な体勢になっていた高橋を、射ぬいた。


 何が起こったが、理解できないまま…高橋は足元から崩れ落ちた。


 そして、前のめりに地面に倒れた。


「!?」


 一瞬の出来事で、あたしには何が起こったかわからなかった。


 勇気は、振り返り…倒れた高橋を確認した。


「念動力の槍は、破壊力に優れている。だけど…」


 勇気は右手を背中に回し、手の平を高橋に向けていた。


 手のひらの中には、小さな鏡があった。


「超能力反射鏡」


 勇気は右手を握りしめ、


「未来の人間が、対ミュータント用に、軍事目的に作られた…鏡。真正面から来る超能力を吸い込み、跳ね返す。こんなものが、役に立つとはな」


超能力反射鏡を砕いた。


 勇気の拳の隙間から、砂のようにサラサラになった欠片がこぼれた。


「光の槍は、強力な武器だけど…攻撃の軌跡を、相手にわからせてしまう。お前が狙うのは、俺」


 勇気は、地面に倒れている高橋を見下ろし、


「容易に、読むことができた」


様子を確認した。


 高橋の頭から、湯気のようなものが上がっていた。


「…高橋君は、どうなったの?」


 こんな茹でタコのように、人間から湯気が出るとこを、見たことがない。


 心配そうなあたしの様子に気付き、勇気はあたしのそばに戻ると、手を伸ばし…あたしの頭を優しく撫でた。


「心配いらない。無理矢理ミュータントにされて、力を使い過ぎた為に、頭の細胞がいかれただけです」


「ミュータント…」


 あたしには、理解できない言葉だ。


 少し考え込んでしまうあたしを見て、勇気は頭から手を離した。


 あたしをもう一度見てから、勇気は少し顔をそらし、


「ミュータントは…人から産まれ、人とは違う種族」


悲しげに、笑った。


 それからは、ずっとあたしを見ないで、 高橋の方だけを見て、言葉を続けた。


「人は普段…脳の30%しか使っていないと言われている。僕達…ミュータントで40%…。たった10%で、人は人とは、認識されなくなった」


 気はしゃがむと、高橋の頭に手を当てた。


「ショートしたのは、人間が一生使わない部分。熱を冷まし、ダメージを抑えれば、人としては生きていけるはずだ」


 勇気の手が光り、高橋の頭を包んだ。


「あとは、彼と…彼女達の記憶を消せばいい。少し時間がかかるけど」


 高橋の治療がすむと、勇気は倒れている町子達のもとへ、歩いていく。


 途中、何もないところでつまずいた。どうやら、力がほとんどないみたいだ。


「あ、あたし」


 急いで勇気にかけよると、肩を貸してあげた。


「ありがとう」


 勇気は素直に、あたしに寄りかかった。


 それから、町子達の記憶をいじった後、高橋によって破られた服を復元してみせた。


 破れても、粉々になっても、生地が周囲に残っていたら、元通りにできるらしい。


 あたしの服も、元通りになった。




「じゃあ」


 あたしにかけていた上着を羽織ると、勇気はここから消えようとした。


 だけど、勇気は消えなかった。


 町子達の記憶をいじったことで、超能力を使い切ったみたいだ。


「こんなはずじゃ…」


 テレポートに失敗した勇気は、そのまま意識を失った。


 倒れそうになる勇気を、あたしは受け止めると、ぎゅっと抱き締めた。


 ああ…。


 あたしは勇気を抱き締めながら、改めて自分の気持ちを確認した。


 やっぱりあたしは、この人が好きだと。


 ミュータントとかわからないけど、あたしを守り、戦ってくれただけでなく、誰よりも優しい…彼が好きなのだと。


 あたしは、気を失った勇気をぎゅっと…抱き締め続けた。



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