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深刻なバグが発生しました。  作者: 四片紫莉
第四章

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96 モデル、初対面

「ナリってアレか? 稲荷(いなり)のナリ?」


 珍しく紬を除いて皆が集まったフリールーム。九年前の惨劇の立役者の話を聞いた人志がそう言った。


「あぁ……なんでそれ思い浮かばなかったんだろ」


 要が小首を傾げて呟く。それ以外のことで頭が一杯だったのは大いにあるが、考えてみれば何とも単純な話だ。


「……もしかしてなんだけどよ」


 不意に険しい顔になった人志が言葉を切る。参考にと預かっていた紬のノートと古いノートの切れ端が宙に浮かんだ。


「ヤナギのモデルってソイツか?」


 疑問の体を成していたが、本人はほぼ確信しているのだろう。どこか不愉快そうにノートを睨んでいる。要は手元に飛んできたノートを捕まえ、ぱらぱらとめくった。


「色合いは確かに近いね……ただ、ヤナギは赤目だし何の能力も持ってないけど」

「人志もインナーカラー消えてるし、モデルなんてそんなもんじゃないの?」


 独りぼっちの寂しい白い子ども。強い力を持ってしまったが故に腫れ物のように扱われる黒い子ども。彼らに息を吹き込んだ時の紬は人志の内面を知らず、ナリの引き起こした悲劇を忘れていたはずだった。


「取り急ぎ今回の情報は紬ちゃんへは開示しないことにする……とは言え紬ちゃんの特性上、情報の書き換えは多分効果ないからね。君ら側にロックかけることになるけど」


 並んでいた面々が静かに頷いた。


「しかし豊利君以外には見えてなかったにも関わらず存在は認識されていた、か……一体どういうことだ?」

「……それは正直僕もわからない。ただ、豊利知司には何か心当たりがあるようだった――あたるならそっちだと考えてる」


 要の視線が竜弥へと向かう。いつものようにソファに座る美姫の後ろに控えていた彼は、少し苦い顔をしていた。


「……豊利知司に関連する遺留品なら直ぐに取り寄せられるはずだ」

「そう……うん。お願いするね」

「あら、じゃあわたくしの出番なのね」


 かわいらしく両手を合わせた幼子がきゃらきゃらと笑う。機嫌が良さそうなのは少し前に竜弥とお出かけが出来たからなのだろう。買ったばかりのレースのリボンでまとめられた髪がさらさらと流れている。


「紬のときはうまく出来なかったけど、今度はきっと大丈夫よ!」


 大人たちの空気に気づいていないのか、意気込むように拳を握る。人志と純恋はこっそり目を合わせていた。

 くるりと美姫が竜弥を振り返る。花が開くような愛らしい笑顔だった。


「リュウ、準備をよろしくね。わたくし頑張るわ!」


 惨劇を目にすることになる子どもとは思えないほどに、無邪気な様子だ。ただ己の力が人の役に立つことを純粋に喜んでいる。


「……おおせのままに、御姫様」


 竜弥は静かに微笑みを返した。その光景から逃げるように、要と鷹彦がそっと目を閉じる。真緒が労うように竜弥の背中を叩いていた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 宮杜竜弥が橘美姫に出会ったのは今から僅かに一年前である。美姫が幼いということもあり、現存するバディの中では一番の新米だ。

 他のバディと同様にデザイナーベイビーや国を挙げて行われている情報統制に関する記憶を流し込まれて混乱していた最中に彼女と引き合わされたのだ。


 ふわふわのぬいぐるみ。甘い香りのするアロマポット。フリルやレースがたっぷりと使われた天蓋付きのベッド。美姫のために用意された何もかもは甘く、愛らしい。

 大雑把かつ大柄の自覚がある竜弥は初めて美姫の部屋に入った際、無意識に肩を縮めていた。己の場違い感がいたたまれなかったのだ。


「あー……えっと、」


 甘い匂いのする空間では声を出すのもはばかられた。立ったままの竜弥と対称的に、キラキラと上品に輝く石が散りばめられた椅子に座っていた少女はこてんと首を傾げている。竜弥を案内してきた職員は部屋に一歩も入ることなく早々に姿を消していた。その理由は直ぐに知ることとなる。


「……宮杜竜弥、だ、です? ……その、よろしく、お願いしま、す……?」


 ラフな話し方でいくか敬語でいくかを決めかねたまま何とか自己紹介をする。記憶が正しければ、美姫は竜弥の半分よりも幼い。とは言え、その能力によって既に幾つかの難事件の解決に貢献しているような子どもなのだ。

 たどたどしい声に、ころころと鈴の音が返った。楽しそうに笑う姿に少しだけほっとする。背が高くガタイの良い竜弥は子どもとの初対面時に対応を間違えると泣かれてしまうこともあったのだ。


 ぴょん、と勢いを付けて椅子から飛び降りた美姫が竜弥の真正面に立ってこちらを見上げてきた。竜弥は慌てて腰を折り、中腰の体勢になる。それでもお互いの顔の位置はそこそこ離れていた。

 美姫はグローブをはめた手を差し出した。


「わたくしは橘美姫よ。これからよろしくお願いするわね」


 偉そうな子どもだな、と反射的にそう思ったが実際結構偉いのだと思い直し、同じように手を差し出す。美姫の小さな手が竜弥の指を三本だけ掴んでゆるゆると揺らした。竜弥はその手の小ささと、それを覆うグローブの厚さが気になってしまった。


「暑くない、んです?」


 思わず漏らした問いに美姫はパッと手を放した。よくよく見ればそのデザインも随分と武骨でこの部屋にも美姫自身にも似合ってはいない。


「……わたくしの能力をきいていないのかしら?」


 椅子に座り直した美姫はきょとんとした様子でまた首を傾げた。竜弥も首を傾げながら押し付けられた記憶を探る。


「触れたものから、情報を読み取る接触感応(サイコメトリー)


 竜弥の答えにぱちぱちと美姫が手を叩いた。グローブが分厚いせいか、何となく音が間抜けに聞こえる。ともすれば馬鹿にされているのかと感じる仕草だが、表情を見るに他意はないのだろう。


「あー……不用意に物に触れると力使いすぎてしんどいとか? です?」

「使えるようになって直ぐはそんなこともあったわね、なつかしいわ」


 ということは、今は違うのだろうか。目を細めた美姫に竜弥が口を開いた時、ノックの音が割り込んだ。


「美姫? 入っていい?」


 落ち着いた声にパァッと美姫の顔が明るくなった。彼女の了承を得た声の主が扉を開く。


「……顔合わせは終わったのかな?」


 部屋を見回したエメラルドがにこりと微笑んだ。

美姫と竜弥の初めまして。


閲覧ありがとうございます。

更新のたびに読みに来てくださってる方がいることが励みになっています。

これからもよろしくお願いします。

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