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深刻なバグが発生しました。  作者: 四片紫莉
第三章

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88/111

88 疑問、続き

「イマジナリーフレンド……? いや、」


 要は一旦機具を外すと眉間を揉んだ。大きく息を吐くと、背もたれに身体を預ける。目の奥に鈍痛が滲み始めていた。飛ばし飛ばしとは言え二週間ほどの記憶を数時間かけて見ていたのだから当然である。記憶や情報の整理も兼ねての小休止だった。


 おそらく少年ことナリとの交流が始まったのはあの瞬間からなのだろう。しかしいくら目を凝らそうとも耳をすまそうとも、要にはナリの姿も声も捉えることは出来なかった。


 真っ先に要の頭に浮かんだ可能性は『空想上の友だち』だ。幼い長子や一人っ子に見られる現象であり、心身の発達に伴って消失していく。当時の紬の状況を鑑みると条件にはそこそこ当てはまっていた。幼い時分から課せられていた神社のお姉ちゃんとしての責任から逃げるための都合の良いお友だちの顕現。

 だが、そう判断するには彼の()()はあまりにも強烈過ぎる。人志や要が攻撃を受けたという()()も説明がつかない。


「……認識阻害でもなかったな」


 片腕で目元を覆い、天井を仰ぐ。ぎしりと椅子が小さく音を立てた。要にも見えず聞こえずと言うことは()()()()()だ。

 加えて例の事件の()から、紬には彼の姿が見えていたようだ。元々見えていたのであれば、紬が目を取り換えられた理由は? 移植の実験体としてではなく、『紬の目そのもの』が必要であった可能性も浮上してくる。


 もう一度天井に向かって息を吐く。サイドテーブルのゴーグルに手を伸ばした。


「君は何者なんだろうね?」


 目の前が再び明るくなる。名前の主は変わらず姿を見せてはくれない。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 その日、おいなりさまは昔のお家を見に行きました。少し前に引っ越した新しいお家も素敵で気に入っているのですが、最初にもらったお家は特別に大好きなのです。


 村の人たちも変わらず昔のお家を大事にしてくれていたので、綺麗にお手入れされていました。満足げにお家を眺めるおいなりさまはあることに気づきました。

 お家の扉が少しだけ開いているのです。それに耳を澄ますと小さな小さな物音がお家の中から聞こえてきました。


「誰かいるの?」


 おいなりさまはそう尋ねますが、お返事はありませんでした。不思議に思ったおいなりさまは扉を開けて中を覗き込みます。

 中を見たおいなりさまはぱかんと大きくお口を開けてしまいました。


 そこには小さな女の子がもっと小さく丸くなって眠っていたのです。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ことりと鉛筆を机に置いた。息を吐いてページを読み返す紬の肩に、ずしりと重さが乗る。さらりとした青い髪が頬に触れた。


「例のノートの小説?」

「うん。確かこんなだった……はず」


 細かい部分は流石に覚えていない上、もっと幼い語彙と文体だっただろうが概ねこんなものだったはずだ。白貴稲荷神社の成り立ち、その物語の続きをあのノートには書いていたはず。


「おいなりさまにお友達作ってやろうって?」


 紬の肩越しにページを見ていた人志が紬の方へと視線を移す。彼女は少し難しい顔をしてから多分、と頷いた。人志は一応ページを撮ると要たちに共有していた。


「あのガキもさびしんぼだったのか?」

「あー……というか、そもそも誰も傍にいなかったと言うか……」


 言葉を迷わせる紬に人志は胸中で舌を打つ。『寂しい』すら知らなかった子どもだったのだろうと容易に想像がついたのだ。知ってしまった以上、手放すことは考えられないのだろうとも。

 人志とて自分がモデルの小説の続きは絶対に読みたいし、完結まで見守る気でいる。だが、彼のそれは自分のものよりもずっとドロドロと濃く重く、煮詰まってしまっているのだろう。


「…………」


 そうして紬は、その重さを何とか抱えようとするような人間だ。人志としては彼女がそれにかかりきりになるのは面白くないし、正しいことではないと思っている。それは人志たちの仕事なのだ。


「なんか手がかり見つかるといいな……」

「まー、要も仕事は出来る奴だし? 大丈夫だろ」


 ノートに手を触れて浮かせる。あ、と小さく声が上がるのを無視して、本棚へと収めた。


「何にせよ、かなり近づいて来てんのは確かだ……こっちからも、向こうからも」


 だから紬が無理をする必要はないのだ、と。人志は寝転がった体勢で浮きながら、適当に引っ張り出した小説を開く。ふわんと甘い香りが広がった。紬に前教えてもらった遊び紙とやらの匂いだ。

 開いた本で顔を隠しながら、紬を窺う。基本的に自由な人志の扱いにも慣れたようで、特に気にせずに自分も本棚から読みかけの本を手に取っていた。


 そう、幾つもの手がかりを手に入れて、物語は着実に完結へと近づいている。めでたしめでたしで終わるだろう物語を、人志は手放せるのだろうか。物語が終わってからも続く現実を、受け入れられるのだろうか。

 それが出来なかった末路がきっとあの白い子どもなのだろう。思い出にすることが出来ずに執着し、妄執の果てに化け物を産み出した、寂しい子ども。


 ページの左側が随分薄くなったのを手のひらに感じながら、人志はゆっくりと息を吐いた。

紙の本は残りページが体感とか視覚で分かる感じが好きです。


閲覧ありがとうございます。

更新のたびに読みに来てくださってる方がいることが励みになっています。

これからもよろしくお願いします。

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