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深刻なバグが発生しました。  作者: 四片紫莉
第三章

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85/111

85 安心、子守

 足早に長い廊下を駆け抜ける。待機していたエレベーターに乗り込み、半ば叩くようにフリールームの階層ボタンを押した。滑らかに動き出したエレベーターの中で要の足元がたんたんと一定のリズムを刻んでいる。それが三十を数える頃、小さく揺れたエレベーターの扉が開いた。

 微かに開いた隙間に身体をねじ込むようにして廊下へ出る。その背後で閉じた扉は壁の装飾に紛れてわからなくなっていた。


 あの部屋は完全に隔離されているとは言え、バグはそれそのものが未知数だ。一度見失ってしまった菫色が脳裏を過っては苦いものがこみ上げてくる。

 辿り着いた扉横のパネルに叩きつけるように手を置いた。焦れったいほどにゆっくりと光が動き、要の掌紋を確認していく。


 シュン、と空気の抜ける音を立ててフリールームの扉が開いた。薄暗い廊下に立っている要に光が差す。


 部屋の中ではむっつりと頬を膨らませた美姫がウサギのぬいぐるみに顔をうずめていた。その傍らに座った純恋が困った顔でその艶やかな黒髪を撫でている。監視兼保護者として部屋に待機していた鷹彦も美姫の背中を撫でながら何事か言い聞かせているようだった。


 どうやら、誰もいなくなってはいないようだ。は、と一つ息を吐いて要は片手で顔を覆った。


 不意に鷹彦が開いた扉の方を振り返る。少しくたびれているように見えるのは、すねた美姫の相手をしていたからだろう。

 俯く要の姿を認めた暗色の瞳が驚いたように瞬いた。彼に駆け寄り、確認するように首筋に指をあてる。要は無抵抗に身を任せていた。


「顔色が悪いな……どうした」

「あぁ、いや……うん」


 曖昧な返答に、怪訝そうに柳の眉が上がる。純恋も不思議そうに扉の前に立ち尽くす要を見つめていた。美姫は変わらずすねた様子でぬいぐるみにぐりぐりと額を押し付けている。


「……爺どもに絞られでもしたか?」


 純恋たちに聞こえないように声を潜めた鷹彦に、要がようやっと小さく笑った。


「ううん。むしろ膿が絞り出せた」

「……そうか」


 深く尋ねるつもりはないらしく、鷹彦はそう返すと未だむくれる美姫の傍らに戻った。要もついていき、目の前にしゃがみこんで柔らかく笑う。


「美姫、みーき。ごめんねぇ、また竜弥のこと借りちゃって」


 顔を上げた美姫の乱れた前髪を手櫛で整えてやる。濃い桃色の瞳がきゅう、と細められて要を睨んでいた。かと思えば、ぷいと顔ごと明後日の方向へと向けられてしまう。


 まだ幼く、能力も戦闘向きでない美姫は情報収集等の裏方に回ることが多い。半面そのバディである竜弥は彼女と同じく鑑識課ではあるが、元々は凶悪犯罪を取り締まる捜査一課の所属だった。同じく捜査一課出身の真緒と並んでCS対策課の主戦力なのだ――人志と司狼を除いて、ではあるが。

 故に二人はバディでありながら別行動となることも多い。特に美姫はその能力の貴重性・有用性から、鷹彦とともに地下に留め置かれることがほとんどなのだ。


「いっぱい我慢させちゃってごめんね……あぁ、そうだ。今度竜弥にお休み貰えるように上に掛け合ってみるよ。久々に二人で遊んでおいで」


 ぐずぐずと濡れた声がぬいぐるみに吸い込まれていく。最近ではもたつくこともなくなった編み込みを崩さないように撫で、優しく笑いかける。

 こくりと小さな頭が動いたのを手のひらで確認し、上げられた目元を指先で拭う。細い腕が二本、首に巻き付いてくるのを無抵抗に受け入れ、抱き上げた。


 鷹彦と純恋が見守る中、両腕に抱えた重さをゆらゆらと揺らす。一年前に二桁を迎えた身体は小柄と言えどなかなか腰にくるものだ。これを竜弥はいつも軽~くひょいっと抱え上げているんだっけか、と己の衰えに思いをはせる。


「ん、ちょっと待て」


 不意に響いた遠吠えに鷹彦が白衣のポケットに手を突っ込んだ。画面に表示された名前を確認すると迷うことなくスピーカー状態にして通話を繋げる。相手も同じようにスピーカーにしているらしく、がやがやと騒がしい。


『タカ! 要近くにいるか!?』

「はいはい、何? 御姫様寝そうなんだからおっきい声出さないでよ」


 鷹彦の掲げる端末から距離を取るように要が身体を捻る。唸るような声が聞こえ、少しトーンダウンした文句が流れ出した。威嚇用なのか、音量に配慮した結果なのか、いつもよりも声が低い。


『おン前文句言う前に切りやがってよォ……』

「ごめんって、こっちも割といっぱいいっぱいだったんだよ……もう片付いたけど」


 何の話だと目線で問うてくる鷹彦に後でね、と口の動きだけで伝える。ふー、と空を切るような溜息が流れた。


『オッケー、残りは対面で言うわ……こっちから送った動画はもう確認したか?』

「ん、まだ見てない……今」


 本格的に眠ってしまった美姫を片腕と上半身で支えつつ、端末を取り出す。セキが画面奥から持ってきたディスクをタップすれば、端末から半透明のモニターが浮かび上がった。

 再生された動画に純恋が口元を押さえるように手を当てた。鷹彦も息を呑む。


「あぁ……うん。一緒だ」


 どこかどろどろと曖昧な輪郭も、地を這うようにぶわりと広がる様子も。映像の中で蠢く黒は、つい先ほど秘密の部屋で叩きのめしたものによく似ていた。

 映像は人志の黒が泥のような黒をすっかり呑み込んだところで終わっている。


『詳しいことは帰ってから話すが、紬ちゃんが言うには狐だったってよ』

「……そう」


 同じことを思い起こしているのだろう。鷹彦と目が合った。疳の虫に稲荷の神――白貴稲荷神社が存在感を増して脳裏を過っていく。


「じゃあ、また後で……安全運転で頼むよ、竜弥?」


 おう、と答えた声に反応したのか、美姫が腕の中で身じろいだ。

受けてた試験終わったので更新再開できるかな。

頑張ります。


閲覧ありがとうございます。

更新のたびに読みに来てくださってる方がいることが励みになっています。

これからもよろしくお願いします。

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