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深刻なバグが発生しました。  作者: 四片紫莉
第三章

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79 到達、平穏

 迸った炎がディスプレイを膨張させる。ひび割れた画面は次の瞬間には内側から破裂するように砕け散った。その欠片すら融かすように炎が舞い、陽炎が立ち昇る。


「シロ、その辺で」

「っ、あぁ」


 要に促され、ようやく司狼は力の放出をやめた。原型もないほどにドロドロに溶け落ちたプラスチックと金属が壁に焦げついている。


「何だったんだ……?」

「さぁ……わからない、けど」


 要は自分の端末へと目を落とす。


「肉眼では見えない何かが()()()、もしくは()()のは確かだ」


 画面に切り取られたディスプレイモニターは、僅かにだが確かに歪んで見えた。


 要の取ったデータと写真は迅速に解析へと回された。人的被害が出ていることもあり、CS対策課秘匿部隊の初めての大仕事となる。

 三年もの間その現象を追い続け、分かったことはそれが電波の塊のようなものであること、電子機器に干渉してプログラムを変容させてしまうことの二点だけだ。発生の方法、どこから来ているのか、何が目的なのか、その全ては謎のままだった。何とかその姿を捉える特殊グラスと、バグに干渉・消滅させる武器を開発できたのは大きかっただろうが。


 その過程で人志、純恋、美姫が立て続けに能力を発現させた。当然彼らの健やかな成長は秘匿部隊の()()の一つである。要は人志のバディへと異動し、司狼には鷹彦がつくことになり、新たなメンバーとして真緒と竜弥も加わった。

 作りたての組織、それもまだまだ成果を上げられていない小さな組織だ。上や外からの干渉も大きく、純恋の元バディのような人材も流入してしまうこととなった。


 それから更に五年後。純恋が姿を消し、人志の能力とその人格が危険視され始めたころ――要たちはようやく、豊利紬に辿り着いた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 改めて、紬を観察してみる。四十センチほどの身長差があるので自然と目線は下を向いた。早めに成長期を終えた身体は薄く小さく見えるが、女子高校生の丁度平均ほどらしい。

 日本人らしいさっぱりとした顔立ちは、ひとごみに入ってしまえばたちまちに埋もれて見つけられなくなるだろう。司狼の周りに個性的な人間が多いのも原因なのだろうが、どうも特徴に乏しく感じてしまう。


「紬ちゃーん、だまになっちゃった~……」

「あー……牛乳冷たかったのかな。気持ちヘラで潰しとこ」


 目の前で鍋をかき混ぜていた紬に瑠璃が泣きついている。今回の調理実習のメニューはシチューらしく、瑠璃がホワイトソースを作るのにちょっとばかり失敗したようだ。雄利と二人暮らしの紬はてきぱきと慣れた手つきで瑠璃を含む他のメンバーを引っ張っていた。

 そこかしこでくつくつとミルクの煮える匂いが立ち昇っている。時間がお昼時なのも相まって、腹減ってきたな、と司狼はそんなことを考えていた。が、ふと窓の外に影が差す。そのままこんこんと軽く窓が叩かれた。


 その音に反応を示したのは、紬と司狼だけだ。


「お、朝の鍛錬終わったのか?」

「ん。ついでに昼メシデリバリーしに来てやったぞ」


 窓の外に立っていた人志が片手にぶら下げていた袋を掲げて見せる。おぉ、と小さく声を上げた司狼が窓を開けてやる。紬もシチューを盛りつけながらそちらを気にしていた。


「外に来てんの誰だ? 要? 真緒?」

「真緒と、竜弥も来てる。要はなんか本部? の方とごちゃごちゃやってた」


 こちらに来る道すがらコンビニで買ってきたのだろう。パンとおにぎり、飲み物の入った袋が突き出される。家庭科の教師が音頭を取るのに両手を合わせ、二人も食べだした。


「真緒はともかく竜弥は何でだ? ……あぁ、オレもいるからか」


 浮かんだ疑問を即座に自己解決していると、隣でパック牛乳を飲んでいた人志がちょっとだけ噴き出した。


「要だったら一人でもよかったんだけどな……御姫様には悪いことしたな」


 お留守番を頼まれてむくれるお姫様が目に浮かぶようだった。人志もその時の様子を思い出したのか、ジャムパンにかじりついたはずなのに苦い顔をしている。


 美姫や純恋とは違い、二人の能力は致傷力が高い。司狼はこれまでの経験や積み上げてきた信頼からある程度の単独行動は許されているが、人志は違うのだ。むしろ任務のたびにふらふらと出歩くことが多く、問題視されてい()。人志のバディが原則二人なのもそのためだ。

 紬と行動を共にするようになってから若干改善されてきているものの、数年に渡って築き上げてしまったイメージはそう簡単には払拭できない。


 そう考えると、昔授けられた要の教えは最善だった。人志に関しては、教育方針を変えたのだろうか。あるいは、向き不向きによるものなのか。

 人志の頬袋を眺めながらそんなことを思っていると、不意にその灰色の目がこちらを向く。


「人類解放は今んとこ大人しいな?」

「……まぁ、あんだけ派手にやらかした後だからな。アイツらを警戒してんのはオレらだけじゃねぇはずだ」


 実際ここ数週間の間にも人類解放に近い複数の企業や集団に警察によるガサ入れが入っている。しばらくは彼らも動きにくい状態が続くはずだ。要もそれを見越して人志に鍛錬を勧めたのだろう。


「とは言え、人類解放もしっかりした組織は中枢だけだからな。末端も末端――一般に近い阿呆が何するかは予測つかねぇから。警戒するに越したことはねぇ」


 あぁ、と人志が唸るように相槌を打つ。きゃらきゃらと楽しそうな笑い声が真剣な表情の二人を囲んでいた。

調理実習懐かしい……何年前かな?


閲覧ありがとうございます。

更新のたびに読みに来てくださってる方がいることが励みになっています。

これからもよろしくお願いします。

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