表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深刻なバグが発生しました。  作者: 四片紫莉
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/104

73 最善、兄弟

 隣で落ち込む司狼を気にも留めずに、要は思考を巡らせる。ノートの内容についてもそうだが、紬の様子も気にかかった。


「紬ちゃん、本当に大丈夫?」

「……はい。前の時ほど辛くはないです。思い出せたのもほんのちょっとですし」

「そう……本当に無理はしないでね」


 ()は紬が思い出すことを望んでいる。約束とやらを、履行することを望んでいる。ならばこの状況は、彼にとっては好都合なのではないだろうか。


 彼女の記憶を、過去を探ることは、果たして最善なのか?


 とは言え、何も知らない状態では危険を回避することも対策を立てることも不可能だ。要は頭を振って一旦考えを頭の隅に追いやった。


「取り敢えず検査は終わったし……どうする? 僕は皆の様子見に行くけど、紬ちゃんも来る?」


 こくりと頷いた紬を連れ、要は部屋を出ていった。ひらひらと手を振ってそれを見送ると、司狼はソファに深く身を沈める。


「……シロは行かないのか?」

「真緒と竜弥いりゃ十分だしな……あー、邪魔なら」

「そう言う意味で言った訳じゃない」


 変に気を回すな、と咎めると司狼は決まり悪そうに頭を掻いた。鷹彦の方もやや居心地悪そうにもぞりと身動ぎをする。


 二人は別段仲が悪いというわけではない。ただ、距離感を測りかねているだけだ。お互いにそれを理解しているため、バディと言えど二人切りになることは少ない。前バディである要が気を使っていることも多かった。

 そもそもデザイナーベビーとは言え司狼は成熟した大人だ。多少の制約はあれど単独行動も許されている。


「……何か相談事でもあるのか?」


 タブレットから目を離し、対面の青いそれを見つめると司狼が小さく呻いた。何なんだ、と鷹彦は顔をしかめつつも黙って待つことにする。


「いや、ほら病院で紬ちゃんの親代わりやってるヤツに逢ったじゃんか」

「あぁ。確かシステムエンジニアの」


 鷹彦は話に聞いただけで逢ったことはない。要と人志は揃って柴犬っぽいと言っていた。人懐っこく明るい青年で、鷹彦と歳も近いらしい。

 自分とは正反対だな、と実物を見たこともないのにそんなことを思っていた。


「……こっち来る前に要とも話してたんだけどよ」


 若干トーンダウンした声には迷いが色濃く滲んでいる。つられて鷹彦の身体も強張ってきた。


「ちゃんと話って言うか、落としどころ? つけようって思ったんだよ――家族として、さ」


 ぴくりと眉が痙攣するように動いた。改めて視線を顔の方へと向ければ、司狼の方も鷹彦をじっと見返している。

 何かを言おうとして口を開くが、言葉が出てこない。ただ、五年ほど前の出来事が頭の中を過っていた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 鷹彦は海外の高校・大学を飛び級し、二十二歳という若さで医療系大学の博士課程を修了した。その後日本に戻り、CS対策課に所属することとなる。しかし、当時はバグ、ましてやデザイナーベビーに係わるような配置ではなかったのだ。


 鷹彦の配置転換は、司狼のバディに選出されたが故だ。元々司狼のバディは要だったのだが、当時十三歳になった人志が能力を発現したのである。

 彼の能力は重力操作(グラビティ)。司狼の発火能力(パイロキネシス)に並ぶほどに強力なものだった。更に当時のCS対策課や日本の警察関係者にAIに選出されるほど彼と相性の良い人間はいなかったのだ。因みにであるが、その当時の真緒は警察官を志す高校生だった。


 そのため当時唯一デザイナーベビーのバディを務めていた要が人志の教育を任されたのである。また、司狼もそれなりに経験を積んだ大人であったが故に、AIに選出されたとは言え若輩の鷹彦に任せても大丈夫だろうとの判断が下されたのだ。

 初めての顔合わせの時のことは忘れもしない。デザイナーベビーの情報を流し込まれて混乱する鷹彦に告げられた、()()()()()も。


「あーえっと、初めまして、立見司狼だ。聞いてるとは思うが、能力は発火、バグとの戦闘は何回か経験してる。まぁ何だ、あんまり気負わないで大丈夫だからよ」

「……祇色鷹彦です。専門は医療とプログラミング。これからは貴方含め、デザイナーベビーの健康管理もすることになるそうですので、よろしくお願いします」


 差し出された手を握る。うわっと小さく悲鳴が上がった。


「手ェ冷たっ! えっ、大丈夫か?」


 司狼は思わず鷹彦の手を両手で包むように握った。びくっと肩を揺らした鷹彦は低血圧なので、と言いながらさりげなく手を引こうとする。

 が、研究職で部屋にこもりがちな鷹彦とデザイナーベビーとして優秀な肉体を持つ上に鍛錬している司狼では同じ土俵に立つことすら出来ないのだ。


 一見してじゃれ合いのようにも見える二人のやり取りをモニター越しに監視していた男が、ふと呟いた。


「あぁ、やはり相性は良いようだね。流石は()()だ。両者ともに優秀だなんて、あの男の遺伝子を継いでいるだけはある」


 温まったはずの指先を冷やすような感覚が背筋を走った。二人揃ってモニターを見上げる。


「兄弟、とは?」


 狙い通りだったのだろう。言葉を拾い上げられ、男はわざとらしく首を傾げて見せる。そうしてあぁ、と一つ手を打った。


「知らなかったのかい? それは悪いことをしたね、忘れてくれたまえ」

「いや、」


 言い募ろうとしたところでぶつん、と逃げるようにモニターが切れた。モニターに向いていた視線が互いに突き刺さる。


「……知っていたんですか?」

「いや! 俺も初耳で……っつか本当――あーいや、本当なんだろうな」


 あのじじぃ、と悪態をつく横顔を見つめてみる。顔は年齢差を考慮に入れたとしても似ても似つかない。鷹彦が弱アルビノ、司狼がハーフで彫の深い顔立ちなのも相まって、見た目に共通点など皆無に思えた。


「あー……まぁ、その、何だ。とにかくこれからよろしく頼む」

「あ、はい……」


 一旦無理やりに会話を切り上げたところで待っているのは、共同生活である。司狼はバディによって情緒を育まれる段階は終えているものの、まだ監視が必要な身ではあるのだ。

 鷹彦自身もその才からCS対策課の中でも重要人物とされており、護衛がついていた。しかし誰が手を回したのか、司狼がその護衛を兼任することとなり、必然的に一緒に行動することが多くなっていく。


 気まずさを抱えたまま、しかし大人故互いに深く踏み入ることなく。ただ年月を重ねていった結果が今なのだ。

腹違いとも多分なんか違うんだろうなと思う。


閲覧ありがとうございます。

更新のたびに読みに来てくださってる方がいることが励みになっています。

これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ