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深刻なバグが発生しました。  作者: 四片紫莉
第三章

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69 大人の仕事、子ども

 紬が目を覚ました時には全てが終わっていた。警察の聴取も受けたものの、彼女が狙われていたという事実はなくなっており、災難だったねと少々同情されることとなった。

 念のためにと数日検査入院している間にも、瑠璃と雄利を筆頭に見舞客が途切れることはなかった。というかこの二人が毎日訪れていたのである。


 見舞いに来た瑠璃は目を覚ました紬に縋りついてぐじゅぐじゅ泣いていたが、やはり逃げ回っていたときの記憶は無いようだった。

 彼女の中では赤城心結の電波ジャック直後に慌てて二人で教室を飛び出したところで紬がバグに襲われ、それからずっと隠れていた。そうして、電波が復旧したのに気づいて外に出ようとしたところ、突入してきた特殊部隊とかち合って紬を預けたことになっている。


 念のためにと要と記憶と事実の擦り合わせも行った。世間的には赤城心結が人類解放の会の一部をそそのかしたことになっている。彼女は引きこもっているうちにネットの世界にどっぷりと悪影響を受けてしまい、妄想癖をこじらせて今回の事件を起こしたとのではないかという説が大半だった。

 CS対策課の共通認識としては、人類解放の会が赤城心結のプログラムを利用して紬を確保しようとしたのだろうとのことだ。その目的は未だわかっていないが。


「そんなわけでね、紬ちゃんの身辺警護を強化したくってさ」


 そう言われた紬は無意識に辺りを見回した。いつもならその辺りをふわふわと浮いている人志の姿が見えないのだ。


「とはいえ、この件に係わる人間増やすわけにはいかないからね。今みたいに人志がちょいちょい訓練で外れちゃうんだ。その間は僕と司狼がついてるから」


 おっさんズでごめんね、と眉を下げる要に紬は慌ててぶんぶんと首を振った。ちなみにおっさんズの片割れは病室の外を見張っていた。


「戦力も考えるとシロのが適任ではあるんだけどね。僕と人志は例の子どもにかなりはっきり敵視されちゃったみたいだし」


 要は無意識にか鼻を触った。二人とも検査を受けたところ若干の脳へのダメージが見られたのだそうだ。今回は威嚇に留まったからか、自然治癒力で治る程度だった。が、彼の敵意を考えれば今後どうなるかは未知数だ。


「で、やっぱり知ってる子だった?」

「……はい。あの夏に逢って、一緒に遊んだんです」


 同い年くらいの真っ白な男の子。今回は顔も覚えている。あぁ、そうだ。あの細い目を見て、神社の入口の狐の像に似ていると思ったのだ。


「皆と一緒に遊んでてもいつの間にかあの子、一人になってて……だから、多分、ですけど」

「紬ちゃん以外には見えてなかった?」


 言葉を引き取られ、こくりと頷く。要は顎を擦りながら目を細めた。


「デザイナーベビーの実験自体はそれなりに前からあってね。ただ頭と身体の出来が良いだけの子どもは色々処置をされてから市井に出されてた」


 もちろんちゃんとした孤児院とかそう言う機関にね、と。取り繕うつもりがあるのかないのか、要はそう続ける。紬はきゅっと口をつぐんだまま話を聞いていた。


「調べた限り彼ら彼女らは()()()()()()()()()。消えてしまった子は一人もいないんだよ――()()()()()、ね」


 要はやけにはっきりと言い切った。その表情は険しい。


「そんなわけだから、彼は認可外のデザイナーベビーである可能性が極めて高い。認識阻害は自分で組んだのか、能力の暴走か……少なくとも脳へ影響を及ぼす力は持っているはずだからね」


 とんとん、と人差し指でこめかみを軽く叩く。脳、と単語を一つ繰り返した紬に、要は一つ頷いた。


「君の記憶喪失も目の異常もその彼の力によるところの可能性は十分あると思ってる」

「……でも、あの子、思い出してって――」


 ずきん、と差し込むような痛みに言葉が途切れた。ナースコールに伸びかけた要の手をやんわりと止め、紬は痛みをやり過ごそうとぎゅっと目を閉じる。


「……人志の話を聞いてて特に思ったけど、彼はあまりにも子どもだ。八年前の事件の時なんか言わずもがな。激情で能力コントロールを失う、なんてことは有り得ただろうね……ましてや訓練なんか受けてない不安定な力だっただろうし」


 十三歳の純恋ですら()()なったのだ。二桁にも満たなかったであろう子どもが、自分を目に映す唯一に固執するのは想像に難くない。それがたまたま紬だったのか、彼女が選ばれたのかはわからないが。


「彼が今、どんな風に生きてるのかはわからない。純恋みたいに大きな組織に所属している感じでもないし……可能なら、早く保護したいところだけど――現状彼は殺人者だからね」


 舌に鉛が乗ったように動かなくなった。ぐっと呑み下そうとすれば喉に詰まって声が出なくなる。


「わ、たしが……やくそく、やぶった、から」


 絞り出した息がうわごとに変わる。ぽん、と頭に大きな手が乗った。顔を上げようとしたが、手のひらは重く紬を俯かせる。


「どんな理由があったにせよ、()()()のせいじゃない――それだけは、絶対に違う」


 彼らは子どもだった。それも幼い少年と少女だ。大人が保護すべき存在だったのだ。

 ましてや、少年を生み出した誰かは事故か故意かはわからないにせよ、彼をろくな教育もせずに放り出した。責を負うべきはその彼か彼女かだ――そして、それは要の仕事だ。


「美姫も言ってたけど、多分彼と君は友達だったんだ。君のご両親はどうしてか反対してたみたいだけど」


 雄利の従姉――輝夜睦月(むつき)の記憶によれば、知司と凪は紬に彼にこれ以上係わらないようにと言い含めていたらしい。彼女も漏れ聞いただけで詳しいことは知らないようだった。


 そこで一つ、疑問が湧く――紬の両親は、彼を認識していたのだろうか。その会話を聞いていたということは、睦月も彼の存在は認めていたはずなのだ。要だけでなく、人志も攻撃されたこと、怒鳴りつけられたことをちゃんと覚えている。

 純恋の時とは逆に視覚情報にだけ制限がかかった状態なのか、あるいは根本的に何か考え方が違うのか。


 考えなければならないことも調べなければならないことも山積みだ。だいぶ前に申請を出していた紬の記憶領域へのアクセス許可もようやく最終段階にまでこぎつけている。


「色んなところが繋がってきてるからね。紬ちゃんも思い出したことあったら何でも教えて。どんな些細なことでもいいからさ……あっ、無理だけはしないようにね?」

「……はい。頑張ります」


 紬は退院間近だが南条高校の方はしばらく調査や修理やらで休校である。今回の影響で飛んでしまったデータや壊れてしまったプログラムもあるので直ぐにリモート授業に切替というわけにも行かなかったのだ。


「時間あって気が向いたら人志に会いに行ってやってよ。きっと喜ぶからさ」


 そんな事情を当然知っている要はにこにことそう言った。保護の観点からもそうしてくれるとありがたいのは確かだが、それ以上に自分の感情を処理しきれていない人志が最近ちょっと面白いのである。

色々と情報整理。


閲覧ありがとうございます。

更新のたびに読みに来てくださってる方がいることが励みになっています。

これからもよろしくお願いします。

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