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深刻なバグが発生しました。  作者: 四片紫莉
第二章

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68 聴取、手がかり

「どうも、こんにちは」

「え、あ、こ、こんにちは」


 にこやかに挨拶をしてきた要に雄利は慌てて挨拶を返した。そうしているうちに、彼の手を離した美姫がその場にしゃがみこんだ竜弥の腕の中へと駆けていく。


「えと、ひょっとして紬ちゃんに御用ですか?」

「えぇ。今回の件、彼女は生徒で唯一の被害者なので……後は」


 要は薄く浮かべていた笑みを引っ込めると頭を下げた。その動きは雄利の意識の外のようだ。人志と司狼、竜弥が目を丸める中、言葉を続ける。


「彼女の安全を保障すると宣っておきながら、この体たらく……深くお詫び申し上げます。全ては私の采配の甘さに帰するところ。今後はこのようなことがないように尽力する所存です」


 人志がくしゃりと顔をゆがめた。知覚外の言葉が雄利に届くはずもないことは要とて理解している。言うなればただの自己満足であり、決意表明なのだ。

 頭を上げた要が今度は聞こえるようにと言葉を選ぶ。


「彼女のことなのですが、数年前にも大規模な事件に巻き込まれていますよね?」


 雄利の表情が一気に硬くなる。美姫が竜弥に何事か囁いた。こくりと頷いた竜弥が要の耳に口を寄せる。


「紬ちゃん、その話しようとすると決まって頭痛起こすんだと。だからほとんど触れてこなかったらしいぜ」

「なるほど……」

「今回のことがその件と何か関係あるんですか?」

「関係、あるかは正直わかりません。まだ捜査中ですので……人志」


 会話の途中で名を呼ばれ、人志がぴくっと身動ぎした。ひら、と手を差し出され、ノート、と短く告げられる。ぼろぼろのノートの切れ端が人志から要の手に渡った途端にそれを認識したのか、雄利が首を傾げる。


「それは……?」

「彼女が倒れていた近くで発見されたノートの切れ端です。短い物語が書かれているのですが、それが彼女の生家である白貴稲荷神社の成り立ちだったもので」


 受け取って目を通した雄利が微かに目を見開いた。紬ちゃんの字だ、と呟いたのが聞こえる。やはり作者は紬だったらしい。


「え、でもこれ紬ちゃん無くしたって」

「無くした、と言いますと?」


 雄利が戸惑うように視線を揺らす。彼が言うには例の事件の後、そのお話を含む幾つかの物語が書かれたノートが一冊、行方不明になっていたのだそうだ。

 雄利も事件が起きる少し前にそのノートのことはちらっと聞いていたので、無くしたと聞いて一緒にあちこち探したのを覚えている。結局見つかることはなかったのだが。


「竜弥、それ知ってる?」

「いや、事件簿にそんな情報なかったはずだ。まぁ、子どもの書いたノートが一冊無くなったからなんだって話だ……普通は」

「そうだね。()()()、ね」


 単純に無くしてしまったのだろうと二人が結論付けるのも無理からぬことだ。


「確かに彼女のものなんですね?」

「えっと……多分、そうだと思います。これを元に絵本でも作ろうかって(なぎ)さんたちも言ってたので」

「凪さん、と言うと彼女の御母堂様ですか」


 えぇ、と雄利が頷く。豊利(とより)(なぎ)は紬の母親だ。紬の父親であり、白貴稲荷神社の宮司でもある豊利(とより)知司(かずし)とともに神社の運営を担っていた。その一環として子どもにも親しみやすいような社史を作ろうとしていたのだそうだ。――その矢先にあの事件が起こり、二人とも亡くなってしまったのだが。


「……そう言えばなんかその件で紬ちゃんと揉めてたって話があったような……?」

「揉めてた?」


 竜弥がオウム返しに問う。再びこくりと頷いた雄利は頭を捻りながら口を開いた。


「詳しいことは従姉に確認しないとですが、紬ちゃんが怒られてたのを聞いた? みたいで。なんか、友達がどーのこーのって」


 要が微かに眉を動かした。人志も頭の中に響いた子どもの声を思い返しているらしく、その表情は硬い。


「何て言うか、曖昧ですいません」

「……いえ、情報提供ありがとうございました。豊利さんに関しては頃合いを見てまたお話を聞きに伺うと思いますので」


 すぅすぅと比較的穏やかな寝息を立てる紬を横目で見つつ、そう告げる。視線に気づいた雄利が紬の頬を手の甲で撫でた。


「何事もなく目を覚ますといいんですが……」


 声が少しばかり濁る。目を覚ましてもどこかぼんやりと空を見つめていた姿が頭の中をよぎっていた。そうですね、と同じく目を覚まして直ぐに頭痛で再び意識を失った姿を思い浮かべていた要が静かに相槌を打った。


「今回の件もそうですが、九年前の事件も解決出来るよう努めてまいります。どうか、ご協力のほどよろしくお願いいたします」


 今回要と竜弥が揃って頭を下げたのは雄利にも認識出来ていた。雄利も慌てて立ち上がってこちらこそ、と腰を折る。

 竜弥はもう一度会釈してから美姫を連れて部屋を出ていった。おそらく雄利の従姉のところへ向かうのだろう。要は端末を操作すると窓際にいた人志の方へと歩み寄った。人志が胡坐の体勢で浮いたままくるりと逆さまになる。


「あの女は?」

「無期懲役予定だよ。後は司法に任せとけばいいから」


 ふぅん、と尋ねた割には心底興味がなさそうだ。苦笑した要は、ベッド近くの椅子に腰を下ろした雄利のつむじを見下ろした。

 紬の手を柔く握って優しく声をかける彼はまっとうな保護者だ。要や、要の()()()()とはまるで違う。


「今回のことで本格的に人類解放が動くかもね。紬ちゃんの護衛も増やしたいところだけど、この件に係わる人員増やすのもちょっとなぁ」


 むすっと人志が唇を引き結んだ。要は小さく笑いながら、人志の上下を正す。そうして、両手で彼の頭を捕まえた。


「だから、さ。人志、強くなれる?」


 灰色の目が大きく見開かれた。何でもないように、いっそ朗らかにそう言った要がぽんぽんと人志の頭を叩くように撫でた。


「紬ちゃんの護衛時間をちょっと減らして、訓練時間に宛ててもらおうかな。あぁ、その間は僕とシロが埋めるから安心していいよ」


 初耳だったらしい司狼がぽかんと口を開けて要を見つめている。が、要が視線を投げるときゅっと閉じた。


「体術は真緒に習うのが良いだろうね。僕から頼もうか?」

「ん……あー、オレから言う」


 そ、と少しだけ意外そうに丸まったエメラルドから人志がきまり悪そうに視線を逸らす。真緒に笑わないように言わないとなぁ、とそんなことを思いながら、要はまた人志の頭を撫でた。

記憶のカケラ【白い手】を習得。

彼はそこに存在していた。覚えているはずだ。一緒に遊んだだろう、笑っただろう。覚えているはずだ。わたしからあの白い手を握ったのだ。ひんやりと冷たい白い手を、わたしだけが。


~第二幕、完~

ここまでお付き合いいただきありがとうございます。

一区切りつきましたが、いかがだったでしょうか。

御察しの方いらっしゃるかと思いますが、筆者はTRPGが好きです。ちょっとしたシナリオ書いたこともあります。

リアルではやったことない。トモダチイナイ、カナシイ。


良ければここまで読んだ感想や評価、ブックマーク等お願いします。

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