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深刻なバグが発生しました。  作者: 四片ユカリ
第二章

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53/111

53 報告、加勢

 キィン、と音割れのノイズが響き渡り、純恋は画面に落としていた視線を上げた。反射的にスピーカーの方へと向かった顔が、こてりと横に傾ぐ。てっきり心結がまた何か放送しようとしたのかと思ったのだ。しかし、音が聞こえてきたのはスピーカーからではなく、斜め上の天井の方からだった。


『うっるさ……レ。大丈、……か?』


 キンキンと音割れしながらも聞こえてきた声は馴染み深いもので。純恋はぱちぱちと瞬きをする。画面の中のロボロフスキーもふこふこと鼻を鳴らして不思議そうにしていた。

 キュイイン、と再び耳障りなノイズが響く。思わず耳を塞いだ純恋は、音源から少しでも離れようと床にしゃがみこんだ。


『あー、あー……ちょっとはマシか? よし』


 微調整したらしく、雑音が消えて少しクリアになった声が校舎中に響き渡る。


『気づいてると思うが、異常事態だ。あの女も状況を制御出来てねぇ』


 大音量で聞こえてくる人志の声は真剣そのものだ。教室に引きこもっていた生徒たちも静かに耳を傾けている。


『廊下に浮かんでる黒い靄には近づくな。廊下にいる奴は近くの教室に入れ。遭遇しちまったら、なるべく見えないふりして切り抜けろ。あのゾンビもどきも視界に入らなきゃ襲われねぇはずだ。ゾンビもどきはともかく靄の方は壁や床は貫通してこねぇから、扉閉じて押さえてりゃ取り敢えずは安全だ』


 一拍開けてマイクが息を吸う音を拾う。


『で、こっからはガクセーには関係ねぇ話な――現在、一般人がオレらを認識してる状態だ。後、バグが群れてるのを観測した。そのバグに操られてる人間も確認してる。加えて操られてたのは例のヘルメット共だけでマイクロチップにくっついてたのは虫だ』

「操られる……?」


 思わず疑問が漏れた。先の台詞にも出てきていたゾンビもどきの説明も欲しい所だ。そんな純恋の内心を読んだのか、端末が震えてマフィンが元気よく鳴いた。視線を落とせば画面の中で小さな両前足が封筒とディスクを掲げて見せている。


「……わー、ゾンビだ」


 ディスクをタップして流れ出した映像を見た純恋が呟く。皆、思うことは同じようだ。メッセージの方には詳しい対処法が書かれていた。


「首の後ろね……にしても例のヘルメットだけってことは、あれを介して感染した感じなのかな?」


 純恋は()()()()()()()()()ヘルメットの構造図と内部プログラムのデータの一部を呼び出した。

 確か外部からの電波を受信する機構があったはずである。コードの羅列を読み飛ばしながらスクロールしていく。


「ある程度近くのヘルメット同士で簡易のネットワークが出来てるんだねぇ……そこから広まったのかな。だとしたら……」


 人志は虫を群れだと言っていた。そこから導きだされた嫌な予感に、純恋はスクロールしていた指を止める。


「んー……思ってたよりもヤバい、かも?」


 ちちぃ、とロボロフスキーが同意するように小さく鳴いた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 校舎近くのバンの中の大人たちは校舎内にアクセスを試みては弾かれていた。そんな中、爆音によって情報がもたらされたのだ。


「なるほど、合点がいった……とうに赤城心結の作ったプログラムではなくなっていたのだな」


 プログラムとしてはめちゃくちゃなソースコードの羅列を眺めながら鷹彦が呟く。改竄防止のために上手く隠しているのかと思ったが、そう言うわけではなかったらしい。


「赤城心結の作ったプログラムにバグが干渉、変異させたってとこかな」


 要は下唇をとんとんと指先で叩いた。細められた目にアルファベットが映っては流れていく。


「かなりヤバい状況だな……どうする?」


 司狼は要や鷹彦に視線を向けて問うた。鷹彦は口を引き結んで黙っていたが、要は司狼へと向き直った。


「僕が行くよ。悪いんだけど、シロもついて来てくれる?」

「……すまないが、まだ解析は」


 そこまで言ったところで何かに気づいたのか、鷹彦は何とも言えない表情で要へと視線を投げる。

 鷹彦の考えを裏付けるように、要はにっこりと笑っている。


「人志に倣って物理で行くとするよ」

「あー……? あー……なるほどね?」


 こちらも合点がいったらしく、司狼は手のひらに炎を灯して見せる。要は相変わらず笑っているだけだ。

 真緒と竜弥も顔を見合わせて苦く笑っている。


「……中央棟一階の端が家庭科室だったはずだ」

「この時間帯使われてんのかね? 確認してからだな」


 一応整合性が取りやすいようにと鷹彦が情報を差し出す。それを受けた司狼が表示された見取り図を覗き込んだ。


「じゃあ、行こうか。他の皆は待機で」


 そう言い残すと、要は司狼を伴って学校を囲む塀を軽々と乗り越えた。司狼が端末を確認すると、明るい青緑色の鷹が困った顔を横に振っている。やはり外部との連絡は出来なくなっているようだ。

 校舎へと向かい、ブラインドで覆われた窓に耳を当てて中の様子を探る。音も人気もないことを確認すると、司狼は窓に手のひらを押し当てた。


「派手目にやった方がいいのか?」

「いや、騒ぎにしない方がいい。後からどうとでも修正利くから、今は大丈夫」


 おっけ、と返した司狼の手のひらが白熱する。どろりとガラスとアルミのブラインドが融け落ちた。窓一枚分をすっかり融かしてしまうと、熱で歪んだ窓枠をまたいで校舎内へと入り込む。

 一限目に家庭科の授業はなかったらしく、部屋の近くに人の気配はない。廊下へと出ても生徒の影は見当たらなかった。


「取り急ぎ、簡単な問題から片付けていこうか」


 要がそう言うと、司狼は一つ頷いて手を掲げる。じわりと空気の温度が上がり、開かれた手のひらから青白い炎が迸った。廊下を駆け抜けるように広がった炎は、空中に広がる煤のような黒を瞬きの間に一掃する。

 それを一瞥もせずに端末を弄っていた要が不意に声を上げる。


「あれ、純恋単独行動だ……大丈夫かな」

「マジで? どこだ?」


 生徒会室、と要が答えるのに司狼が小さく唸る。彼らにとって純恋はデザイナーベビーではなく現世に帰ってきたばかりの女の子なのだ。


「んー、そうだな……シロ、純恋の方に合流お願いしていい?」

「了解、そのまま人志と紬ちゃんの方に向かうわ」


 アイツ今どこ? と司狼は要の端末を覗き込んだ。質問に反応したらしい緑のインコが学校の見取り図の一室をくちばしでつついている。


「音楽室ね、おっけ」

「じゃ、お願いね」


 サムズアップして見せた司狼が近くの階段を駆け上がっていく。要はひらひらと手を振ってそれを見送ると、何もなくなった廊下を歩きだした。

要さん二回目の不法侵入。


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