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深刻なバグが発生しました。  作者: 四片紫莉
第二章

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51 接続、突破口

 静かな廊下を端まで駆け抜ける。扉に耳を近づけても何の音もしない。授業中だったということもあり、誰もいないようだ。

 幸い要がロックを外した時のまま、鍵は開いていた。薄く開けた扉から身体を滑り込ませ、扉は半開きのままにしておく。


 校舎内のマップこそ頭の中には入っているが、部屋内部のレイアウトまではデータにはない。コの字に配置された机に左右均等に椅子が並べられ、大きな窓を背にする一辺にはひじ掛けのついた椅子が設置されている。おそらくこの比較的大きめの椅子に生徒会長が座るのだろう。


 ブラインドの下りた窓に近寄って、端末のスリープを解除する。くしくしと毛並みを整えるロボロフスキーが円らな瞳で見上げてきた。


「マフィン、この部屋のスキャンお願い」


 ちぃ! と威勢よく鳴き声を上げて画面内を走り回る。ところどころ歪んだ直方体に、小さな手が簡略化された家具や観葉植物を設置していく。

 やがて完成された間取図を見ながら、純恋は部屋の中を歩き回った。何となくひじ掛け椅子に腰かければ、マフィンが一際大きな声で鳴いた。

 

「ん、ここ? あ。あー、なるほどね?」


 画面いっぱいに展開されたソースコードの群れに目を通していく。普通の人間であれば理解の及ばないアルファベットや記号の羅列だろうが、純恋にとってはその限りではない。


「んー、随分遠回り……あいや、これ範囲指定のためか。あー、でもこの辺ちょっとムダになっちゃってるねぇ……ってことはここの偽装コードをちょっと書き換えちゃえば……」


 ぶつぶつと呟きながら画面に指先を滑らせていく。その動きに従ってマフィンがソースコードを並び替え、追加し、書き換えていく。


「オッケー……かな? うん、大丈夫そう。じゃ、早速だけどさっきのムービー人志君に送っといて」


 頭上に小さな手を掲げて丸を作ったマフィンが風呂敷包みを背負ってとっとこ画面奥へと駆けていく。それを見届けると、深く腰掛けていた背もたれから身体を離した。


「要さんが入れるように穴も開けないとだねぇ……よし、頑張ろう!」


 いつの間にか画面に戻ってきていたロボロフスキーが鼓舞するように小さな拳を突き上げていた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 端末から震えを感じ取り、人志は自身の手首に目を向けた。画面外から中央へと這ってきた黒蛇がディスクを咥えてこちらに突き出している。

 そのディスクをタップすると階段を漂う黒い靄が純恋によって床に叩きつけられる短い動画が再生された。動画には短いメッセージも添付されている。


「なぁ紬、これ虫か?」

「え?」


 添付されていたメッセージとほぼ変わらない言葉を口にすれば、紬がちょこちょこと人志の傍に寄ってきて画面を覗き込んだ。反対側から瑠璃も顔を出して眺めている。


「……うん。これも蜂だ」

「同じ種類の虫ばっかか……マジでどっかにあんのかもな、巣」

「あれ? てか、通信出来てるじゃん!」


 瑠璃が驚いて自分の端末を確認するが、焦げ茶のポメラニアンが困った顔でぽよぽよと首を振っているだけだった。

 その間にも純恋とやりとりをしていたらしい人志が顔を上げる。


「オレと純恋の端末はちょっと特殊だからな。イズモとマフィン経由なら通信出来るようにアイツがプログラム弄ったらしい……まぁ、そのうち外とも連絡取れるようになるだろ」

「ほぁー……すっごいんだね」


 素直に感心する瑠璃に人志が薄く笑った。プログラミングに関しては純恋の方が能力は上なのだ、とどこか得意気に目を細めている。


「で、さっきの話の続きだが、放送室行くのは流石に無謀だ。虫の方のバグが赤城心結の支配下にない以上、この状況下で出歩いてるとは思えねぇ」


 直接対峙するには情報が足りない。彼女の作り出したバグもマイクロチップに異常をもたらすことに変わりはないのだ。

 それもそっかぁ、と眉を寄せていた瑠璃が不意にポンと手を打つ。


「じゃあ、音楽室は? おっきいスピーカー使えば校舎の外まで聞こえるんじゃないかな?」


 くるりと灰色の目が丸まる。『連絡を取る』手段を、とばかり考えていたが、『現状を伝える』なら音だけでも十分だ。要らも校舎近辺に待機しているはずである。


「あぁ……お前意外と頭良いんだな」


 思わずと言った様子で零れた言葉は一見すると馬鹿にしているが、瑠璃は人志の意図の通り誉め言葉として受け取ったらしい。えへへ、と照れ臭そうに笑っていた。

 根が素直なのは美徳ではあるが、端から見ていると少し心配にもなる。紬は何か言いたげだったが、彼ら二人の間で上手いこと完結していたようなので口を挟むのは控えた。


「音楽室なぁ……本校舎五階の真ん中だったが」


 今三人がいるのは文化部の部活棟の一階である。本校舎を挟んで両側に部活棟が立っており、反対側は運動部用の部屋となっていた。部活棟と本校舎に囲まれるようにグラウンドがあり、音楽室はそのグラウンドに面した本校舎中央五階にあった。

 防音が甘かった頃、騒音に配慮した結果この部屋配置になっているのだそうだ。当然部活棟からは遠いので、音楽室を良く使う吹奏楽部や合唱部は音楽室に併設する形で部室が存在している。スピーカー等の備品はその部室や準備室に置いてあるはずだ。


「エレベーター……は貨物用だけだったか。途中で止められても面倒だし、階段使うしかねぇな」


 よし、と気合を入れるように呟き、人志は立ち上がった。扉を少しだけ開けて外の様子を探る。相変わらず墨を零したように黒が漂う廊下に人気はない。


「あぁ、そうだ。コレ持っとけ」


 不意にそう言った人志が紬の胸に何かを押し付けるように渡した。たたらを踏みながら受け取ったそれは、対バグ用の特殊警棒だ。きょと、と首を傾げる瑠璃を前に人志は紬を引き寄せ、耳元で囁く。


「人間相手でもスタンガン程度の威力は出る。いざってときはためらうなよ」


 す、と身体を離すといくぞ、と二人に声をかける。紬は少し固まっていたが、瑠璃にも促され、慌てて彼の背を追いかけた。

純恋は当然のように心結を上回る天才なので。


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