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深刻なバグが発生しました。  作者: 四片紫莉
第二章

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46 赤い女、宣告

 たった一言で耳目を集めた女は、どこか得意気な表情を浮かべていた。生徒たちが何も返せずに沈黙していると、映像がどんどん引きになっていく。

 豪奢な椅子に腰かけていた彼女は黒のタイトスカートとタイツに包まれた脚を何とも優雅に組み直した。鮮やかな赤いヒールとスカーフタイがやけに目に付く。


 やがて全体が見えるようになった画面の中には、フルフェイスのヘルメットを被った集団が映っていた。異様な光景にどよめく周囲。ロッカーの中の人志だけが誰にも聞こえない舌打ちを零していた。


 女はぐるりと辺りを見回すような仕草を見せるとおもむろに立ち上がった。


『まずは自己紹介しましょうか? アタシはプログラマーの赤城(あかぎ)心結(みゆ)。後ろのは人類解放の会の人たちよ。アタシのスポンサーみたいなものかしら』


 こともなげにそう言ってのけた彼女は傍らに控えている男のヘルメットを軽くこんこんと叩いた。無礼を働かれているというのに、男はぴくりとも動かずされるがままだ。


『さて、早速本題に入ろうかしら……あぁ、大丈夫よ。アナタ達みたいなお馬鹿なお猿さんでも理解出来るように説明してあげるわ。安心なさいな』


 一呼吸ごとに人を不愉快にさせる才能に満ち溢れた女だった。血の気が多いタイプの生徒は既に恐怖を苛立ちで塗り替えかけている。しかし無謀に走るには、彼女の後ろで構えているフルフェイスの集団が不気味すぎるのだ。


『彼ら人を探しているんですって』


 ロッカーの中で人志が身を固くする。純恋を抱え直しながら外を伺うと、紬の様子がおかしいことに気づいた。両手で口元を覆い、モニターを凝視している。


『凡庸な……つまりはありふれた、面白味のないただの女の子よ。名前は――』


 ぶつん、と。唐突に画面が真っ暗になった。え、と誰かが呟くのが聞こえた。同時に扉の方からがちゃ、と解錠の音が鳴る。扉の前に溜まっていた生徒が少し力を込めれば、扉は滑るように開いた。


「え、何だったの? 夢?」


 誰かが呟いたが、誰かが首を横に振った。紬は混乱が治まらない中、掃除用具ロッカーへと向かう。


「人志君……」

「要が何とかしたっぽい。でも早めに校舎から出た方がいいかもな」


 端末を確認していたらしい人志がロッカーから顔を出した。純恋も頭痛が落ち着いたらしく、自分の足で立っている。が、その表情は暗い。紬もおおよそ同じような顔色をしていた。


「……紬はどうしたんだ?」


 純恋の方は予知の影響だとして、彼女は何を。そう考えたところで真っ暗なモニター画面に目が留まる。


 あの、女――赤城とやらは。おそらく昨夜、紬の周りをうろついていた女なのだろう。だとしたら、昨夜と同じように。


「バグか」


 思い至った可能性を口にすれば紬はこくりと頷いた。声は通っていたものの黒い靄に覆われていて姿はよく見えなかったと言う彼女の腕がくいくいと引かれる。


「顔色悪いよ。大丈夫?」

「あ……うん。大丈夫」


 腕を引いていたのは瑠璃だ。取り敢えず教室から出ようと判断した者はそれなりに多いらしく、残っていた生徒の影はまばらだ。瑠璃は青ざめてじっと動かないでいる()()()()()()紬を心配してくれたらしい。


「どうする? 教室出る?」


 瑠璃も怖いのだろう。紬の手を揺らす彼女の手も少し震えていた。紬は人志と純恋に顔を向ける。二人は顔を見合わせたが、不意にモニターの方へと視線を投げた。


 ジジ、と耳障りなノイズが走る。教室に残っていた数人もモニターを見上げていた。

 画面の中で何度も砂嵐が巻き起こる。やがて眉を吊り上げた女性――心結の顔が映し出される。


『何の取り柄もない子供なんて護ろうとして、バッカみたい。えぇ、いいわ。どこの誰だか知らないけど、護って見せなさいな』


 雑音と苛立ちの混ざった声がそこかしこから聞こえてくる。映像も音声もざらついてはいたが、言葉としてははっきりと聞き取れた。


『豊利紬』


 びく、と呼ばれた彼女の肩が跳ねあがった。モニターを見ていたはずの視線が突き刺さってくるのを感じる。


『特別な子なんですって。凡夫のくせに、()()()()()の隣に立って。何の才能もないのに出しゃばって、アタシの邪魔ばかりする!』


 爪紅で彩られた指先が歪んで、なのに真っ直ぐにこちらを指さしていた。


『アタシはアンタみたいな凡夫、どうでも良かったけど気が変わったわ』


 キィン、と金属が擦れるような音が校舎内に響き渡る。空気が揺れたような感覚に、何人かが頭を抑えた。


『豊利紬、豊利紬をアタシの前に連れて来なさい。そうしたら、その化け物たちを消してあげる』


 心結がそう宣言した途端、学校中が悲鳴で溢れた。ひ、と紬も小さく声を上げた。


 廊下の窓に、黒い影が映っている。明確な形を持たず、ゆらゆらと輪郭を揺らして動いている。

 それらから逃げ惑うように足音が聞こえる。そのうちの幾つかは、この教室を目指していた。


『あぁ、それに触らないように精々気をつけなさい? 触れるだけで貴女たちのマイクロチップに影響を与えるわ。何が起きるかはわからないけど』


 くすくすと意地の悪い笑い声を上げる心結はゆっくりと椅子に腰かけた。高みの見物のつもりなのだろう、ゆったりと脚を組んで顎を上げる。


『アタシと同じ、爪弾きされる孤独を味わうがいいわ』

「逃げよう!」


 瑠璃が叫んで紬の手を引いたのと、教室の扉が開いて生徒がなだれ込んできたのはほぼ同時だった。

こういうときじっとしてるのと移動するのどっちが正解なんでしょう。


評価・ブクマ等していただけると、とても励みになります。

これからもよろしくお願いします。

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