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深刻なバグが発生しました。  作者: 四片紫莉
第一章

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22/111

22 先読み、消失

「見つける……?」


 素直に疑問を口にすれば純恋は紬を捕まえていた両手に力を込めた。視線と同じ縋りつくようなその力に紬は戸惑うばかりだ。ぽたぽたと、また落ちてきた涙が繋がれた手を濡らしていく。


「君は……」

「こちらですか、先読み様!」


 唐突に飛んできた大声に、びくっと肩を震わせる。声の方向を振り向くと、紬にとっては懐かしい狩衣を来た男が路地裏を覗き込んでいた。その後ろにも数人同じような格好をした男と巫女衣装を着た女が続いている。


「先読み、様?」

「……ボクのことだよ」


 ずず、と一つ鼻を啜った純恋がパーカーの襟元から覗いていたチョーカーを弄っている。あ、あ、と何かを確かめるように発声すると、謎の集団がどよめく。


「おぉ! 先読み様のお告げだ!」


 膝に土がつくこともいとわない様子で、彼らは平伏した。困惑する紬を他所に純恋は一歩前に出る。


『陽動部隊との合流は無理だよ。キミたちは本部に戻った方がいい』


 短い応えと共に起き上がった彼らは紬たちに目もくれずに走り出した。本部とやらに戻るのだろう。

 やけに鼓動が早くなって、冷たい汗が背中に滲む。紬はそっと握られたままの腕を揺らした。


「逃げないで。お願い」


 幾分か低くなった声が乞う。握られた腕は痛みを感じるほどだ。存外強い力で引き寄せられ、空気にすら阻まれたくないとばかりにぎゅうぎゅうと抱きしめられる。


「ボクのこと見えるの、紬だけなんだよ。お願い、一緒にいて。一人にしないで……!」


 暗い場所を恐れる子供そのものだった。生来お人好しで面倒見のいい紬は一瞬ためらいながらもそっと彼女の背中に腕を回してよしよしと頭を撫でる。肩の辺りがまた湿り出したかと思えば、じわじわと首に圧迫感。


 疑問を口にする間も、振り払う間もないままに、頭に血が回らなくなった紬の意識はことりと落ちた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「……つまんね」


 どうせ大したダメージでもなかろうと、人志は中身が入ったままのヘルメットに足を乗せる。そのまま手持ち無沙汰にごろごろと軽く転がして遊んでいれば、中身から抗議の呻きが聞こえてきた。


 飛び道具は地に落ちる。近接武器は少しばかり重力を付与してやれば、手から滑り落ちて床にめり込む。丸腰の雑兵など優秀な動体視力と身体能力を合わせ持つ人志には遊び相手にもならない。

 ものの数分で一人残らず這いつくばらせた人志はイライラと要の連絡を待っていた。本当ならすぐにでも紬を探しに行きたいが、優秀な知能は要や美姫を待つ方が彼女の捜索に有益だと判断する。


 がこがこと凸凹の床に擦られ、濃い色をしたシールドには蜘蛛の巣状のひびが入っている。何となくヘルメットが気になった人志は留め金を蹴り壊し、器用に爪先に引っ掛けて脱がせた。中身に関しては意外と普通の顔だな、と若干失礼な感想を抱きながらリフティングで手元に持ってくる。


「え、重っ」


 思わず口にしてしまう程度には質量があった。どうやら通常のフルフェイスヘルメットではないらしい。かかる重力を奪い、片手でお手玉しつつ地に伏せる人の群れを見渡した。

 当然のように皆々同じヘルメットを被っている。おそらくはこのヘルメットに()()があるのだろう。


 後々鷹彦辺りが調べることになるのだろうと何人かのヘルメットを剥いで集めておく。いよいよすることがなくなり、人志はぐるっと辺りを見回した。


「あ」


 その視界に紬が買おうとしていたライトノベルが床に伏せているのを見つけ、何の気なしに手を伸ばす。幸い破れたりはしていない。気を遣った甲斐があるというものだ。

 ポップでかわいらしいうさ耳コック少女の描かれた表紙をまくる。ふわりとしたクリームの甘さとみずみずしい苺の香りが漂った。二巻の遊び紙はショートケーキの香りらしい。そしてこの本にも教わったばかりの栞紐がついていた。


 そうそう役に立つこともない、はっきり言って無駄な知識だ。それでも忘れて、切り捨ててしまうのはもったいない気がする。

 そんなことを考えていると開けっ放しどころか立て開きになっている引き戸の向こうで、見慣れた車が急停車した。


「おせえんだけど」

「言っとくけど最短で来てんだぞこっちは」


 助手席から美姫を抱えた竜弥が降りてくる。真緒も死屍累々の足元を気にせず近づいてくると人志の肩の向こうを指差した。


「あのご老人は?」

「ここの店主」


 短く答えた人志が一瞥もくれない真緒の指の先には、大の字に倒れた初老の男がいる。武装集団とドンパチ未満を繰り広げている間に店が滅茶苦茶になったショックで勝手に気絶したらしい。念のためにと真緒が脈を確認していたが、問題はなかった。ロッキングチェアに乗っていたクッションを頭の下に挟んでそのまま放置される。


「……えらいかわいいモン読んでんな?」

「あら本当だわ。うさぎのコックさん?」


 人志が読んでいたライトノベルの表紙が目に留まったらしい。小首を傾げる美姫にコイツはパティシエだと告げる。


「これ、紬が触ったやつ」


 読みかけのページに栞紐を挟んでぱたんと閉じる。そのまま竜弥の腕の中から伸びてきた小さな手に渡した。細く小さい指が表紙を撫で、桃色の目が瞼に隠される。


 美姫が情報を読み取る傍ら、真緒は人志が追いはぎした武装集団の一人を足でひっくり返していた。腰に下げていたマイクロチップリーダーをその首筋にかざす。ぴぴ、と小さな電子音が鳴って画面に情報が表示された。


「会社勤めの一般人だね……あぁいや、この会社確か回帰同盟に出資してるとこだ」

「うげ」


 短く嫌悪を表した人志に真緒も顔をしかめる。続けて別の男の首筋にリーダーを向ける。


「うん?」


 電子音が鳴らない。何度か試してみるが、うんともすんとも言わないのだ。様子に気づいた竜弥と真緒の視線が交差する。

 真緒は男のヘルメットを脱がせ、改めてリーダーを翳した。軽快な電子音が鳴る。


「……人志のことも認識してたし、電波の遮断ってとこかね」

「誰がどうやって造ったんだか……御姫様が忙しくなりそうだ」


 とは言え現状は紬が最優先である。視線が集まる中、彼女はゆっくりと目を開けた。眉を寄せ、困惑を浮かべている。


「紬ここにいたのよね?」

「……? あぁ、襲撃の瞬間も一緒にいた」


 美姫は両手で持ち上げた本に額をくっつけた。ぎゅっと目を閉じ、集中するように深く息をする。


「……ダメだわ」


 桃色の小さな唇から零れた言葉に人志が気色ばむ。なんで、とこちらも零れるように問えばぎゅっと本を抱きしめて目を伏せる。


「何度見ても紬の姿が掻き消えるの。本棚の影に倒れていたでしょう? 人志が声をかけようとすると、消えちゃったの」

「消えた……?」


 知らないはずの状況を言い当てる美姫の力は本物だ。しかし、その後の情報が解せない。それは真緒や竜弥も同じらしく、困惑している。


「誰かに連れていかれたとかじゃなくて()()()、なのか?」


 竜弥の問いにこくりと頷く。本人もよくわかっていならしい。幼い彼女にはままあることであり、竜弥がたまに気まずくなったりすることもあるのだが、今回とは毛色が違う。


『皆、近くの衛星カメラの精査終わったよ』


 不意に人志の手首から声が流れる。いつもと変わらないトーンの要は、静かに結果を報告する。


『結論から言うと、周囲のカメラに紬ちゃんの姿は()()()()()()()

「なんで……!」


 握り締めた手のひらに爪が食い込んで鈍い痛みが走る。なんで、美姫が見つけられない。なんで、カメラに映ってない――なんで、目を離した。

 吐き気がしそうなほどに怒りがこみ上げてくる。目の前が赤く光る。足元に転がっている何もかもが、ぶわりと浮き上がった。


「人志!!」

「――ッ!」


 叱責とともに後頭部に衝撃が与えられる。ごとん、と重い音がして重力が元に戻った。


「あ、……」


 厳しい表情の真緒から逃げるようにうつむく。ため息が降ってきて、くしゃくしゃと頭を撫でられた。視界に入った端末がチカチカと光った。


『ただ……心当たりが一つある』


 心当たり? と真緒が繰り返したところで猫の鳴き声が響いた。

デザイナーベビーが恵まれているのは異能だけに非ず。

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