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心の中の信じる気持ち
魔法中年
満月の夜。
夜氣がひんやりと肌をなでる。
一人の男が自転車をシャカシャカとこいでいた。
自転車のライトが道を照らす。
坂にさしかかっても男の勢いは衰える様子はない。
坂の頂で宙を浮き、自転車は空を走っていく。
満月にはウサギの影ではなく、自転車に乗った人の影が映っている。
「お母さん! 見て! 自転車!」
女の子がそれを見て驚いている。
母親は、なにを言ってるんだこの子は、と思って満月のほうを見ていない。
女の子は目をキラキラと輝かせていた。
この男の名は工藤信也、中肉中性、丸顔、少し天然パーマの頭髪に、眼鏡をかけている。
何のへんてつもない中年だ。
ただ一つだけ普通じゃないところがある。
魔法少女ならぬ、魔法中年だった。
「さすがに空とんでっと冷えるなあ」
下を見ると、まちの夜景は星の様に輝いている。
その代わりに、夜空の星々は姿を見せてくれてはいなかった。
公園がある場所に黒い何かの塊があった。