ティータイム
しばらくして執務室にセバスチアンが
ワゴンにクッキーとティーセットを
のせて入ってきた。
セバスチアンの横をエリザが歩く。
ワゴンをテーブルの横に止めると
セバスチアンは執務室を出て行った。
テーブルの椅子には
カインド、ザッケリン、フィリップが
すでに着席していた。
「遅くなり、申し訳ありませんでした。」
そう詫びの言葉を口にすると、
エリザはカップに紅茶を注ぎ
クッキーと紅茶をテーブルの
一人一人の前に丁寧に置いていく。
置き終わると、エルザもテーブルの席に座った。
カインドが紅茶に口をつけた。
「うまい。
茶葉が高級なのか香りもすごくいいな。
それと紅茶の入れ方が丁寧だからかな。」
「ありがとうございます。」
エリザはカインドに丁寧に頭を下げた。
「では、カインド猊下、フィリアに
詳しい説明をしてもよろしいでしょうか。」
ザッケリンはカインドに確かめた。
カインドが首を軽く横にふる。
「別にいいんだけどさぁ。
お前の説明って長いから後にしてくれや。
その前にこいつに父親の話でもしてやるわ。」
フィリップの胸は期待感で溢れた。
カインドは話を続ける。
「えっと、っ高貴な血だっけ?
お前の母親は
お前の本当の母親でもないって話からか?」
「聖人様!
母さんが本当の母さんではないとは
どういうことですか?」
「そや、お前を育てた母親はいわば
ただの誘拐犯やな。」
カインドはフィリップに驚愕の事実を突きつけた。
「そんな。そんなことって。」
「別にお前の母親はそこまで悪い奴って
わけでもないやろ。
お前を育てた気持ちは純粋な母性かもしれん。
ええとな。
貴族の中にお前に危害を及ぼそうって勢力がいてな。
お前をヘブンズライドン城から
赤子のお前を抱いて国外に逃がそうとした騎士が
逃亡中に追っ手に襲われて瀕死で倒れた。
たまたま通りかかった若い女がお前を拾って育てた。
それだけの話や。
お前を城に返せば、大金が手に入ったのにバカな女や。
家事、仕事、子育てに追われて、
結局、自殺して死んだんやからな。」
「聖人様、どうか母を悪く言わないでください。
俺にとって母さんと暮らした日々は
かけがえのない暖かな思い出です。
とても優しかった母のぬくもりは
本物だと信じていたいのです。」
フィリップは涙を浮かべて言った。
カインドはつまんなそうな顔をした。
「育ての母親が虐待もせずに
まともだったせいで
お前はしょうもない人間に育ってしもうた。」
ザッケリンが席から立ち上がる。
「猊下、それはあまりに酷い物言いでございます。
子育ての大変さを猊下は
ご存知ないのではありませんか。」
ザッケリンは震えながらカインドに意見した。
ボッ! とカインドの指から
放たれた衝撃波が
ザッケリンの顔面を撃ち抜いた。
ザッケリンの額は切り裂かれ、
血が流れて血まみれになった。
それでもザッケリンは
真っ直ぐな目でカインドを見つめる。
カインドは呆れた顔を
ザッケリンに向けた。
「お前も邪魔くさいやっちゃなぁ。
意見は後で聞いてやるから黙っとれ!」
ザッケリンに対して初めて
フィリップは尊敬の念を抱いた。