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4/4

第四話 パイロンとラルフ再び

全四話の話です。4/4

 ──半年後


「パイロン選手、大逆転のノックアウト勝ち! 最後は強烈な右のパンチ! 復帰後、驚異的な速さでタイトル奪取! 十年に一度の逸材とも言われた強さがついに蘇った!」


 あれから俺は元居た拳闘一座のボスに頭を下げ、復帰を認めてもらう。


 ボス曰く、俺が一座を辞めた時は「もうコイツは駄目だ」と思っていたらしい。特に冒険者稼業は単なるゴロツキの集まりだから完全に道を踏み外したと諦めていたとの事だった。


 けれども二年ぶりに俺の姿を見た時、以前よりも体の均整が取れていた事に驚いたそうだ。真面目に鍛錬を続けていた事が復帰を認めた理由だと教えてくれる。


 俺自身、約二年の冒険者稼業をしている間は遊んでいた訳じゃない。鍛錬を続ける事は当然だが、遠征で行った様々な場所で多くの事を学んでいた。


 それは本当に偶然だったと思う。とある町で宣教師から聞いた東洋の医療である「針治療」。怪我の後遺症に効果があるかもしれないと聞き、即座に大枚を叩いてその本を買った。駄目で元々だ。俺の体を実験台として本を片手にサラに針を打ってもらっていた。後、灸で合っているのか? それも俺の体で試してもらった。


 最初は試行錯誤の連続であったが、次第にコツが分かったのか体が軽くなったような感覚となり、少しずつ動きにキレが出る。数ヶ月の時を経て、気が付けば全盛期の動きを上回るようになっていた。


 藁にもすがる思いで手を出したのが思わぬ効果となった。


 勿論、その成果は俺で独り占めせずチームのメンバーにも勧めたのだが、誰一人として信用しない。結局俺はサラの空いた時間にいつも身体のケアをお願いしていた形だ。俺からすればそれだけで充分に恩を返してもらっていると思うのだが、彼女にとってそれは単なる仕事らしい。正直な所、サラが言う俺への恩返しは何を指しているか分からず終いでいた。


 そんな彼女はこの半年間ずっと俺の隣にいてくれている。


「師匠、師匠、おめでとうございます。念願のベルトですよ。お祝いに美味しい物を食べに行きましょう」


 控え室に戻る通用口で無邪気にそんな事を言いながら喜んでくれるサラ。


「いい加減『師匠』は止めないか。この半年、一緒に住んでいるんだぞ」


 そう。ずっと隣にいてくれていた。公私共に俺を支えてくれていた形だ。こういうのを世間一般では押しかけ女房と言うのだと思う。最初は俺の意思を無視する事に腹を立てたりもしたが、今があるのは彼女のお陰である事は間違いない。


 今度は俺が恩を返す番なのかとも時々考えたりもする。けれども、それは一生できないかもしれないな……


「よお。久しぶりだな。やったじゃないか」


『ダンテ!』


「嬉しいな。お祝いに駆けつけてくれたのか? ありがとう」


「勿論それもある。仲間から聞いたんだがな、お前の元いたチーム、依頼に失敗して違約金を請求されたらしい」


『……やっぱり』


「まあ、借金だな。詳しい話は酒でも飲みながら話してやる。今日は祝いだから嬢ちゃんも一緒に飲むか? 嬢ちゃんの分は酒じゃないけどな」


「サラです。何回言えば分かってくれるんですか。勿論行きますよ」


 この半年間で髪も伸び、少年と勘違いされる事はなくなったが、この辺のやり取りは何も変わらなかった。


 そうして一旦二人と別れ、身支度を整え待ち合わせの場所に行ったのだが……


「パイロン……」


 建物の影からずっと俺が出てくるのを待っていたのか、服もボロボロでひどくみすぼらしくやつれた元チームのリーダーであるラルフが近付いてくる。あのいつもキリリとした伊達男が見る影もない姿に落ちぶれていた。


「今更何の用だ」


 警戒を強めた俺に反応したのか少し離れた所で立ち止まる。そのまま膝を付き、土下座をするような格好で、


「あの時は悪かった。頼む。私達のチームにもう一度戻って来てくれ! 後、金を貸して欲しい……」


 祝いの一つも無く、相変わらず自分の都合だけの台詞を口にする。


「師匠、お待たせしました。お店の予約してきましたよー」


 俺が何も言わずにずっとその姿を見ていると、ダンテとサラの二人もやって来る。あの日以来俺達三人は随分と仲良くなっていた。


「おう。今行く」


 そう答えた後に懐から一枚の金貨を取り出す。


 チン


 指で弾いてトスをし、その金貨は地面へ。


「悪いな。もう俺にはクビにされない掛け替えのない場所があるんだ。ああいう形にはなったが、俺はアンタの事はそこまで嫌いじゃなかったよ。アンタには受けた恩もある。これでチャラにしてくれ」


 一言残し、そのまま去った。


「アァーーーーーーーー!!」


 合流した二人も何も言わずに踵を返す。背中に感じるラルフの激しい慟哭。その声に誰も振り返ろうとはしない。


 昨日までの過去、今日という現在、そして明日という未来。俺達はまだスタートラインに立ったばかりだ。これからやらなければいけない事が山程ある。


 故に俺達の新しいチームに「追放」という言葉は必要無い。するのは過去との決別。言うなれば、追放する事を追放する。それをするのに今日はとても良い日となった。

これで終わりとなります。

短い話でしたが最後までお付き合いを頂きありがとうございました。

アクションは無しの話ですが、追放からざまあまでをしっかりと書き切りました。


よろしければ是非、ブックマークや評価等で応援して頂ければ嬉しいです。

皆様から応援を頂けますと今後の励みとなります。

何卒お願い申し上げます。


それでは、またどこかでお会いしましょう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] しっかりとした骨子のあるガツンとしたカバタ山さまらしさが出ていて、楽しく読みました! ありがとうございました!
[良い点] 完結お疲れさまでした。 とても面白かったです……元リーダーの失敗ぶりがリアルというか、生々しいところがカバタさんらしいというか。(笑) でも話としてもコンパクトに上手くまとめてありましたし…
[一言] 完結おめでとうございます! お手本のような追放からのざまあ! 参考になります!
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