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タクシー

作者: geinguns

真冬。

真夜中。

外は霧のような細かい雨。



この三つのうち一つでも当てはまれば

バイクには乗るもんじゃない。



そう思いながら

真夜中の雨が降りしきる中

雄太はバイクにまたがった。




400cc空冷4気筒の咆哮が

雄太の体に響き渡る。



いつもなら心地よい響きなのだが

この条件ではさすがに味わう余裕もない。




防水ジャケットに身を包み

静かにバイクを発進させる雄太。



ため息をひとつ。



するとそのため息は

バイザーを白く染め



雄太の憂鬱を

さらに助長させた。



講義のあとバイトに直行し

夜中まで体を酷使した雄太。




もちろん疲れている。





飛ばすつもりなど毛頭なく

慎重に運転する雄太。



今は一刻も早く家に帰りたい。



濡れた体を乾かして

家ではやくつろぎたい。



その一念だけで

雄太はバイクを走らせていた。





信号が赤に変わり停車する雄太のバイク。





ここにつかまると長いんだよなあ…




しかめつらをしながら

そう考える雄太の後ろに



黒塗りのタクシーが一台、音もなく停車する。




やがてタクシーから一人の男が

降り立ちこちらに歩いてくる姿が




バイクのミラーに映し出されるのを見た雄太は

怪訝な顔をして少し緊張した。




一体何の用だ?




「こんばんわあ…寒いですねえ」




男はそう言って精いっぱいの笑顔を作る。




バイザーをあげた雄太。




「こんばんわ…何の用ですか?」




「少し道に迷ってしまいましてね…



〜病院への道を教えて欲しいんですけど」




相変わらず精一杯の笑顔を作りながら

タクシードライバーの男は雄太に話しかける。




ふだんから世話好きの雄太は

少し煩わしいとは思ったが




バイクから降りて丁寧に病院までの

道順を教えた。




「ありがとうございます。助かりました。

お客さんを乗せたのはいいんですが



道がわからなくて困っていたんですよ。




お客さんもお礼が言いたいとおっしゃっていますので

こちらへおいで願いませんか?」




律儀な人もいたもんだと思い

タクシーの方に歩いていく雄太。




後部ドアの前に立つと

パワーウインドが音もなく開いていく。



このとき雄太は不思議な思いに駆られた。






何だこの…におい…






さらに開いていくパワーウインド。




開いた窓から中を覗き込んで見ると

誰もいない。



たださっき感じた異臭が

さらに倍増されて雄太の鼻を刺激する。




なんだ?




雄太は少し不安な気持ちに

撮りつかれていく。



暗闇の中

雄太は目を凝らすと





いた。




客らしき人影がいた。




いや…いるにはいたのだがそのお客

後部座席にうつぶせになったまま



全く動かない。




動かない客。

そして、異様なにおい。




まさか





「にいさん、それは血の匂いなんですよ」





その言葉を聞くと同時に

雄太の後頭部に激しい衝撃が走った。




道端に倒れる雄太。




そして鉄パイプをにぎりしめたドライバーが

ドアをあけ強引に雄太を車に放り込む。




先客と重なるようにして

後部座席に収まる雄太。




なおも収まらない頭の激痛に苦しみながら

雄太は一つのことに気がついた。





「この客…凍ってるみたいに…冷たい…」





車に乗り込み車を出すドライバー。



雄太を乗せたタクシーが

夜道へと滑りだしていく。





するとハンドルを握ったドライバーが

ビデオカメラを取り出し



カメラに向かってしゃべりだした。




「ええと、本日2人目のお客さんでーす。




年は二十歳くらいの男だね。

バイクに乗ってるよ。




俺バイクって嫌いなんだよねえ。

だって走っていて邪魔なんだもん。



横をすれすれにすり抜けたり

急に横入りしたり全くたまんないよ。



だから、今からバイクに乗ってる奴を

お仕置きしようかなと思って。



さあ、期待して見てくれよ!」




ひとしきりカメラに向って

しゃべった男は

今度は雄太の方を向き



にやりと笑いながら

落ち着いた口調で語りかける。




「お客さん、私ブログが趣味でしてね。




最初はね

風景を撮ってアップしたり

他愛もない文章を書いて普通にブログを作っていたんですよ。




でも




まったく誰も見てくれませんでしたねえ…




苦労して作ったブログです。



夜アップして

次の日ドキドキして訪問者をチェックするんですがね、




訪問者がナシだった時の落胆した気持ち

あなたは分かってくれます?




ほんと辛いんですよ。




でもある日

道で撮った交通事故の写真をブログにアップしてみたら





今までとは全く考えられないほどの人が私のブログを見てくれたんです!





その時の快感はいまだに忘れることはできません。




それからの私はだんだんとエスカレートしていく一方でした。





次々と伸びていく訪問者の数に

私の頭はだんだん麻痺していきます。




そしてね

最もウケた企画ってのがね、あるんですよ。




何だと思います?これですよ、これ」




男はカメラをぽんと叩いて

会心の笑みを浮かべる。




「ビデオですよビデオ。それも過激な奴。

最も受けたのは血しぶきが飛ぶ…」






男は雄太をじっと見つめる。





「殺人ビデオですよ」






大きな声で笑い出す男。





「あなたの下に人が倒れてるでしょ?




さっきねこの人のビデオをアップしたら

100万ですよ?100万!





すごいでしょ!





ははっはは!




この人には感謝の気持ちでいっぱいですよ!




さて君は…」





男はハンドルを切り

暗い山道に向かって車を走らせた。





「何百万稼いでくれるかな?はははは」







深い山奥についたタクシー。





雑木林の脇に車を止めた男は

乱暴に雄太を引きずり出した。




動けない雄太を前に男は



ダッシュボードから

ナイフを取り出した。




そして再びカメラを回す。




「はい!皆さんお待ちかねの殺人レシピの時間ですよ!

今日はこのナイフを使ってみようと思いまーす!



切れ味抜群で骨まで切っちゃうよ!

では料理開始!!」





狂気の眼をした男は

両刃の禍禍しいナイフを手に



一歩一歩雄太へと近づいていく。




そして雄太の喉元に当たる冷たいナイフ。




男は息を荒げて赤い顔。



「へへへ、じゃあ喉から…



喉から、いくぜ…せーの!」




まさに雄太の喉元を切り裂こうとした

その瞬間




「コウちゃん、だろ?」




雄太がそう言った瞬間男は

動きをピタッと止め雄太を凝視する。





「な、なぜ俺の名を…知っている」




目の焦点が合わない男。




雄太は先ほどと全く違う落ち着いた声。



ゆっくりと男に向ってしゃべりだす。




「読んでるよ、コウちゃん。



コウちゃんのかんたん殺人レシピ。



毎日楽しみにしてるんだ、俺」




突然響く乾いた銃声。




驚愕の顔をした男の胸から

おびただしい血が流れていく。




胸から

太もも



そして足元へと流れおちていく血は



血だまりを地面に作っていく。





「そして、俺の名前はユウタだ」




男は苦悶の表情を浮かべた男は

さらに驚きの表情もミックスさせ



この世のものとは思えない狂気を漂わせている。





「ユ…ユウタだと!くそ!…くそ…」




そう言いながら男は地面に倒れそのまま

動かなくなった。




雄太は立ち上がり

懐からカメラを取り出した。





「以上!コウちゃんの殺人簡単レシピは今日で最終回です!

明日からはランキング2位のユウタが



引き継いでいきまーす!

よろしく!」



夜の雑木林の中

雄太の笑い声がいつまでも響いていく。




雨はやみ



糸のように細い三日月が

雄太の背後に何も言わず浮かんでいた。











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― 新着の感想 ―
[一言] 感想ありがとうございました。 「タクシー」を読ませていただきましたので感想をば。 余計な描写を排除した携帯小説的な構成、 文章の間隔も読み進める際の表示を意識したものでしょうか、 少ないな…
2012/05/20 11:34 退会済み
管理
[一言]  丁寧に書かれていると思います。いくつか難点はありますが、怖い雰囲気や意外性の展開、構成を組まれるコツを少なからず理解されていると思います。ですが、どうして話をショートにされたのか理由は解り…
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