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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
一章 一目惚れは銃弾と共に
6/99

1-2 一話 「花火はお好きですか?」1


 「・・・


 「・・・ァ・・・

 

 「・・・・ハァ・・・


 「・・・・・・ハァ・・・ あっツ!」



 突き刺さるような鋭い光線が降り注ぐ中を

今、正にその生命(いのち)は絶えようとしているような足取りで、ただただ歩く。

体力、身体能力にはかなり自信のある俺だけど、この攻撃は── 

さすがに堪える。


 うだるような熱気なのに玄関先で初夏という言葉を連発しつつ

「ヤァーネー!」と涼しい顔して腕を組みながらも、手の平だけを

ヒラヒラさせている立ち話中のおばはん方を、汗だくの俺はいっそ一太刀で

滅してやりたくなる気分だ。この氷属性のクリムゾンソード(スイカバー)で。

何が初夏だよ!フルスロットルで真夏の日照りですよ?





二〇十八年七月 京都近郊

 

 夏だ、暦の上での季節なんて、まったくもって当てにならない程の

絶対的な夏。

 多くの人が“京都”と聞くと思い浮かべるだろう町並みを

はなはだ遺憾ながら、根本から裏切るような形で何処にでもある

ちょっと田舎な小都市。


 俺は行きつけのコンビニで、毎年販売が開始されると必ず購入するリストの

ナンバーワンである好物スイカバーを咥えながら、ヒラヒラヤーネおばはん達の

横を通り抜け、昼食のコンビニ弁当を携えアパートへの帰路を急ぐ


「輝かしい高校生活最大の花!夏休み!」

「青春のほろ苦さ、そしてひと夏の淡い恋、海に水着!夏祭りと浴衣」

「あとエロス」


 ブツブツとつぶやきながら、目抜き通りの角を曲がる頃には、駅前特有の

喧騒はすっかり身を潜め── いや、違うか

駅前の喧騒は、夏特有の(セミ)の大合唱にすっかり塗り替えられた。

要するに暑苦しいのに加えて、どこに行こうがうるせぇ!って事


「海、キラキラまぶしい水面」

「俺の好みでしょ?と嬉しそうに微笑むカノジョのパレオ付き白いビキニ」

「ハァ・・・ エロす・・・」


 うるさい蝉の鳴き声にうんざりしつつ、影踏みのように家々が落とす

影になった方の歩道を選んで歩く。

 

 近隣のコンビニの中で、唯一と言っていい旨いベン・トーを売るその店は

残念なことにアパートより幾分遠い駅前にしか無く

駅前まではアパートから徒歩で15分は歩かなければならなかった。


 本来、駅前までは俺の愛馬、キングデュラハン号(250CC)で馳せ参じれば

ものの数分で到着するのだが── 先週、突然路上へ飛び出した猫を避け転倒。

慣性の法則で横滑りした車体はそのまま街路樹に激突した。

哀れデュラハン無念の入院。


 俺はと言うと、結構なスピードでスっ転んだにもかかわらず───

俺も俺の小脇に抱えられた猫も全くの無傷だった。


 まぁ生まれ持っての運の良さ──か、

まいどまいど、マジでサンキューな神様。


「こんな日は冷房のきいた駅前のファミレスでカノジョとピザでも食いたい───けど」


「修理代10万は痛いよな──」


「8月の中旬まで仕送り持たすには──」


「まぁ今はイレブンのベン・トーで我慢するしかない、か── 」


「あー あー エロす、エロす!」


 アイスの棒をマジックタクトよろしく、憂鬱なる気分を(ほふ)る魔法の呪文を

唱えつつ、Tシャツ越しに背中を伝う汗に眉をひそめながら、トボトボと歩くと

程なく、新しいとも古いとも言えないアパートへたどり着いた。


日 比 谷 


 そう書かれたポストの中より、毒にも薬にもならない紙切れ数枚を手に

やっと冷房のきいたマイキャッスルへと妄想王は凱旋する。

中二心をくすぐるガラステーブルに、ポストから回収した電気会社の検針票

その他を、キッチン側から放り投げる。


その惰性で、流れるように華麗なターンをしながら

スペシャルランチをレンジに入れる。

放った紙切れに目をやりながらつまみを廻す──と、

その中にある、チョット気の利いた、しかしながら何処か野暮ったいデザインの

カラー刷りのチラシに目がとまる。


桂川納涼花火大会のお知らせ   

  今年で48年目となります当、納涼花火大会は──


「花火大会、か── 」


「カノジョ、楽しみにしてたな・・・水色の浴衣買ったって─── 」


 肩より少し長い彼女の栗色の髪、今日は浴衣姿に合わせ、帯と同じ柄のリボンで

珍しくアップにしていた。フザケやがって!いつもに増して素敵だ。

 数多くの屋台が立ち並ぶ河沿いの土手を、二人は多少照れながらも

手をつないで歩く、お目当ての屋台を見つけた彼女は、浴衣の裾を気にしながら

小さな歩幅で駆け出す、うっかり俺の手を離してしまった彼女は

振り返りながらうちわを口元近くに寄せ、再び俺の手を求めて手を伸ばした。

彼女は屈託のない笑顔を俺に──


「浴衣の襟足からチラリズムのうなじ・・・エロす」


 夏の始まりを告げる夏の風物詩、その手のゲームや映画ならば

まさにクライマックスなイベント(さま)である。


 様々な文献や映像によるとだな、この時期特有の催しモノの際

多くの若者がまったくもって不本意ながら、夏の妖精が放つ桃色の魔法という

不可抗力に勝ること叶わず、うっかり大人の階段を登ってしまうとされている。


 高校最後の夏休み、それも夏祭りといえば、これらの物語の語り部や主人公が必ず

体験する、ストーリーの中でも特別に神格化されたストーリーの山場として───

いや、もはや主人公たる者の通過儀礼として絶対体験するはずの主要イベントである。  


                              以上、俺調べ。


だが

「今年も─── フラグなんて(恋の予感)─── ありませんでしたね(GOD)


そうつぶやくと同時に残念王の欲求を満たさんが為、鐘の音が居城に鳴り響く


『チーン───』


温めすぎたのか、コンビニ弁当の蓋はすっかり反り返っていた。





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