1-1 訪日
二〇十八年七月 関西国際空港
ヒースローからのチャーター便で、私は再び日本に降り立った。
今回も仕事の為の訪日となったが、以前の記憶が未だ私の心を締め付けて
いた。
「何度訪れても重々しい気分になる、私はこの国が嫌いだ─── 」
そう呟くと、慣れた手付きでサングラスを取り、スーツの胸ポケットへと
差し込んだ。
何かと物騒な昨今、いくら平和ボケしたこの国とて
国際空港ともなれば監視カメラの数も尋常ではない・・・か。
職業柄無意識の内に私はその場所と死角を頭に入れる。
シンプルな三つボタンのダークスーツを纏い両手には黒の革手袋、銀色の短髪に
整った鼻筋の顔立ち、彼を表現するのに“端麗”というより他に言葉がないような
その姿は、様々な人々、人種が往来する国際空港という場所においても明らかに
浮いていた。
様々な言語の喧騒の中、大きな旅行カバンを携えて到着口より溢れ出す殆どの
旅行者達とは違い、彼の荷物は比較的薄手の書類ケースただ1つだった。
まるでよくある映画の諜報員のような出で立ちの彼だが特徴的なその容姿とは
うらはらに、周囲の人々は彼を、“まるでこの場には存在していない”かのように
一切意に介する事はなかった。
「まずはアシを受領しに行くか── 」
透明人間のような彼は、慣れた足取りで京都郊外へと向かう・・・