第一部 エピローグ 「俺と彼女の夢物語」
「––––––レンマっ!」
☆ ☆ ☆
名前を呼ばれて目を覚ます。
ピンポンパンポン、軽やかなメロディーが、半分開いた窓から聞こえる。空には大きな雲。
綿菓子みたいで甘そうだ。黒板の上にかけられた時計。その長針が指すのは10寄りの9。
「ヒェッ」
隣で小さく悲鳴が上がった。
「お、起きた……?」
上履きと床が擦れる音がして、側の少女が後ずさり。不審げな眼差しでこちらを眺める。
「体調でも悪いの、大丈夫?」
可愛い女の子だ。
美少女と言っても間違いはないだろう。
「あなた、遅刻してきたかと思ったら、そのまま突っ伏せて寝ちゃうし……」
人差し指を顎に当てて視線は斜め上。
今までのことを回想し出す。
「一緒に遅れてきた男の子が声をかけに来たんだけど、それでもビ、……ミトウくん幸せそうに寝てて……」
龍太郎のことか。薄情なやつめ、肩にでも担いでくれよ。
「…………ってどうかした? さっきから私の顔じーっと見て。何かついてる?」
コクリと小首を傾げる動きに伴って綺麗な黒髪がさらりと揺れた。
「もしかして」澄んだ囁き声。
「わたしたち、どこかで会ったことある?」
黒目が揺れた。まっすぐな眼差し。
可憐で温かくて。
麗らかな眼差し。
そうだ、会ったことがある。俺は、君に。
そう、例えば––––。
「…………夢で会ったんじゃないかな」
「は? きもっ」
肩を抱いて嫌悪に顔を歪ませる。
「いや、そんなゴミを見るような目をしなくても……」
はっと、彼女は口元に手を当てる。そしてピコン! と頭の上で電球が光ったみたいに何かに閃ひらめく。
「ゴミ! そうだ! ゴミトウって覚えればいいんだ!」
はぁ、こいつは。
聖本麗は、やっぱり。
「可愛げのないやつ」
どこからともなく、小さな音でジリリと何かが擦れるような音がしたかと思えば古典的なキーンコーンカーンコーンという鐘の音がスピーカーから流れ出した。
「どうしよ! こんな時間」
あわあわ慌てる聖本。
ポケットをパンパン叩いて所持品を確認すると、息を吐く。
「ほら、いこっ?」
ゴミトウ、とこちらに手を差し伸べる。
俺はその手を離さぬよう強く握りしめて。
教室を後にする。
そして、俺は、俺たちは。
生徒も教師も誰もいない。
無人の廊下を二人で走った。
第一部 完




