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俺の超常バトルは毎回夢オチ  作者: みやちゃき
第四章
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第一部 四章 「一人レジスタンス」

 これでようやく。

 夢の続きを話せる。



                ☆     ☆     ☆



 端の壁にもたれる格好で座り込む。だらんと垂れ下がった両腕。


 両足の間には一枚のボロ紙。

 元々は長方形だったはずが、破られ折り曲げられ、ひどいシワがよって不恰好な三角形に変形していた。

 それは生徒の校外活動や優秀な成績を収めた部活の紹介などが載っている、広報担当の先生が掲示した「がっこうだより」だったもの。


 無残な姿に変わり果てたプリントの上に、ポロポロと破片がこぼれる。

 身を包んでいた鋼の鎧。鋼鉄の硬度を誇るはずが、ひびが入り俺が体を動かす度に剥がれ落ちていった。床にはまるで宝石みたいな輝きを放った破片が広がる。


 綺麗、思って眺めていると、止められた時間の針が動き出したみたいに、固められたしろがねの炎が一瞬揺らめきそのまま消えてしまった。それを合図に鋼の鎧は、炎に姿を戻し俺の体で燃えたあと最後のきらめきを放って消失する。


 代わりに体を包んでいるのは、まだ着慣れていない高校の制服。

 あの時、俺が彼女を追い詰めたと勝手に思い込んでいた時。


 刹那せつなの戸惑いのあとタックルをかまそうと結論づけた俺を彼女は嘲笑っていた。

 力を溜め続けて解き放った渾身の一撃。


 どうやら自分では無意識に最低限の鎧を生成していたようだ。さすが偉大な主人公、大地鉄真だいちてつまの能力。

 咄嗟に発動して俺の身を守るだなんて、その恩恵があるのかもしれない。主人公補正の恩恵が。


 あんな、見るからにヤバそうな一撃をまともに食らっていたら命はなかったかもしれない。

 よろめきながらも、背面の壁に手を付きながら立ち上がる。


 よかった、まだ体は言うことを聞いてくれるみたいだ。

 吹き飛ばされ、壁と衝突した衝撃で、所々が悲鳴をあげているが幸い致命傷ではない。

 不幸中の幸いといったところか。


「まだ生きてたんだ」


 廊下の向こうで聖本ひじりもとは感心したような声を出す。


 余裕の満ちた表情だ。


 このままではダメだ。こんな状態じゃ一生、いや五生くらいかかっても彼女には敵わない。

 それはつまり主人公に、俺の憧れが叶わないということ。

 どこか、どこかで体制を立て直さなければ。


「その様子じゃ死んでるのと変わんないか」


 フーッと一息。ラジオ体操第一、腕を前から上に挙げて大きく背伸びの運動ーーはいっ! とでも言わんばかり体を伸ばす。続いて体を横に曲げ脇腹を反らし、手首足首の関節をポキポキ鳴らす。

 一連の動作はまるで、今までは準備運動の一環よ、と伝えているようだった。

 右の腕をブンブン勢いよく回す彼女に向けて人差し指を突き立てる。


「いいか、聖本。これは逃げるんじゃない、決して尻尾を巻いて逃亡するのとは違う……勝つための、そう、戦略的撤退だ!」


 彼女に聞こえる声で選手宣誓ばりに宣言し、脇腹を抑えながらすぐ真横の階段を降りる。

 足が絡まりもたつく。酔っ払ってもいないのに千鳥足。

 とりあえず、どこか。どこか場所を移さないと。

 手すりを掴み、二段飛ばしで階段を踏みつける。

 三階と二階の間の踊り場。窓から外を見下ろす。


 ここから飛び降りてみるか。鋼の力を持ってすれば怪我などしないはずだ。

 いや、ダメだ。外は見晴らしが良く遮蔽物が少ない、彼女にとっては絶好の的となってしまう。

 戦略的など都合よく言ってみたものの、勝どきを上げるための戦術なんて一つも浮かんでいなかった。


 くそ。どうすればいい。


 頭を抱えていると、コツリ。頭の上で階段を降りてくる音が聞こえる。

 近寄る音は焦りと恐怖を倍増させ、俺の足は目的もないが一階へと急ぐ。


 目の前には昇降口。右横に伸びる長い通路は特別棟へと繋がっている。左手には教員室と保健室と、トイレ。

 いっそのこと男子トイレに籠城するか。それもありだ。例えこの勝負に負けたとしても、彼女が一歩足を踏み入れた時点で別の勝負には勝った気がする。


 コツリコツリ。硬質な足音が近寄ってくる。きっと今彼女は二階くらいか。

 ああ。もうそうするしかないのか。残された手段は、何か。


 周囲を血眼になって見渡す、すると来校者向けに校内を案内する地図が廊下にあるのを見つけた。何か手がかりになる場所は。彼女に勝つための戦場はないのか。すがる思いで自分の背の高さほどの案内板へ。


 特別棟一階、図書室。戦争するには向いている場所かもしれない。二階に移って、理科室。音楽室。美術室………。どこだ。どこに行けばいい。理科室にはどんな薬品が置いてある、何か役に立ちそうな楽器はあるか、美術室の造りはどうなっている? 


 ああ、一度とて行ったことがない場所で、どうやって戦えばいいんだ。なにも知らない場所でどうやって。情報がなにもない。情報が。

 階段を降りてくる足音が次第、大きさを増す。一段一段、丁寧に、慎重に、確実に近づいてくる。


 ダメだ。もう時間がない。ここで対峙するしか選択肢はないのか。こんな何も無い所で。どこか、どこか俺の知っている場所はないのか。


 この時に限っては鋼の力より、天才的なひらめき力が欲しかった。危機を脱するような思いつきが。


 必死になって凝視する。すると一つの教室に視線が引き寄せられる、記載されたその名称が光って見えた。見覚えというより、聞き覚えがある文字。震えるか細い声で、あの人はあの時なんて言っていたか。

 一般棟一階。特別棟へと続く左手の通路の途中にある場所。

 俺はそこに一縷いちるの望みを託した。

  

 錬真れんま少年は、ボタンを押すのが好きな子供だった。


 レジスターのおもちゃを買ってもらって一日中ポチポチ遊んでいた。

 エレベーターなんて乗ったらもう大変。全ての階のパネルを押していた。


駅のホームにある赤いボタンを押したら駅員が血相変えてすっ飛んできた時は焦った。

 怪しげなスイッチを見つけると、「これを押したら何が起きるのだろう」という好奇心が掻き立てられた。

自分の小さな人差し指で、同じく小さな突起を押したら、大きく複雑な機械が言うことを聞くのが面白かったのだ。


 ゲームが好きな理由の一割くらいは、コントローラーを扱うのが楽しいから。

 俺が息を切らして駆け込んだその部屋には、大きさは自分の部屋と同じくらいか少し狭いくらいの一室には無数のボタンが並んでいた。小さい頃の俺が来たらさぞ興奮することだろう。


 ああ、時間があるならここにあるもの全てのオンとオフを切り替えたい。なんてお門違いな欲望を抑える。


 そう、一つでいいのだ。触れるスイッチは一つでいい。


 目当てのそれは長い延長コードで繋がれ、間違って押してしまわないよう他のボタンとは分けて机に置かれていた。そのお陰で初めて入った人間でも一目でわかる。


「さすが、全校生徒の前で宣伝するだけあるな」

 

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