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俺の超常バトルは毎回夢オチ  作者: みやちゃき
第一章
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第一部 一章 聖女は銃なんて持たない

挿絵(By みてみん)

聖女は両手に銃なんて持たない。 

 ましてや善良な一般市民に向けて発砲するなんて、もってのほか、だろ?


 通路の正面まで出てきて、体をこちらに向け両手を構える。その手が握るは二丁の拳銃。一連の動作が、話し合う気なんてさらさらないことを意味している。


 銃口と見つめ合う。顎を引いてニヤリ、口元が歪む。大人っぽい顔つきのくせにその時の表情はとても子供っぽかった。


 まずい。


 止まっていた足が動きだす。迫る危機に恐怖して、本能的に彼女から背を向け再び走り出した。

 彼女が握る得物は、いわゆる普通の銃とは違う。まず形がいびつだ。所々シャープで所々カーブで。

 一つが彼女の腕くらいの大きさで、色は髪の色と同じ銀。たまにピンクが点々。射出される銃弾は、握りこぶし七、八個分ほどの、薄紫色した半透明。


 例えばそれが人に命中した場合、実弾と違って体を貫通はしないだろう。代わりに強烈で、猛烈で、痛烈な打撃を味わうことになる。先ほどグラウンドで一発味わった。思い出すと鈍く腹部に広がった痛みが余計に増していく。


 足は全力疾走のまま上半身だけ振り向くと、痛みの原因を作った二丁の凶器とまっすぐ目が合った。きらりとすこし、銀色の銃身が光を反射させて怪しく光る。


 どうする。


 一瞬の逡巡。

 このまま前を向いて走るか、振り返りながら走るか。首が行き場をなくす。後ろにも目が付いていたら、なんて。


 やばい、と頭の中に三文字が浮かぶ。感情的で喜怒哀楽が激しい幼馴染系の右脳ちゃんと常に冷静沈着で縁の尖ったメガネをかけた学級委員長系の左脳ちゃんが脳内に二人いるとしたら、右脳ちゃんはやばいよやばいよと連呼して、左脳ちゃんはひたすらこの状況を分析していた。


 その二人から成る俺こと錬真ちゃんはひたすら混乱していた。パニックって横文字がしっくりとくる。走りながらショート寸前の思考を必死に巡らせる。


 もうすぐ廊下の端だ。階段のある、あの曲がり角まで間に合うか。そもそも振り返りながら走ったところで、あの銃弾を見切れるのか。俺の目は捉えきれるのか。それならいっそ全力で駆け抜けてしまおうか。いや待て、避けきれない訳ではない、目で追える。だけど……。


 時に人生は、不意に起きた出来事に救われることもある。


 具体的には、意識散漫で疾走していたところ両足が絡まって転倒する代わりに、頭部を狙った一発の銃弾が髪の毛をかすめていくような。まさに間一髪で紙一重。


 手を付くことも出来ずその場に大の字で寝転ぶと、打撲の痛みより床の冷たさを感じた。


 見えなかった。


 銃弾の軌道を追えなかった、反応できなかった。さっきは出来た。グラウンドからこの四階に逃げて来るまでに何発か彼女は俺に発砲したがかわせた。なのに、今は反応できなかった。


 依然、遠くの彼女の様子は変わらず。両手に握るものがあんな物騒なものじゃなくて、例えば可愛くラッピングされた手作りのマドレーヌだったり、徹夜で書いた丸文字のラブレターだったらいいのにな。そしたら今までの暴力だって多少は目を瞑れるのに、ツンデレというオブラートに包んで水に流せるのに。彼女の頬が恥じらいで朱に染まっていたらいいのに。


 なんてありもしない夢物語。

 彼女の両腕から伸びる先、二つの黒い穴が見つめる先、俺の向こう。首を反対側に倒して銃口の視線を追う。


 コルクで出来た掲示板が、貼られていたプリント「がっこうだより」と共にひん曲がっていた。ぐちゃぐちゃに。校長先生が見たら悲しむぞ。


 もう嫌だ、起き上がりたくない。このまま倒れ込んでいたい。

 銃口からは白い硝煙がゆらゆらと漂っていて、それがまるで催眠術のように俺の意識を遠のかせていく。


 敵前にして戦意喪失。いや喪失じゃないな。疲れてしまったんだ、緊張感が張り詰められたこの空気に、逃げることに。追われているという恐怖に。こういう状況のことをカタストロフって言うんだっけ、違うか。


 いっそのこと、眠ってしまいたい。

 しばらくこのまま、このままでいたい。


 目前の快楽に溺れていたい、布団が恋しい早朝のように「あと五分だけ……」と呟いて現実から背を向けることが出来たら。そんな朝はいつもなら妹が起こしてくれるのだけれど、今ここには俺と彼女しかいない。


 ああ妹よ、助けにきてくれ。今の俺に必要なのはいつものお前の騒々しい高い声だ。


 なんて祈っていたところ、妹の代わりに俺を起こしたのは彼女だった。

 それもやかましさとは対照的な、控えめで透き通るような声で。


「また逃げるの」


 呟く彼女の表情は怒りの中にほんの少し哀れみの情が見てとれた。

 ドクンと自分の心臓が大きく脈打つ音が聞こえる。


 床の冷たさに別れを告げて立ち上がり、出かける前に姿見でする時みたいに服をパッパと払いシャツの襟を正す。


 そうだ、逃げちゃいけないんだ。

 さっき約束したばかりじゃないか、彼女をもう悲しませないために、何より自分自身にもう二度と失望しないために。


 それなのにもう忘れてしまったのか、俺ってやつは馬鹿だ。そうだ、逃げない。俺はもう目の前のことから逃げちゃいけないんだ。わかってるよそんなことは、わかってるから、だから、頼むから。


「そんな顔で俺を見るなよ!」

 

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