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俺の超常バトルは毎回夢オチ  作者: みやちゃき
第三章
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第一部 三章 「ナンセンスに逆戻り」

「風紀委員でした。ありがとうございました。……続いては放送委員です」


 宇佐美先生に紹介されまた壇上に生徒が上がる。現れたのはおさげにメガネの女の先輩。


「あ、あの……っ! みなさんこんにちは放送委員でひゅっ!」


 どわはは、と場内に笑いが起こる。当の本人は耳まで赤く染めている。

 うわぁぁぁ。見てらんないよぉ。可哀想だよぉぉ。「泣かないで~」と叫んでしまいそうだ。


「みなさん静かに」


 低い声で宇佐美先生が話すと、笑いも収まっていく。さすがウサミン。


「あ、はい。えっとぉ……私たち放送委員は、お昼に放送とか、しています……」

  ……それだけ? ってか絶対あの人お昼の放送に向かないだろ!


「え、ええと、あとは。もし、学校に不審者が入って来た時の、警報音とか……あります」


 なんじゃそりゃ。その情報いる? これと言って特にないから伝えただけだろ。

 確かに昨今物騒になったが、日本の高校に不審者が入ってくることなんてそうそうあるものではない。海を渡った大国とかなら、高校で銃乱射事件なんてニュース耳目にするが、この島国で銃なんて。ねぇ。


「よ、よろしくお願いしますっ!」


 と勢いよくお辞儀をすると、おさげの先輩は逃げるように壇上を後にした。「放送委員でしたありがとうございました」と宇佐美先生が纏めてからようやくパチパチ拍手が鳴った。 


「いいねミトゥー、放送委員に入ろうよ! 人知れず学校を守っているなんてカッコいいじゃないか」

「いや、今思いっきり人に知らせただろ」


 と、まぁそんな感じでその後も文化祭委員やら運動会実行委員やらが壇上に上がっては龍太郎が「いいね、ミトゥー」と話しかける。お前絶対良いと思ってないだろ。

 いいねの安売りも大概にしろよ?


 全ての委員の紹介が終わり、新任の先生が数名紹介されると入学式は終了した。

 龍太郎の読み通り、さほど長い式ではなかった。


「この後は一旦戻ってからお昼です。それでは一組から教室に移動してください」


 宇佐美先生の声が響くと、右のほうから「はーいじゃあ一組移動するよ~」と女性の声が聞こえた。千和子ちわこのクラスは女の先生なのか、となんとなく思う。


 くぅぅぅ~~、と伸びをしてからこちらの眠気を誘うように、龍太郎が猫みたいなあくびをした。

 ああ、言われれば眠いな。そう思った時、ぐらりと立ちくらみがした。自分の足元、直線に貼られている赤と緑のラインが二重に見えた。


 手首の骨が出ているところで二回自分のこめかみを叩く。ブラウン管を治すみたいに。

 うう、今日はひどい寝不足だ。なんでだっけ。

 今朝のことを思い出し、「ああ、そうか」と。


「龍太郎、聞いてくれ実は俺な」

「んー?」


 目の端を濡らした彼はこちらを向く。


「見たんだよ、昨日。明晰夢」


 眠そうに、細くなっていた龍太郎の眼が花開くようにどんどん見開いていく。

 その様はなぜかスローモーションのように流れた。そして限界まで開かれた時、俺は嬉しくなった。

 当初の予定ではもっと高いテンションで、喜びに満ち満ちと口調で話そうと思っていたが、こういう不意打ち気味のサプライズ的な展開もありだったのかもしれない。


「ミ、ミトゥー、そ、それは、それは本当かい⁉」

「嘘なんてつくもんか」


 ああ、ああと口を縦に横にと動かし話すべき言葉を探す龍太郎。

 その顔はなんだか溺れているみたいだった。


「ええ、ええと。聞きたいことは、山ほどあるんだけど、とりあえず」

「どんな夢を見たんだいっ⁉」


 肩をガシッと掴みキスされちゃうんじゃないかしら、という距離まで顔を近づけ鼻息荒く詰問してくるキモヲタ。「まぁまぁそう慌てんなよ」と大型犬をなだめるように落ち着かせてから「実はな、これが……」たっぷりと間を溜めると、龍太郎はうんうんと、折れてしまうくらいに大きく首を上下させ言葉の続きを待つ。


 こいつ、俺が続きの言葉を口にしてしまったらそれこそ死んでしまうのではないか。昨日一緒に観に行った大人気アニメ、ナンバー戦争の夢なんだ。しかも俺、鉄真みたいに鋼の力が使えたんだ。なんて言ってしまったら。


 雷に打たれたようにこの場で気絶してしまのではないか。

 そしたら卒倒イケメンとかあだ名がついてしまうのではないか。せっかくの高校生活。

 彼に泥を塗るようなきっかけを作ってしまうんじゃないか。


 なんて心配な気持ちにもなったが、目の前の少年があまりに無邪気で、あまりに無垢な瞳でこちらの言葉を待つもんだから、言わないでいる方が可哀想だなと覚悟を決める。



 息を吸い込み、「実は、ナンバー戦争の夢なんだ」あとは優しくそう答えるだけだった。



「実は……」

「おい、お前それほんとか!」


 へ。気がつくと横に名前も知らない男子生徒が立っていた。

 いや、彼は確か木越、いや木梨。だっただろうか。

 先ほど教室で龍太郎の後ろの席の女の子の友達の友達の……と知り合いの輪が広がっていった時、その中にいた一人だった。


 俺や龍太郎よりも背が高く、髪型もきっちりワックスでセットされている。

 木越くんか木梨くんか。彼も龍太郎ほどではないが目を輝かせていた。


「今話題じゃないか」「もっとニュース見た方がいいよ」という昨日、暗がりの映画館のロビーで言われた言葉が、香ばしいポップコーンの匂いと共に蘇る。


 ああ、そうか。別に明晰夢のことを知っているのは俺や龍太郎みたいな人間だけじゃないんだ。こういう背が高くて、面倒臭がらずしっかり見た目にも気を使う奴も知っているんだ。世間的に騒がれていることなんだ、と。

 初めてその認知度を思い知った。


「どうなんだい、ミトゥーどんな夢なんだい?」

「見たんだろ? 明晰夢」


 怖気付いてしまったのは、人が増えたからだろうか。

 視線は泳ぎ、足元やら、天井やらを彷徨さまよった挙句、二人の中間に定まる。


「––––っていう、夢を見たんだ」


 あははは。と、乾いた笑いが口から出る。


「なんだよ~ただの夢かよ」

 木なんとか君は、こんなつまらない冗談にも笑って俺の肩を叩いた。なんて良い奴だ。


 だがもう一人、龍太郎は深いため息を吐きながら、肩を落とす。そのまま地面に指先がつきそうな勢いで。


「明晰夢を見る夢でした、なんてつまんない小説でもないよ。全く」


 恨めしそうにこちらを睨みもう一度深くため息を吐くと「昔からミトゥーは笑いのセンスが皆無だね」とぼやく。


「悪かった悪かった」


 絶えず口からは乾いた笑いが漏れる。それは宇佐美先生に「移動するぞ」と呼ばれ、木なんとか君と龍太郎が歩き始めるまで止まらなくて、気がついたら四組。


 体育館からどうやって四階の端の教室まで移動したのか、よく覚えていなかった。記憶になかったのだ。

 羊を数えていたら着いた気もするし、例えば前を歩く女の子の裸とか、紛争とか領土問題のことだとか。

 そういうことを想像していた気もする。


 実際自分がどうやって教室まで来たかなんて、それほど重要じゃなかった。歩いてきたことに変わりはないのだろうから。


 大事なのは自分の引きつった表情が治ったこと。そして。


 なんとかうららさんと話をすることだ。

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