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俺の超常バトルは毎回夢オチ  作者: みやちゃき
第三章
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第一部 三章 「咲き誇れ、美しき君よ」

「いま、私に触った?」


 先ほどと同じ言葉を放つ。

響きは先ほどより冷たく。


 開いていた窓から吹き込んだ風が、ふわりと彼女の長い黒髪を持ち上げ、ようやくその素顔を目にすることができる。


 整った顔立ち。切れ長の瞳。凍てつくような眼差し。だが笑った顔は柔らかいのではないかと思った。形のいい鼻、桜色の唇。


 体型といい外国人の血が混ざっているのだろうか。簡潔に一言でまとめると美しい容姿をしていた。


 綺麗とも可愛いとも違う、何か彼女だけの言葉があるのだろうけど、それを見つける術はない。放つオーラは、彼女の名前とはかけ離れた、冷たく、思考をフリーズさせて何も考えることなく、ただ見つめてしまうようなものだった。


 だが、先ほど感じたように笑顔は、太陽のように輝いてはいなくても、きっと便座くらいには暖かいものなのではないかと思った。雪原に咲く桜とか、砂漠に咲くバラとかアスファルトに咲くタンポポとか。


 どこかこの世と隔絶かくぜつした存在、なんとか麗。


「触ってな……」


 いです、と。こちらの返事は待ってくれなかった。

 食い込む人差し指。


 引かれるトリガー。

 放たれた銃弾。

 激痛走る腹部。


「~~~~~~ッ!」


 声にならない叫び声。芋虫のようにその場でのたうち回る。

 コツンと硬質な音を鳴らして、オレンジ色の小さい玉が服から落ちた。


 ああ、なんだ、偽物か。まぁまぁそれなら………………よくねぇよ。



「何するんだよ! うらら!」

「ちょ、なんで名前知ってんの。きも」

「座席表見たんだよ!」

「……ブラウス。ズレてるんだけど」

「寝相が悪いんだろ!」

「肩、触ろうとした?」

「あのな、俺はお前を起こそうとして、入学式に遅れる覚悟で」

「そうじゃん。入学式じゃん。どーしよ、もう誰もいないじゃん」

「人の話聞けやあああ!」



 魂からの叫びも彼女には届かず。


 拳銃おもちゃを仕舞い込み、椅子を引いてこちらに背を向けその場を離れていく。

 その背中に、届かないだろう背中に、言葉をぶつける。


「だいたい、なんでそんなもん持ってんだよ!」


 エアガンなんて、そんなもの。日常で使う機会ないだろうが。

 やけくそ気味で言い放ったセリフ。


 これまでのことから彼女はきっと無視して歩き去っていくだろう、返事なんて期待していなかった。けれど、前進する少女のかかとがピタリ止まる。


 ハラリと長い黒髪が踊るように揺れて、シャープな顎、毛穴のない頬と順番にこちらを振り向く。

 未だうずくまり、右手で腹を抑えている俺に、彼女は上から答える。


「だって、カッコいいでしょ?」


 そこでキョトンと小首でもかしげたなら。


 自転車は車輪が二つだしオランダはヨーロッパでしょ? と、それと同じよ。

 当然のことでしょ? という風にうららがキョトンと小首でも傾げたら。

 俺は、この女は自分とは完全に別の世界の住人で、頭がおかしく一生理解し合えない人間なんだ、って。

そう思えたことだろう。


 けれど彼女は、うららはそんな仕草はせず、「カッコいいでしょ」と言ってまっすぐにこちらを捉えた。


 強い眼差し。その後思い切りニヤリ、口端こうたんゆが嘲笑あざわらう。

 その瞳は俺を試しているようで、バカにしているようで。


 屈辱的な思いもあった。


 けれど、その瞳は俺に「あなたならわかるでしょ?」って。


 そんな風に言われている気がしたんだ。


 だから俺は、この時うららのことを自分と違う人間だなんて思えず、それどころか––––。

 それだけ言って彼女は教室を出ていく。


 去り際に先ほどの目つきで「ばーか」と言ったのを、俺は努々《ゆめゆめ》忘れない。


 ポツリ、一人その場に残される。

 嵐の如く出来事。

 瞬く間の出来事。

 一方的な出来事。

 理不尽な出来事。

 まるで、夢のような出来事だった。



                     ☆    ☆     ☆



「またお前か」と。体育館に着くなり宇佐美先生に叱られる。式は丁度、校長先生と思われる初老の男性がスピーチを始めたところだった。


 初日からちょー問題児じゃん俺。


 おかしいな、こんなはずじゃなかったのに。いや、一日に二回も先生に怒られる、というのは小学校以来だ。俺は、いつでも至って普通な、善良な学生だったから。そんな目を付けられるタイプではない。


 らしくないな。


 どうしてこうなったと頭を抱えつつ、壇上に向かって整列する四組の元へ行く。

 天井の高い体育館はひんやりと空気が冷えていた。壁面にはバスケのゴールがいくつか設置されており、足元には赤や緑のテープでラインが引かれてあった。その地面を見ていると隣町にある総合病院を思い出した。


 四組と思われる列の最後尾でひょいひょいと手招きをする龍太郎。見知った顔にホッと安堵し、早足でその元に向かう。


「また美藤みとうか」と先ほどの宇佐美先生を想起させるような口ぶりで迎える。


 先生に会ったのは入口の付近だから絶対に聞こえてないはずなのに。なんなのこの子。地獄耳なの。

「すぅいませぇ~ん」とふざけた声で謝ると、あははとケラケラ笑い「何してんだよ」と小突かれる。


「何してたのさ」

 何してた。そうだよ、そうそう。あの女はどこ行ったんだ。

「龍太郎、俺以外に遅刻してきた奴いなかったか?」

「? いやミトゥーだけだったよ」

「いや、そんなはずは……」


 言いながら、自分たちの前に並ぶ人垣の奥に先ほどの彼女、うららを見つけた。自分たちよりも十数人分前に位置して、呑気に隣の女の子とお喋りしてやがる。


「あいつ、いつの間にあんな前に……」


 ため息交じりの独り言。呟く俺を見た隣から「変なの」と感想が漏れる。

 一体なんなんだあの女。おかしな奴。


 先ほどあったことを龍太郎に話そうかと思ったが、自分でもよく整理がついておらず今話しても信じてもらえる自信がない。もうちょっと時が経って夏頃にでもなればあの女の猟奇的りょうきてき嗜虐的しぎゃくてきで狂気的で、一言で言えばサディスティックでサイコで……って一言じゃないけど、とにかく。


 あいつのやばい部分がクラスに知れ渡るはずだ。


 あの女、一見すれば絶世の美女とか呼ばれるような、カースト最高位の部類の奴だから時間が掛かるかもしれないがいずれはみんな気づくはず。その時になれば今日のエピソードを追撃し、奴を陥れてやろう。

 と想像してイヒヒと笑う。いやわらう、かな。


「ミトゥーきもいよ」

「ヲタクのお前が言うな」


 ……いやお前もだよ、みたいな目で見るなバカ。返答に困るだろ。


 話題を変えよう。さっきの出来事は来たるXデーまで胸の内に秘めておく必要がある。ここは予てから、この体育館に入った時から抱いていた疑問を振ろう。 


「っていうかアレだな。入学式って立ったまま聞くんだな」


 パイプ椅子とかあってもいいのにな。と付け足す。

 確かにそうだね。と辺りを見渡してから「あ、でもすぐ終わるってことなんじゃない?」と口にする龍太郎。

 なるほど、言われてみれば。


 遅れて入ってきた時は、桜がすっかり散ってしまって云々、と季節の話をして、俺が四組の列に着いた時には、昨今の日本は少子化が進んで云々、と社会情勢に触れていた校長先生。

 だが耳を傾けると今は、希望溢れる君たちには輝かしい未来が待ち受けていて、ぜひこの高校生活が将来の糧に云々、と明らかに締めに入っていた。


「ありがとうございました」とハウリング気味のマイクに校長の声が乗ると、どこからともなく拍手が起こり、その波が広がっていった。


「ありがとうございました。校長先生のご挨拶でした」


 と、壇上の下。スタンドマイクの前で司会を務めるのは宇佐美先生だった。

 お、ウサミンなかなかやるじゃん。結構立場のある人なのだろうか。まぁベテランっぽいしね。


「続いては各委員から挨拶です」


 そう紹介され、壇上には同じ制服を着た男子生徒が現れる。その胸元には赤い紀章。それは自分たちより上の二年生を表すものだった。一年生は若いからかな、青色だ。


「みなさんこんにちは! 風紀委員です」


 快活で聞き取りやすい声だった。男の先輩だが黄色い声と形容したくなる。お世辞にも若いとは言えない校長先生の次だと、自分より年上の先輩に若いなという感想を抱いてしまう。


「我々風紀委員はその名の通り学校の風紀、秩序を自治しています。って言ってもまぁそんなお堅い、厳しいもんじゃありません。月に一回校門の前に立ってるだけです」


 と、その口ぶりにも親しみを感じた。会場の一年生もクスクスと笑う。


「委員はみなさん一年生からでも所属できるので、興味があったら是非、風紀委員として一緒に働きましょう」


 頭をぺこりと下げると、自然と拍手が起こる。その爽やか口ぶりは、まぁなんというか。まさしく校内の見本という感じで、同時にオスとしての敗北を感じた。


「いいねミトゥー、風紀委員! かっこいいよ。懐にトンファーとか仕込んでいるのかな!」

「どこのヒットマン的世界観だよ……」

「風紀委員でした。ありがとうございました。……続いては放送委員です」

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