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俺の超常バトルは毎回夢オチ  作者: みやちゃき
第三章
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第一部 三章 「そうして、少年はまたも傷付く」

 崩れていくのが見えた。



「四組! 一年四組だよ! 良かったよ、ホント!」


 ブンブンと右手で四を作ったかと思えば左手で人差し指だけを立てたり。荒々しく拍手をして俺の肩を痛いくらいに叩く。興奮気味なのは一目瞭然であり、昨日の上映後の何倍も忙しく早口で喋り立て、「よかった」と何度も口にする。


 自分の持っていた熱量を遥かに凌駕りょうがする龍太郎の熱さに拍子抜けしてしまった。

不意打ちというか、かげうちというか。ねこだましされてひるんで技が出せない! みたいな。

「おなじ、クラス……」と舌が空回りしてモゴついてしまい、復唱することしかできない。


「いやー四組だって! 四は世間的に悪いイメージだけど僕は割り切れるから好きだなぁ。なんか潔いよね! ミトゥーもそうだろ? 最っ高だよ四組! これで出席番号も四番だったら気持ちが良いのだけれど、残念ながら青島、飯塚に続いて三番だったよ。窓際だったら良いなぁ。席替えとかいつやるんだろうね! あっミトゥーは三十……いや、僕が言うのはつまらないね。当ててごらん。ヒントはめでたい数字! 四が付くよ!」


 それ、三十四の一択なんだけれど。


 なんて、ツッコむ隙もないくらいに、乙訓龍太郎は一人で舞い上がっていた。完全に一人の世界に入りきって周りの目なんて気にせずに、声の大きさもおもむくままに。


 これだからヲタクってイヤっすわぁ……。


 出席番号、席替え……。


 対する俺はというと、彼の口からこぼれる単語が頭の中でとぐろを巻いて鎮座ちんざしていた。今更ながら龍太郎の言葉で、初めて今日が入学式なんだということを実感した。そして、いま自分は高校生になったのだと自覚した。


「どうやら僕たち一年生は一番上の四階らしいよ。学年が上がるのに反比例して階数は下がっていくらしい。遅刻しないように気をつけないとね」


 ミトゥーいつまでも初ちゃんに頼ってちゃダメだよ、と。

ハニカミながら未来の登校について心配する龍太郎。改めて彼の全身を見ると、龍太郎は当たり前だが制服を着ていた。


白いシャツの上からブレザーを羽織って、首から伸びる赤いネクタイにどうしても目がいってしまう。その格好がどうしようもなく不自然だと思った。単に見慣れていないだけなのだろうが。


 昨日までは中学校の制服を着て一緒に映画を観にいった彼が、今は違う制服を着ている。その服が包む体は昨日と今日でほぼ変わってはいないはずだ。俺は根っからの文系なので生物のことはわからないのだけれど、そんな数十時間で細胞が大きく入れ替わったりはきっとしない。


 だから龍太郎自身は変わっていない、はずなのに。

 なのに。どうしてだろう、彼が別人に見えるのは。


 自分と同じクラスだということに高揚し、はしゃぐ龍太郎。

 その姿、その喜びよう、語り口。興奮すると早口になって、なんかキャラがブレ出して、周りを置いてけぼりにしたかと思えば急にいつもの口調に戻ったりして。

 三年間、友人として過ごしてきたから。それくらいのことはわかる。


だが、目の前で頬染めて、中に星があるような瞳で見つめ、鼻から荒く呼吸をする。一見、不恰好な状態だが、そしてもともと龍太郎は顔が整っていて女性に見間違うくらい中性的な容姿をしているのだが、そういうの諸々を差し引いても。


 目の前にいる彼はカッコよかった。


 視線を人が溢れる玄関へと移せば、真新しい白色の上履きに履き替える同級生たち。そのまま四階を見上げる。

左から一組なのか右から一組なのか、わからないので自分たちの教室がどこに位置するのか定かではないが、窓越しにもう何名かの生徒が着席しているのが見えた。俺たちの横を、二人組の男子生徒が「なぁ三組の先生若い新任らしいぜ」「てか時間そろそろじゃねー」と話しながら通り過ぎていく。


 そこは、先ほどまで自分がいた場所とは別の世界になってしまっていた。


  背中にじんわりと汗が滲んできて、なぜか急に忘れ物をしていないか不安になりカバンのファスナーを開けたものの、何が必要で何が不要なのかよくわからなかった。筆記用具やルーズリーフを搔きわける自分の肌色が、頼りなく動き回る。


「あっ、二人ともー」

 穏やかな声は聞き慣れた声。


千和子ちわこちゃーん」


 手を大きく振って迎える龍太郎、その元に駆け寄り「おはよー」と挨拶をしてから小さくハイタッチを交わす。


「マー君もおはよー」


 こちらにも笑顔を向けると、胸の前に手を出す。両指はピンと、ツンと、揃えて反らされていた。


「ああ、うん。おはよ」

「ほら、ハイタッチ」


 しなやかな指の第二関節までをチョンチョンと曲げてそこにある両手の存在をアピールする千和子。「お、おお」と遠慮がちに十本の指と、うっすら産毛が生えた自分の手を重ねる。


「おめでとー。ふたりとも同じクラスだよね?」

「そうなんだよ! ええっと、千和子ちゃんは」

「私は一組だよー」


ああ、千和子は違うのか。


当たり前のことに、今頃気がつく。

だって、誰も言ってくれなかったから。


 そっと考えないようにしていたのかもしれない。いや違うな、もともとそんなこと考えてもいなかったんだ。自分が何組だとか、千和子のクラスがどうだとか、クラスの担任がどんな先生だろうとか。


「たはは。これでマー君とは三年連続で別々のクラスだねー」

「そういえばそーだな」


その後に、大丈夫か。と、続けて言いそうになってしまった。


こいつは今満開の笑顔だが、不安なんじゃないかと、中学の時は自分とクラスが違っても地域でまとまって進学するから何人かは知り合いが同じ教室にいるものだ。


 けれど、高校はそうではない。見たこともない知らない奴、徒歩で数分の距離から通う奴や電車で一時間かけて登校する奴もいるんだ。


 不安げになる俺の様子をおかしいと思ったのか、「ん?」と目だけで問いかけ小首を横にかたむける。それに伴ってウェーブのかかった髪が揺れる。千和子も同様に、周りと同じ制服を着ていた。


 当然のことだが、それは長年ともに過ごしてきた自分が初めて見る彼女の格好だった。どうしたの、と穏やかに微笑む姿に、彼女のこれまでを見た気がした。

幼稚園のとき、小学生のとき、中学生のとき。


 大丈夫か、と。

 口からもう一度口こぼれそうになる。

 けれど、きっと大丈夫だと。彼女は言うだろう。事実、千和子ならすぐに周りとも打ち解けるはずだ。


 なんでもないと、口にする代わりに首を振る。

千和子なら大丈夫だ。確信めいたものが自分の中に湧いてきた。


「あ。そろそろ時間だよ」


  その一言で俺たちはその場から動き出し、木製の靴箱が並ぶ昇降口へ。

 扉のガラス越しに、自分より少し前を歩く二人が映る。

 二つの肩の隙間から自分の姿が反射して見えそうになり、すっと視線を落とした。なぜそうしたのか自分では分からない。


 客観的に考えれば、自分の姿を見たくなかったのかもしれない。

 けれど、それは違う気がした。見ようと思えば見れた。顔を上げようと思えばできた。


 じゃあ、するか。


 よし、あと三秒経ったら俯くのをやめて正面を見よう。この右足、いや次の左、その次の右足を踏み出してから数えて……。


 ああ、そんなことを考えているうちに三秒経ってしまったから五秒にするか。いや待て待て。もともと俺は鏡なんかをよく見るような性格じゃないだろう。

 見た目なんて気にもして来なかっただろう。ならばわざわざ自分の姿を確かめなくてもいいんじゃないか。さっき交差点の前、不動産屋さんのガラスに反射した自分を見たわけだし。きっと今もあんな感じだ。


 先ほどと何ら変わっていない。そうだ、なにも。


 高校生になったからって……何を浮かれているんだ。馬鹿馬鹿しい。着ている布が変わっただけじゃないか。突然凛々しくなったりなんか、俺がするわけないだろ。そうだ、俺はもともとそういうタイプの人間じゃないんだ。


 恥ずかしい奴だな、まったく。


 そんなことを考えて伏し目がちに歩いていると、とっくに扉は通り過ぎ、すっかり校内へと入ってしまっていた。中と外を分ける軽い段差があってその前で二人は上履きに履き替えている。

 するとどこからともなく、小さな音でジリリと何かが擦れるような音がしたかと思えば古典的なキーンコーンカーンコーンという鐘の音がスピーカーから流れ出した。


 やばい、まずい、急げと慌てる二人に続こうと自分も急いで履き替える。焦ったせいで上履きのかかとの部分を踏んでしまい、それを直そうとしゃがみこんで直す。


「ミトゥー早く!」「マー君急いでー」


 二人に追いつこうと急いで靴を整えて走り出そうとした時、ふと右手に目が引き寄せられて、ふと。



 拳を強く握り締めても、鋼の炎は出なかった。

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