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俺の超常バトルは毎回夢オチ  作者: みやちゃき
第二章
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第一部 二章 「セレナーデは飾らない」

挿絵(By みてみん) 

俺は自室を背に一階の玄関へと向かった。


 靴箱の上には沖縄で買ってきたシーサー。はじめのチョイス、ペリカンのぬいぐるみ。母の趣味の造花。父が好きな野球選手のサインボール。そして家族旅行でロシアに行った時に撮った集合写真が靴箱の上に置いてある。その右には傘立てがあり、白い壁には緻密に描かれた絵画が飾られている。それが美藤家の玄関だ。


 足元には俺と初の靴が二足、両親は既に出勤したあとだろう。

 そして、視線を上げると制服姿の男女が二人。


「ミトゥーおっはよん…………ってなんだいそのアバンギャルドな髪型は!?」


 目を輝かせて俺の頭を見つめるのは乙訓龍太郎おとくにりゅうたろう

 

 背が低いので自然とこちらを見上げる形になる。

 短髪で一人称も「僕」なのだが、中性的な童顔とその純粋な性格ゆえ時々女子と間違えられる男子だ。 

 俺もはじめは勘違いした。

 話しかけられて「え。なにこの子めちゃくちゃフレンドリーじゃん。もしかして俺のこと好きなの?」とも勘違いした。


 中学で知り合い高校も同じところに進学するのが決まっている。


「マーくんおはよ~………………。マーくん、だよね?」


 きょとんと小首を傾げるのは一岡千和子いちおかちわこ


 にへらと緩んだ口元と綺麗な弧を描くたれ目からおっとりとした印象を受ける。実際の性格もそのまんまの女の子だ。一岡家と美藤家は家族ぐるみで交流があり、千和子とは幼稚園に入る前、赤ん坊の時からずっと一緒だ。もちろん高校も。

 まぁいわゆる幼馴染、くされ縁というやつである。


「りゅう、まるで新人類を発見したような目で人を見るな。千和子、十年来の友人を忘れるな」


 全くこいつら同じリアクションしやがって。そんなに変か?


 そっと自信の頭頂部を撫でるように確認する。

 妹はこの隆起した髪をトサカと表現したがアレだな、俺の言葉でいうとツノだ。ツノが生えていた。


「ミトゥー、探偵事務所で働くことをオススメするよ」

「いや、俺は蘭ねーちゃんじゃねぇよ?」


 そして彼は大のアニメやら漫画やらが好きな、まぁ世間一般的にいうヲタクの部類に入る。仲良くなったきっかけも、そんな会話からだった気が、するようなしないような。


「確かに探偵というか、黒ずくめの方だね。生まれつきの細目がいい味出してるよ! 小悪党感がすごいよ!」

「りゅーう? 違うよな、これは寝起きのせいだから生まれつきじゃないよな? な?」

「そんなことないよ! その目つきの悪さはミトゥーの素晴しい個性だよ!」


 この子いまシンプルに悪口言ったよね? ね? 

 しかもなんか一人で納得して頷いてるし……。


 だが乙訓龍太郎の中で自覚はないらしく、大きく瞳を見開いて握り拳を作っている。なにその目、嫌がらせ? 目つきの悪い俺への嫌がらせ?


「りゅう、お前もそろそろ忖度しろ。言っていい事と悪い事があるんだぞ」

「十分してるよ?」


 なに言ってんだこの童顔。


「まぁまぁ。私はそれがおっくんの個性だと思うよー」


 のほほんと、にへらんと笑って答える千和子。その顔は俺とどっこいどっこいの細目だったが、これはきっと善人顔だろうなぁ。仏顔というのだろうか。

 あ、ちなみにおっくんというのは乙訓龍太郎のあだ名である。


 千和子をはじめ女子から龍太郎はそう呼ばれている。あだ名まで子供っぽい野郎だなおい。ウチの初を見習え? 大人への憧れハンパないぞ? 探究心と向上心の塊だぞ?


「ちわちゃーん、おっくんさーん! おはようございまーす!」


 噂をすれば。

 声だけ奥から聞こえたのち、警戒な足取りで階段から姿を現しそのあま千和子の胸元にダイブで抱きつく。

 痛いんじゃない今の、結構な勢いだったよと心配になるが、二つの柔らかい双丘に受け止められた初は幸せそうな表情を浮かべて頬ずりしていた。


 おお、これが本物のおっぱい。いいですか初ちゃん、これが不純物着色料0の純正国内産おっぱいなんですよ。


「びええぁ! はーちゃんどうしたの顔⁉ マーくんになんかされたの? だから言ったでしょうマーくんには気をつけなって」

「おい。言ったでしょうってなんだよ」


「だってマーくん昔わたしに、夜な夜な、あんなことやこんなこと……」

「ッ⁉ 千和子ちゃんそれホント! ミトゥー、君って人間は目つきだけじゃなく性根まで曲がっていたのか!」

「信じるな! これは信じるな龍太郎!」


「起きたとき、気付いたら服濡れてて、ヘンな匂いもして……」

「わーわーわー! 一緒に寝た時おねしょしちゃっただけだろ! 誤解を生むような言い方するな! そしてあの時はほんとにごめんなさいでした!」


「んふふーどーでしょうねー」

「おにーちゃんサイテー」

「錬真くん。大丈夫、僕はそれでも友達だよ」


「初やめて、お兄ちゃんをそんな目で見ないで! 錬真くんってなんだよりゅう! 明らかに距離を感じるんだけど⁉」

「たははー。マーくんおもしろーい」

「面白くねぇよ」

「面白いよー」


口元に手を当ててひとしきり笑い「失礼しまーす」と言って千和子は茶色のローファーを手際よく脱ぎ揃え、緑色のカーペットを踏み家に上がる。セミロングの髪をふわふわ揺らしながら彼女は玄関からまっすぐ伸びる廊下を歩く。

 すれ違いざまに香った甘い匂いに、どこか安心する。


「ほらはーちゃんおいで。そんな顔じゃ外出られないでしょ。直してあげるから」


 さすがは幼馴染み、もとい腐れ縁。案内されずとも洗面台へと迷わず向かっていく。


「えーやだー。ちわちゃんメイクできないじゃん」


 初の言う通り千和子がメイクをしているところなど見たことない。学校はもちろん、遊びに行くときもすっぴんの印象だ。中学二年の時だろうか。「千和子、お前何で化粧とかしないんだよ」と尋ねたところ「リップクリームなら毎日してるよ」と答えたくらいだ。


 例に漏れず今日も彼女は生まれたままの顔である。どこまでも着飾らない、ありのままの、レットイットゴーな自然体だと良く言えるし、おしゃれに無頓着と悪くも言える。


 まぁ女の一番の化粧は笑顔ってどこかの漫画にも書いてあったし。そういう意味では千和子ほど毎日厚化粧をしている人間もそうはいない。


「こ、これからできるようになるもん」


 そう頬を赤らめて口にする千和子に「ほんとぉー?」と初は眉をひそめ、二人して奥の洗面台へと歩き始める。


「ほら、マーくんも何ボサッとしてるの。早く髪直して支度してよー」


 振り向き、しょうがないなと破顔する千和子。


「「母性が強い……」」


 意図せず龍太郎と言葉がかぶる。


「千和子ちゃんは、うん。いいお母さんになるよ」

「おっくん、それ褒めてるのー?」


 褒めてる褒めてる~と歌いながら口ずさみ、龍太郎も家へと上がる。


「そう言えばお前ら何で休みなのに制服なんだ?」


 千和子と龍太郎は中学の春服を着ていた。


「いやぁ何だっけなぁLJCと言うやつらしいよ」

「なに? エーマージェンシー? 緊急事態なの」

「ラスト女子中学生! もーテキトーなこと言わないでよー」

「らしいよミトゥー、明日から僕らも高校生だろ。だから最後を記念して制服納めと言うやつだよ」

「らしいぞ初。お前もランドセル背負ってこい」

「うるさいバーカ」


 にぃぃ、と白い歯を剥き出して顔にくしゃっとシワを寄せる、いつもの怒ってますよーという顔でそう言うと、妹たちの姿は見えなくなってしまった。

 だから今の顔面でそれやると怖いんだってば。


「相変わらずだね、初ちゃん」

「そうだな、相変わらずガキのまんまだ」


 玄関にケラケラと龍太郎の笑い声が響く。笑顔の横顔は、男の俺でも見入ってしまうほどだった。


「それで、デートって何なんだよ」


 一瞬でもそんなことを思ってしまった自分が気恥ずかしくて、誤魔化すようにかねてから抱いていた疑問をぶつける。


「春休みの最後に遊ぼうってメールしたじゃない」

「いや来てないんだけど。明らかにハブってるよね。なんかした俺」


 なんなん。アウェー感ハンパじゃないんだけど。さすがに傷つくんだけど?


「あれ? 初ちゃんから聞いてないの? 私が伝えておくって言ってたよ」

「聞いてねーよ!」


 あの野郎。最近お兄ちゃんのことなめすぎだと思いますねぇ、はい。「やっぱ相変わらずだね」と再び笑い出す龍太郎。その中有性的な顔が今度は余計に腹が立った。ムカついたので一発頭を小突いてから「んでどこ行くんだよ」と聞くと、彼はさも当然かのように、そして少し自慢げに、ニコリと笑って答える。


「映画だよ」

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