温泉とビーフシチュー
「はい、セリカ特製ビーフシチューが出来たよ」
そう言って、神で出来た皿に盛り付ける。
「なぜ、温泉に来てまでビーフシチュー……」
眉を寄せるリオスの横では
「風呂に入りながら、ビーフシチューを食べるのもいいもんだ。極楽、極楽、明日からの仕事もがんばれそうだぜ」
温泉に浸かりながら、ワルツが喜んでいる。
「美人の狼もいるしな。最高の気分転換だ」
「わふー」
偵察から戻って来たセーレは、手作り露天風呂の近くで休んでいる。
「コウくん、お疲れ様です。食事にしましょうか、そろそろ時間でしょう」
作業を終えたユーシスが、洸に声を掛ける。
「おい、どこに行くつもりだ」
リオスが呼び止める。
「食事ですよ。人前だと、恥ずかしいじゃないですか」
人目を避けるように移動した洸とユーシスを見て
「……怪しいな」
アビスの人間を脅しているもではないか、とリオス。
「ユーシス社長は、そんなことしないって。はい、ビーフシチュー」
お腹空いたでしょう、とセリカが渡す。
「やはり、気になる」
そう言って、リオスは二人の後を追う。
「あ、ちょっと……セレセレここをお願い」
セリカも後に続く。
「……」
放置されたビーフシチューを眺めながら
「一体、どうしろと?」
♦︎♦︎♦︎
「いただきます」
洸はユーシスの腕から吸血しようとしたが
「……角度が悪いですね。すいませんが、首からお願いします」
「いいんですか?」
そう言って、洸はユーシスの左肩を噛む。
その光景を遠目に見ていたリオスは
「お、男同士で抱き合って……そんな馬鹿な」
エリート役人の脳は、一時停止。
「みーたーなー」
それに気づいたユーシスは、地の底から響く不気味な声。
「その、悪かった。オレはてっきり、脅しているのではないかと」
リオスは両手を地面につくと
「この広い世の中だ。そういう、愛もあるのだろう」
誤解をしてすまなかった、と地面に頭をつける。
「……この人、何言ってるんでしょう?」
吸血後、口元を拭う洸。
「さあ、頭の打ち所が悪かったんじゃないですか」
意地の悪い顔をしながら、ユーシスが言う。
「あ、居た」
合流したセリカに
「今、戻りますよ」
ユーシスが手を振る。
「おい、確かコウと言ったか」
リオスに声を掛けられ
「は、はい?」
洸は、ビクリと肩を震わせる。
「役所には、君と同じようにアビスから来た人間が保護されている」
気になるなら会ってみるといい、とIDカードを渡された。




