悪あがき
足が棒のようだ。
こんな感覚を味わうの何年ぶりだろうか。
足がもつれ、洸は地面に倒れた。
「クソッ、あいつらおかしいだろ……」
ニートのくせに走れるとか。
先頭の集団は、どんどん遠ざかって行く。
『ニートは、撲滅するべきです』
兄の仕事なんて全く興味はなかった。
しかし、イケメン若手政治家としてこの発言は物議を醸す。
「神城議員の弟さんも、ニートと聞いていますが」
インタビューをした女性に
「あいつは、屑です」
兄は堂々と宣言していた。
「ニートの何が悪いって言うんだ……」
洸は唇を噛み締める。
巨大な鳥は、洸に狙いを定め急降下。
パソコンに向かっている人間は、自分と同じ孤独を分かっている。
そう思うだけで、ものすごく安心したのだ。
異世界ソラリスに送られーーそんなものはあっけなく踏みにじられた。
洸は、近くにあった石を握り
「はあああああああっ」
最後の悪あがき。残った力で、巨大な鳥に投げつけた。
「クエエエエッ」
まさか獲物から攻撃されると思っていなかったのか、巨大な鳥は怯んだ。
「ザマーミロっての」
だが、動けそうもない。
♦︎♦︎♦︎
「ええい、吸血狼の住処はまだか」
偉そうな小太りの男が、後部座席で騒ぎ出す。
「彼らは、綺麗な水のある場所を好みます」
気長にお待ちください、と眼鏡を掛けた助手席の男。
「高い金を払っているのだ。これで見れなかったら、貴様ら旅行会社の責任だぞ!!」
「と、いうわけでセリカちゃん。スピードアップ」
運転手の少女に伝える。
「ユーシス社長。これで、限界……って」
次の瞬間ーー倒れた人を見つけ急ブレーキ。
小太りの男は贅肉を揺らしながら
「いきなり何だ!?」
「人間よ、人間。危なかった」
助手席から降りたユーシスは、道端で倒れている人間の状態を確認する。
「大丈夫、気を失っているだけだ。それにこの服……こっちの世界のじゃないね」
「それって、アビス側の?」
最近多いわね、とセリカは肩を竦める。
「でも、だいたい死んでるわよね。生きてるなんて珍しい」
「クラウス様、すいませんが彼を隣にお願いします」
ここに捨てて行くわけにもいきませんので、とユーシス。
「ええい、こんな小汚い子供……」
ソラリスでは、珍しい黒髪。血の赤が映えそうな白い肌。
顔立ちもそれなりに整っている。
おまけに、別の世界の住人。
「よい趣向を思いついたぞ」
そう言って、クラウスは不敵な笑みを浮かべた。