海底
そういえば泳いだことなかった。
(ここに来てから、全く自分らしくないことばかり……)
息が続かない。
アンナの体は、どんどん沈む。
海中で洸の意識が遠のいていく。
その時、誰かが横で必死に掴んでくれたのを思い出した。
意識が覚醒する。
「ここは……」
洸が目を開くと、天井は海の青。
海の水に遮られた太陽の光は、地上と違い淡い光。
悠々と泳ぐ魚を下から眺めている不思議な光景。
「気がつきましたか?」
澄んだ女性の声に、洸は振り向いた。
腰まである金色の髪、金色の瞳。
一見、普通の美少女だが狼のような獣の耳と尻尾を持つ。
初対面のはずだが
「……セーレ」
自然と洸の口が動いた。
泉で助けてくれた吸血狼の影響だろうか。
「こ、光栄です」
なぜか照れる狼耳の少女。
「そうだ、アンナちゃん!」
海に引きずりこまれたアンナを辺りを見回す洸に
「小娘は、無事です。少し海水を飲んで居たので、応急処置をしてあります」
セーレはアンナを休ませている岩陰へと案内する。
「よかった」
洸は安心して、その場に座り込む。
「……あれは、人魚ですね。最近、船の事故が多発しているのは彼女たちの影響です」
人魚はイタズラが好きですから、とセーレ。
「えーっと、セーレさん」
「セーレで結構です」
「その……助けてくれてありがとう」
洸の言葉にセーレは、苦い顔。
「その、海流の流れが速くて……緊急に、二人を近くに瞬間移動したのですが」
ここは海の底です、と続ける。
「ここから、陸までは距離があります。私の力は、もう少し浮上しなければ使えません」
「え、でもここ……普通に息が出来るし」
周辺には、崩れた神殿の柱や石像。
海岸にあったものと似ているような気がする。
「まさか、海底都市アトランティスの遺跡……」
セーレが洸を庇うように前に出る。
崩れた柱や、石碑の影に人影。
いつの間にか、三人は囲まれていた。
♦︎♦︎♦︎
「コウ君とアンナちゃんが、行方不明……まさか、二人は人魚に!?」
コテージの客が、海に飛び込んだ人影を見たと証言。
その近くにには、人魚の鱗が落ちていた。
「……」
何やら考え込んでいるユーシスに
「ユーシス社長、速く探しにいかないと」
動揺したセリカが言った。
「……コウくんの熱狂ファンの気配もありませんね」
彼女がついているなら無事ですよ、とユーシス。
「熱狂ファン? 」
「コウくんが、うちで働くようになってから熱い視線を向ける女の子が居ましてね。私には、気配バレバレでしたが……」
ユーシスは、頬を掻く。
「うっそ。私は全然、気づかなかった」
驚いたセリカに
「まあ、あっちの方が動きが巧妙でしたね。セリカちゃん、魔法使ってもらっていいですか」
ボートに空気の膜を張って海底調査に向かいます、とユーシスは言った。




