海底都市アトランティス
「よし、少しは書けるようになってきた」
空いた時間に洸は、セリカからソラリス文字を教わっていた。
「マエダって人も苦労したみたいよ」
その話を聞いて
「マエダって、前田祐介ですか?」
二十年前、ソラリスを発見した日本の冒険家。
「うん、その人。ユーシス社長の方が詳しいかもね。なんたって、彼に憧れて旅行会社を始めたんだから」
「……セリカちゃん」
ユーシスは苦笑い。
「そうだったんですか?」
洸が聞くと
「倒れていたマエダさんを、介抱したのが祖母でして……」
それから色んな話を聞いた、とユーシスは語る。
「子供っぽいと思うかもしれませんが、私の夢はアビスへ行くことです。そのために、旅行会社を始めたようなものです」
「……ユーシス社長は、本当にスゴイ人です」
感心している洸に
「コウくんも、吹っ切れればこの位できますよ」
「そう……でしょうか」
♦︎♦︎♦︎
「それでは、娘のことをよろしくお願いします」
マイム商会の社長テオ・ゴシェン。
「その、適当に話を合わせてくだされば娘も諦めると思いますので」
テオは小声でユーシスに伝える。
「……分かりました」
「それじゃあ、お父さんは仕事があるから」
娘のアンナに言うと、テオは部下の運転する車に乗り込んだ。
「おみやげ、楽しみにしてね」
(十歳位かな……)
父親の乗った車を見送る女の子の後ろ姿を見て、洸は思った。
「あの、セリカさん。今日はどこへ?」
「海底都市アトランティス」
「アトランティスって……」
向こうでも伝説と言われる都市。
屍食鬼や魔女が普通に存在するソラリス。
ひょっとしたら、アトランティスも存在する可能性がある。
「えーと、近いんですか?」
セリカは肩を竦めると
「あるって噂だけよ。よく考えて……水の中で人間が生きられるわけないじゃない」
「い、以外と現実的ですね」
「あの子の亡くなったお母さんが、よくアトランティスの話をしてくれたみたい」
「だから、アトランティスに憧れて……」
だが、所詮は噂。大人は信じていない。
だから適当に誤魔化してほしい、とテオはユーシスに依頼した。
「騙すみたいで、心が痛むけど」
そう言って、セリカは深い溜息をついた。




