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第7話 1998年6月15日 約束

鈴音の行きたいというところはどうやら今、上っている坂の上にあるらしい。


さっそく先生との約束である運動は控えるようにを破りそうである。


だが、鈴音が見せたいというのを俺も見てみたいので、心の中で先生に詫びた。


先生、ごめん……


最初の方はそんなことを考えていたが、鈴音が時折俺を気遣って休憩をはさんでくるので、特に具合が悪くなることもなく、目的地に着くことができた。


そこは、自分たちが住んでいるところよりは少し高めの位置にあり、そこから、自分たちの町を一望することができた。


ここからでも、俺の家や鈴音の家を見ることができる。


地元であるが、俺はここに一度も来たことがなかったので、単純にすごいなと感動していた。


鈴音はこれを俺に見せたかったのだろうか。


そう思い、鈴音の方に振りかえると、彼女はすごいでしょ?とでも言いそうな表情で、


「この場所、この前偶然見つけたんだ。なんか隠れ家っぽくていいでしょ」


と自慢げに言う鈴音を見て、確かにと思った。


ここに来るのに少し細い道を通ったり、なんか人の土地っぽいところを通ったりしたので、家からは近いのだが人が来ることがなさそうなところである。なので確かに隠れ家っぽい。


まだ、なにかあるらしく、なにかをたくらんでいるような表情で俺を見る。


何だろうと思っていると、鈴音はさきほどよりさらに自慢げに語り始める。


「とーくんに見てもらいたかったのはそれだけじゃないんだ」


そういうと鈴音は、崖の場所から遠ざかり、それとは反対側に立つ一本の大きな木を指さした。


「実はね。とーくんにはこの樹をみてほしかったの」


そこには大きな樹がたっており、青々しい葉が風に揺れていた。


「この樹がなんなの?」


「この樹は桜の木だよ。今は6月だから、葉っぱしかないけど4月になったらすごくきれいだろうなと思ってここをとーくんに教えたんだ。」


これだけ立派な桜に木に花が咲いたらさぞかしきれいだということを簡単に想像することができる。桜が満開で咲いている下で鈴音と一緒に花見ができたら楽しいかもしれない。

そんな想像をしてたら鈴音がさっきのように自信満々に言うのではなく、どこか恥ずかしそうに


「あとね。とーくんは花言葉とか興味ないかもしれないけど、桜の花言葉には「あなたにほほえむ」って意味があってね。とーくんにはずっと元気に笑っててほしいなって思ったりしちゃったりして……」


そんなことを顔を赤くして言ってくるから、こっちもドキドキしてしまう。

ほんと全く、こいつそんな言葉をそんな表情で言うなよなと思いつつ、でも鈴音にドキドキしていることがばれるのはなんかいやだったから、


「お前、花言葉って、今桜咲いてないんだけど……」


と、とりあえずからかうことにしたら、


「もうっ、人が恥ずかしいセリフ言ったのに帰ってきた言葉がそれってどういうこと?」


「恥ずかしいんだったら言うなよな」


「とーくんの事を思って言ったのにもうしらない」


その後、鈴音が鬼で俺が逃げると言った、二人だけの鬼ごっこが始まり、つかまったら殴られるという通常の鬼ごっことは異なるルールで行われた。


鈴音が一通りやり終えると、思い出したかのように、バックの中から箱を取り出した。


それを開けてみると、そこにはサンドウィッチがはいっており、鈴音がいうには鈴音のお母さんと一緒に作ったらしい。

タマゴサンドからツナサンド、フルーツサンド、スモークサーモンとチーズを挟んだものまで、いろいろな種類のものがあった。


それを俺らは桜の木のふもとで食べることにした。


味はとても美味しかった。


本当においしかったので、冗談で


「本当においしいな。将来俺のお嫁さんにならない?」


といったら、顔を今まで以上に真っ赤にさせて、俺の頭をぽかぽかたたいてきた。

その後、きっとした顔で俺の方を見ると、


「来年もこの先も毎年この日にここで退院記念日のお祝いをすることにするから」


それだけ言うと、ふんといって俺とは反対方向を見ながら黙々とサンドウィッチを食べていた。


少しからかいすぎたかなと思い少し反省しつつも、俺にとって今まで一番うれしい退院祝いとなったと心の中で思った。








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