表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

第5話 1998年6月14日 退院祝いの約束

翌日、長い検査の結果俺は明日には退院できることとなった。


先生には、家に帰っても無理な運動とかは避けるようにすることと、薬をちゃんと飲むことなど、以前に退院する時に言われた事を注意された。


先生の話だと、俺は午前中には退院できそうである。


鈴音にも心配をかけてしまったから教えてあげないとなぁとベッドで横になりながら考えていたら、誰かの視線を感じた。


ここは病院でしかも4人部屋である。なので、看護師さんや同じ部屋の患者、その家族などいろいろな人が入ってくるから、何となく目があったりとかはするが、今みたいにじっと見られることはあまり経験がない。


視線を感じる方に顔を向けるとそこには、扉の所から長くてきれいな黒髪の少女が顔のみを出してこちらをうかがっている。


鈴音だ。


俺と目が合うと、なんか恥ずかしそうな表情を浮かべてこっちの方にちょこちょこと来て、ベッドの近くにある椅子に座った。


だが、顔は俺の方を見ずに窓の方を見ている。


「えっと、鈴音、窓の方なんて見てなんかあるの?」


鈴音はあわてたように両手を顔の前で振って、俺の言葉を否定した。


「べっべつに窓の外に何かあるってわけじゃないの。ただそのなんていうか……」


「なんていうか?」


「昨日、とーくんの前で泣いたりしちゃったから、はずかしいなぁ~みたいな」


「うっ!」


思わず、胸を自分の手で押さえる。


鈴音の始めてみる反応をみて、なんかドキドキしてしまった。


顔を赤くして答える姿がいつもの元気な感じと違って、


なんというか、かわいい。


俺の行動に、体調が急変したのかと思ったのか鈴音が赤い顔から一気に青い顔になりあわて始める。


「だ、大丈夫? 看護師さん呼んでこようか」


「大丈夫だから、これは何というか、不意を突かれたというか……。そんな感じだから大丈夫!」


「そうなの?でも体調が悪くなったらちゃんというんだよ」


心配してくれる鈴音をみて、とりあえず、鈴音をみてドキドキしてしまったというのを知られずに済んだようだ。


なんだかんだしているうちにいつもの元気な鈴音に戻っていた。


鈴音が今日は学校の体育時間で鉄棒をやって、逆上がりができたのだの、今日の給食は鈴音の好きなカレーだったのだの、算数の授業が難しかっただの、今日一日の出来事を話してくれた。


まぁ、途中から、算数の宿題が出たから、一緒に解いてほしいと言われて今、解いているのだが、ちょっと気になることがあり聞いてみた。たしか鈴音は算数が嫌いだったからもしかして、


「あのさ鈴音。もしかして今日ここに来たのって、この宿題を俺にやってもらおうとか考えてないよね」


ぎくっ!?そんな効果音がこの状況を表すのに一番適しているのではないかと思われるほど、鈴音の肩が一瞬上下した。


「そ、そんなことないよ~。やだな~。私はとーくんが心配で来ただけだよ。プリントはたまたまあっただけで……、そ、それより、そうだ! 交換日記は書いたの?」


なんか露骨に話題を変えてきたが、まぁ追求することはやめよう。

俺の事を心配して着てくれたのは本当だと思うし。


「ちゃんと書いたよ。そこの引き出しの一番上に入っているから」


俺はそう言いつつ、引き出しに手を伸ばすと、鈴音が立ち上がって私が取ると言った感じで手で俺の事を止めた。


鈴音は言われた通り引き出しを開け、日記を取り出し内容を読む。すると、なんか鈴音の顔がにやついた表情になり、俺を向くなり


「私がきてくれて、うれしかったんだぁ~にやにや、今日も私が来たから、実は心の中では踊り出しそうになるくらいよろこんでいるんだぁ~にやにや」


「少しとしか書いてないだろ。なんだその語尾の「にやにや」ってのは。鈴音なんて昨日は「とーくんがしんじゃったかも」って泣いてたくせに!」


「そ、それは今、言わなくてもいいじゃない。てか忘れて、いや忘れろ~」


きーっと目にうっすらと涙をためて、手に持った日記で俺の頭をぽかぽかたたく。俺も待ってとかごめんとか言ったが、通りすがった看護師さんに注意されるまでこのやり取りが続いた。


ーーーーー


「それで、とーくんはいつ退院できるの?」


ようやく落ち着いた鈴音が思い出したかのように聞いてきた。


「先生の話だと明日の午前中には退院できるらしいよ」


「ほんと!? よかった、これでまた遊べるね」


本当にうれしそうな顔で言ってくるのを見ると、いつも以上にうれしくなってくる。退院して何をしようかなど考えたのはもしかすると初めてかもしれない。


「そうだ!明日は退院のお祝いをしないと!」


「お祝いっていいよ別に……」


「だーめ!明日、とーくんに見せたい所があるから」


それを言うと鈴音がじゃあねといって帰ってしまった。


とりあえず俺はお母さんかお父さんに鈴音と出かける許可を得ないといけないなぁと思っていたら、お母さんが鈴音と入れ違いになるように病室に入って来て、俺の隣に座ると、


「さっきそこで鈴音ちゃんと会って、話を聞いたわ。明日、鈴音ちゃんと出かけるらしいわね。場所は鈴音ちゃんに口止めされて言えないけど、近くだったからいいわよ言ってきても。ただし絶対に無理はしないこと。分かった?」


俺の知らないところで話が進んでいたようで、明日はついていかないといけないんだなと悟った。

まあ、親に説明して許可をもらう手間が省けて良かったけどさ。

退院開けなのによく外出の許可を出したなぁと思いつつ、


とりあえず、俺は今日の事を日記に書き、寝ることにした。



ーーーーーーーーーーーーー日記ーーーーーーーーーーーーーーーー

1998年6月14日


体調は至って普通であり、検査が終わると暇だったが、


鈴音がお見舞いに来てくれて、今日学校であった事をいろいろ話してくれた。


なんか途中から算数の宿題を手伝うことになったので、もしや鈴音のやつ算数の宿題をやってもらうために来たんじゃないだろうな?


明日退院できることを伝えるとお祝いをしようということになった。明日、どこかに連れて行ってくれるらしい。


家族以外でこんな事をされるのは初めてなので嬉しい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー














評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ