第4話 1998年6月13日 きっかけ
また、入院してしまった。
少し体調が悪くなっただけなのですぐに退院できるだろうと、お医者さんはいってくれた。
病院はすることがなく、暇である。
そんなことを思いながら、過ごしていると気づいたら15時を回っていた。
もうそろそろ学校も終わりかなと思っていると、廊下の方からどたどたという足音と、看護師さんの注意をする声が聞こえてきた。
そして、足音が俺の病室のところでぴたっとやむと同時に4人部屋の扉がどーんという効果音がつくんじゃないかと思われる感じに開き、一人の女の子が息を肩でしながら近づいてくる。
鈴音である。
「もう! 朝とーくんの家に行ったら誰もいなくて、仕方なく学校に行ったら先生に入院したって聞いて本当にびっくりしたんだから」
「ごめん。朝少し具合が悪くなって、病院に行ってたんだ。でも先生がすぐに退院できるだろうって」
俺はお医者さんに言われたことをそのまま鈴音に言うと、その場で倒れこむように座り込んでしまった。
俺はそれを見てびっくりして鈴音に声をかけようとすると、鈴音が涙声で、
「本当によがっだ。こ…こん…こんなこと初めてだったから、わだし、ひっく、わだし、とーぐんが死んじゃうんじゃないかっておもったんだから……うわーん」
最初涙声だったのが、今では号泣である。
とりあえず、鈴音の背中をさすってやり、泣きやむまでずっとおなじ事を繰り返した。
数分後……
やっと泣きやんだ鈴音はそうだと言ってカバンの中をごそごそとさがしはじめ、俺に一冊のノートを渡してきた。
それは日記だった。
しかし、中を見ても何も書いてはいなかった。
この白紙の日記を渡してきた鈴音の意図が分からず、彼女の方を見ると
「それはね、日記だよ」
「いや分かるよ、そうじゃなくてこれは……」
俺が言い終える前に鈴音はやれやれといった顔した後、ベッドに座っている俺を指さして
「これはね、とーくんがこれから毎日書くの」
「はっ!?」
「だあーかあーらあー、とーくんと交換日記をするの」
鈴音の顔が膨らんできたので、とりあえずうなずいてみると、彼女の頬のふくらみがしぼんでいったので、お怒りが静まったようだ。
こんどは鈴音が恥ずかしそうに目を伏せ始めた。
「その日記帳ね。本当は私が書こうかなって思ってずっと前に買ったんだけど、全く使わなくてどうしようかなって思ってたの」
「それで?」
「今回、とーくんいきなり倒れちゃったじゃない。わたし、とーくんが具合が悪かったのぜんぜんきづかなかった」
別に鈴音が悪いわけではない。俺だってちょっと変だなくらいにしか思わなかったし。だがそれと今回の交換日記と何の関係があるのだろうか?
「だから私、今思いついちゃったの。とーくんが毎日その日の出来事とか体調とかを書いてそれを私が見るの。そしたら、もしかするととーくんの体の調子に気づいてあげられるかもしれないじゃない?」
なるほど、確かに一理あるような気がするが、俺は一つのおかしな事実に気づく。
「なあ、鈴音。その日記って俺が毎日日記を書いて、それを鈴音がみるってことだよな」
「うんそうだよ」
「それって交換日記っていうか、単にお前が俺の日記を見るだけだから別に交換してないような……」
「うん? なにかいった?」
鈴音のほかに有無を言わせぬ笑顔に何も反論することができず、俺はただ一言
「はい」
としか言えなかった。
鈴音が帰り、夕食を終え、あとは寝るだけとなったが、今日はいつもと違いやることがある。
そう、とびっきりの笑顔で渡された日記を書かなくてはならない。
ーーーーーー日記ーーーーーーーーー
1998年6月13日
今日から交換日記を付けることとなった。
交換と言っても鈴音は見るだけなのだが……
今日は昨日と違い体調がよい。
お医者さんもすぐに退院できるだろうと言っていた。
そのことを病室まできてくれた鈴音にいったら、突然座りこんでしまった。
それほどまでに心配をかけてしまったのかと思うとなんか申し訳ない気がするがどこか嬉しい気持ちもあった。
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こんなもんかなと思い、とりあえず寝ることにした。