第1話 2010年6月15日出発編
「……うっ」
俺はくらくらする頭を押さえながら、立ち上がる。
そこは、東京を一周する電車の駅のホームであった。いつも見る光景であるのでここがどこだかすぐにわかった。
しかし、おかしい。
俺はさっきまですごいレトロな雰囲気を醸し出していた文房具屋にいたはずである。
間違っても駅のホームなんかにはいないはずである。
そういえば服装もさっきまで着ていた服とは違う。
たしか、文房具屋にいったときはシャツに黒のジャケットを着ていたような気がするが、今の服装は、黄色のパーカーだ。
とりあえず、駅の改札口から出ると、やはり自分がよく知る町であった。
つまり、俺は駅のホームで寝てしまい、日記を文房具屋で購入するという夢をみていたということになる。記憶にはないが酒に酔ってこのホームで一夜を過ごしたのかもしれない。起きたら頭がくらくらしたし……。なぜ駅員さんが起こしてくれなかったのかという謎が残るが。
しかし、やはりどこか違和感を感じる。
なんかこう、全体的に何かが違う。
そう、貼ってある公告のポスターの内容がやけに古い気がする。なんて思いつつ街中を歩くと、記憶にある建物とは異なる建物がそこにはあった。
あの建物はたしか去年の夏ごろに新しくなったはずである。その時のオープン記念で俺もその建物に入ったからよく覚えている。
しかし、その建物は古いままである。
これは確実におかしい。
とりあえず、今日の日付を見ようとスマホをみると、さらなる衝撃を受けた。
そう、スマホの型が古いのだ。正確には前の機種である。
恐る恐る日付を見てみるとそこには
「2010年6月15日8時32分」
と表示されていた。
まてまてまて、一旦冷静になろう。まずは状況整理だ。
俺が知っている西暦は確か2014年であったはず。
数ヶ月前に冬季オリンピックを見たから間違いない。
よくよく見てみると違和感は他にもある。例えば俺が身につけている腕時計は2年前に買ったもののはずだが、今身につけているのは、大学入学祝いで親にもらった腕時計である。また、先日切ったばかりの髪が切った時よりも明らか長い。
というと今ある情報で今の状況を推理すると、夢だと思ったあの文房具屋でのおばあさんとのやり取りはすべて現実で、たぶんあの日記がトリガーとなって、過去にタイムスリップしたということになる。
なるほど、まったくわからん。
ここは、小説化マンガの世界か!?
と叫びたくなるほど混乱している。
まあ、通行人がいるので叫んだりはしなかったのだが……
10分後……
よし、とりあえずなぜ2010年6月15日にタイムスリップしたのか考えよう。
別に考えるまでもなく、これは彼女の命日である。つまり、約束の年であり、約束の日にちである。
なぜ俺はあの時行かなかったのか。答は簡単で彼女がくるとは思っていなかったのだ。小学6年の頃ひどい別れ方をしたのだ。しかも俺の一方的に悪い感じで。だからずっと待っているとは思っていなかった。
とりあえず、俺は約束の場所へ行こうと思う。位置的には隣の県をまたぐので、2時間から3時間くらいはかかるだろう。交通費は過去の俺の銀行口座からおろせばいい。
ごめんね。過去の俺。勝手に君のお金使うわ。でも必要経費だからわかってくれるよね?
という感じのことをおもいながら交通費とついでに食費などを多く引き出す。
さてと行きますか。
とその前に朝飯をつぶれちゃった店で食べてからにしよう。