宇宙艦クーガ -惑星“プラント”-
私は宇宙輸送艦クーガの艦長。乗務員は私のほかに副艦長の妻、それから私の母、娘3人と飼い猫のクーガ。クーガは雌猫である。つまり私以外は全員“雌”、失礼、“女性”である。で、私は正直、肩身が狭いのである。
あの日、私たち(同業種の仲間五人)は業務を終え後、星図に載っていない惑星を発見した。
その惑星は不思議な惑星だった。惑星は陸地の緑と海の青に覆われていた。センサーによると知的生体は勿論、哺乳類が全くいない。陸地にいるのは鳥類と昆虫類だけだ。後は植物。陸地を、極地を除く陸地を覆う植物だけだった。海には魚もいるし、クジラやイルカ類の動物がいた。私は惑星の進化についてそれほど詳しいわけではないが、これだけ進化した惑星の陸地に大型動物がいないのは不思議だった。
私たちはこの惑星を“プラント”と名付けた。新しい惑星を発見した者の権利だ。
私は副艦長の進言もあって宇宙艦“クーガ”を植物が生えていない荒れ地に着陸させたが、仲間たちは適当に艦を着陸させたので植物たちを踏みつぶすことになった。と同時に悲鳴のような音を音響センサーが捉えた。でも、そんなことはあるはずがなかった。植物が悲鳴を上げることなどなるはずがなく、センサーが何かのノイズを拾ったのだろうと思った。
私たち家族は艦に降りた。私も猫のクーガにリードを着けて艦から降りようとしたが、クーガはそれを激しく拒んだ。猫は好奇心の強い動物で、特に我らがクーガは頭がよく(以前、家族には内緒だがクーガに助けられたことがあった。)、かつ、気が強い。未知の惑星に降りると、一番に出口ハッチの前で待機しているのが普通だが、あの時のクーガは異常だった。丁度、自分にはとても敵わない敵に直面した動物のようだった。人間以外が持っている未知の巨大な敵に対する勘?
私はクーガを艦に残すことにした。「この星、見かけによらず注意した方がいいわ」と、妻である副艦長が言った。私も頷いた。
「気をつけろ。船からあまり離れるな」と、私は三人の娘と母に言った。「何かいるかも知れない。この星は見た目ほど平和ではないのかも知れない」
それでも、地上は楽園だった。風が心地よく、日差しも丁度良かった。小鳥も鳴いていた。まさに“地上の楽園”。私はこんなところにログハウスでも建てて、20世紀から21世紀初頭のジャズでも聴きたいなと思った。
「止めなさい、香里! 」私の妄想を妻の大きく厳しい声が破った。花を摘もうとした一番下の娘を叱る声だった。「命あるものを取ってはいけないわ」
香里が手を引い込めた花を仲間の娘が取り、意地悪い笑いを浮かべた。仲間やその家族は意味もなく花を摘み、その場に捨てた。
次の日の朝、私達家族以外誰もいなかった。艦を残して何処かへ消えてしまった。私と副艦長の妻は呆然と立ち尽くした……。
と、声がした。私と妻は何かに導かれるように草原の小道(一体、誰が歩いたのだろう? 獣道をつくるような動物もいないはずだ。)を進んだ。暫らく行くと大きな樹の下に出た。何か巨大な実が実っていた。否、違う! それは人間だ。仲間とその家族。昨日、私の一番下の娘、香里に意地悪な笑いを浮かべたあの娘もいた。みんな透明なねばねばした液体に覆われ気を失っていた。
妻が呟いた。“これは食虫、否、食人植物。ここは植物が支配する星”
「そうだ」と声がした。「この者たちは仲間を殺した。その報いを受けるのだ」
「仲間や仲間の家族を殺さないでくれ! 」と私は叫んだ。「私たちは何も知らなかったのだ。君たちが意識を持っているなんて……。意識を持った高等植物だなんてとても想像できなかった。お願いだ、仲間や仲間の家族を殺さないでくれ! 」
「心配するな。こんな下等動物を殺したら、我々も同じ下等になってしまう」
と、同時に仲間とその家族は食人植物から落ちて、呆けたように自分の艦に逃げ帰った。そのまま空に消えた。
後で聞くと、「あの星では悪い夢を見た。もう二度とあの星には近づかない」
その後も仲間たちにはいろいろあって全員転職した。
やはり飼い猫クーガの直感は正しかったのだ。
暫らくして、天の川銀河連邦によって惑星“プラント”の軌道上に警告ブイが設置された。