第6話 勝つために
この小説を執筆するに当たって、チェスを始めました。難しさに絶望・・・。
時刻は午前10時過ぎ。
俺達200人は戦争へ向け話し合いを行っていた。
「まず私たちが決めるべきことは、最初にどの国を攻めるかだ。皆も知っている通り、これが一番重要となるだろう。」
現在、世界には195の国が存在している。
その中で最初の戦争でどこを攻めるかを議論するようだ。
「攻める国を決めた後、皆の詳しいデータをまとめて部隊編成を行うつもりだ。それでは、まずは攻める国についての意見などを聞こう。誰か、いい意見などはないだろうか。」
やはりヴィクターは統率力があるから、俺としては隊長を任せるのはこいつしかいないと思う。
しかし、隊長のほかにも決めなければいけないことはたくさんある。
前線に出て戦う部隊・・・後方で支援にまわる部隊が重要になってくるはず。
「は~い。さすがにアメリカとかロシアは無理だろうから、弱っちいところから攻めたほうが合理的じゃね?」
ジャックが意見を出す。
しかしその意見にはユリアが反論した。
「それは確かにいい案だが、あまり小さなところを攻めすぎても得られる恩恵が少ないことが予想される。死者を極力出さないためにも、できるだけ戦争の数を減らしていきたい。リスクを下げ、かつ確実な恩恵を得られるところが望ましいだろうな。」
確かにユリアの意見はもっともである。
しかし、そんな国があるのか俺にはさっぱりわからない。
一応、聞いておくか。
「それじゃ聞くけど、そんな国は本当にあるのか?軍事関係や地理に疎い俺にはさっぱりわからないんだが・・・。」
「「あるよ。」」
二つの声がハモった。
この二つの声には聞き覚えがある・・・。
確か・・・
「「なにハモらせてんのよ!・・・・うぅぅぅ!」」
またもハモらせてお互いにガンを飛ばしあう、犬猿の仲。
地理に精通したミラと、データベースを自称するレイラだった。
彼女達にとっては得意な分野だったから意見を言おうとしたのだろうか。
どっちにしろ、貴重な意見だから喧嘩なんかしないでさっさと喋って欲しい。
「2人とも落ち着いてくれ。まずはミラから聞かせてもらう、それでいいな?」
見かねたヴィクターが仲裁に入り、話がようやく進む。
「ふふふ、地理的にも私たちが攻めやすい国があるわ。それに、勝った後にはそこを拠点として利用できるだけの価値もある。おそらくだけど、この場所を拠点にするのはちょっと危ないからね。」
「どうしてだ?ここがどこだか、ミラにはわかるのか?」
「ここは人工的に建設された島ね。私はフィンランドからここへ船で来る間、方角をずっと見てきたから大体の予想はつくわ。ほら、地図を持ってきたから確認して頂戴。ここよ。」
ミラが指を指した場所は・・・ユーラシア大陸とアフリカ大陸の境目辺りにある小さな海の真ん中。
この場所の周りは、ギリシャやイタリア、トルポリといった国に囲まれている。
彼女が危険だといっている意味がようやくわかった。
「つまり、この場所を拠点にしておくと、攻められたときに大変なんだな?」
「伊藤、あんたよくわかってるじゃない。私たちが戦争を続けて勝っていけば、嫌でも他国が攻め入ってくるでしょ?この場所だと防衛線には圧倒的に不利なのよ。周りは敵だらけだし、もともと私たちの人数は少ないからかなり危ないわ。そこで、拠点とするにふさわしい国がここ。」
ミラはそこから指を少しだけ上にずらした。
指された場所は・・・ノルウェー?
「ここは・・ノルウェーか?なんでここが役に立つんだ?」
「ここだと、周りの敵は少ない。しかも向こうから攻めてくるには空か海しかないから防衛は楽ね。ノルウェーの海軍が少し厄介だけど、そこを突破すれば勝機はあるわ。ノルウェーに勝ち、そこら一帯を制圧すれば、この有利な地形で戦力を補給できるってことよ。」
ミラが説明を続けるが、ノルウェーの軍の強さなんて知らない俺にはどのくらい勝算があるのかなんてわかりはしなかった。
ミラは勝った後のことも織り交ぜて話している。
目先の勝利に囚われずにそこからの恩恵もしっかり考えているのはすごいと思った。
「ちょっと待った。」
そこに制止の声がかかる。
声を出したのは、アレックス・グリームだった。
彼は比較的大人しいほうだと思っていたが、どうやら納得いかない点があったらしい。
「ノルウェーに行くのはかまわないけど、そこまではどうやって行くのかな?俺達の中に船やヘリコプターを操縦できる奴はいないはずだけど。君が言うには、ここはイタリアなどの国に囲まれた海のど真ん中らしいじゃないか。」
「そ・・・それは・・・。」
「うおおおおおお!!忘れてた忘れてた!!」
突然ホールに響く声。
またあいつか。
「うははは、ごめんごめん!戦地へいく場合、車と船ならオイラ達が責任を持って送るから心配しないでね!あ、ヘリコプターはだめだからね!」
まったく言いわすれ多すぎだろこの元帥。
どれだけ大事なことを言いわすれるんだ。
「戦車や軍用ヘリはキミたちが勝手に運転すればいいよ。現地にはオイラ達もいるから、現地で移動したい場合は近くにいる黒服さんに話しかけてね!」
どうやら黒服が俺達を移動させてくれるらしい。
これは手間が省けていい。
「最後に~・・。キミたちは侵略戦と防衛戦の話をしてたけど、敵が核ミサイルをオイラ達の拠点に撃ってきたら、その場合は黒服さんが撃ち落してくれるから安心してね!だって、核ミサイルなんかセコイもんね!まぁ、兵隊さんが攻めてきたらオイラ達は何もしてあげないからね。そんじゃな!」
風の如く現れ、風の如くに去っていった。
騒がしい奴だ。
「・・・というわけだから、私は攻めるならノルウェーがいいと思います!」
「ふふふ、俺も依存はないよ。(・・・こうなるのはわかっていたしね。)」
アレックスが怪しげに微笑んでいたが、まぁどうでもいいか。
「という意見がミラから出た。レイラはどうだ?」
「・・・悔しいけど、全く同じよ。ただ補足説明があるわ。ミラの言うとおり、ノルウェー侵略で私は言いと思っている。ただ、その後の目的を聞いてもらいたいの。あまりに強大なアメリカやロシアに対抗するために、私はここら一帯が欲しい。ノルウェー、スウェーデン、フィンランドといった国を手にした後に、イギリスを攻めていく・・・。これがこの作戦の要ね。」
つまり、ノルウェー付近の国に勝ち、そこから強力なイギリスへ対抗できるほどの戦力を蓄えていきたい・・・ということらしい。
彼女らは、この短時間でそこまでを頭の中で練り上げ、構成していったということだ。
「皆、これらの意見に何か反論と意見はないか?」
ヴィクターが問いかけるが、誰も意見を出さない。
これ以上の作戦はない、といえるほど完璧な説明だったから当然だったかもしれない。
かくいう俺も、この作戦でいけると確信した。
「・・・無いようだな。では、最初に戦う国はノルウェーで決定する。時間が惜しいため、次に部隊編成について決めていく。ここからは私の考えを聞いて欲しい。」
まぁ、軍の部隊編成だったらヴィクターとかユリアの方がずっと適任だろう。
彼らは国は違うものの、軍隊所属で少佐である。
指揮する立場といえばもっとも適しているといえるはずだ。
「まずは、皆の役割を具体的に振り分けていきたい。今から指示する場所へ、自分が当てはまる場所に行ってくれ。レイラ、資料を頼む。」
「ほら、これでしょ?」
「ありがとう。・・・・ふむ。では、自分の力くらい自分でわかっているだろうから、君達の判断に任せよう。大きく分けて3つだ。ピストルまたはアサルトライフルなどの前線で戦うことが多い者、もしくは特殊能力持ちで主に人と対峙してその力を発揮できる者がいれば、左側に集まって欲しい。」
ようするに、近接での戦闘をメインに活躍する奴が左側にいけってことか・・・。
俺は当然何もできないから、動かないけど。
「次だ。スナイパーライフルなどの後方で攻撃する者、もしくは特殊能力持ちで主に遠距離から敵を攻撃できる能力を持つものは右側に集まって欲しい。」
これは後方支援部隊か?
目の端にちらりと黒瀬が右に行く姿が見えた。
あの子はスナイパーライフル使いだったな。
「最後に、何も力を持たない者、もしくは戦闘に関しての能力がないと判断した者はそこから動かないでくれ。」
俺はここで決まりだ。
ここから動かない人間は俺のほかにも何人かいたけど、他の奴は違うところで活躍できるんだろうな。
そうなると、やっぱり何もできない自分が不甲斐ないな。
そして、ホールには3つの集団ができた。
前線部隊・その他・後方支援部隊となっている。
ヴィクターを見てみると、なにやら紙にデータを取っていた。
「・・・・よし。では、発表をしよう。長いから前線部隊をA隊・後方支援部隊をB隊・その他をC隊と呼ぶ。まずはA隊。アサルト組が95名。ピストル組が20人。重火器組が20名。ナイフ組が5名。特殊能力組が5名だ。」
やはり、アサルト組が多いんだな。
主力となるのだから、それも当然か。
「次にB隊。スナイパーライフル組が35名。投擲組が5名。特殊能力組が5名だ。」
あわせて190名。残りの10人が俺達C隊か。
C隊で俺は主に何をすればいいんだろう・・・いや、なにができるんだろう。
「最後にC隊。研究開発組5名。情報処理組2名。スパイ隊1名。全体指揮組2名。」
・・・・え?
あれ、俺はどこへいけばいいんだ・・・?
研究開発か?いや、俺にそんな頭脳は無い。
情報処理ならあのミラとマルクだろう。
スパイ活動なんてできるはずがない。
全体指揮なんて持っての他だし・・・・。
まさか、俺はA隊かB隊に振り分けられたのか?!
「おい、ちょっと待ってくれ!俺と渡辺はどうするんだよ!俺達は無能力なんだぜ?無能力組がどこにもないじゃないか?!」
「ヴィクター君。僕達の所属するグループについて教えてくれないか?」
俺と渡辺がヴィクターに言い寄る。
彼は動じずに答えた。
「何を言っているんだ?君達2人は全体指揮組に割り当たっているが・・・。何か異論でもあるのか?」
「異論っていうか・・・俺達は戦争なんかしたことねぇし、指揮なんかできやしないぞ?」
「僕も伊藤君と同じだよ。少なくとも、僕達2人が指揮をするより、ヴィクター君やユリアさんがやったほうが適任じゃないのかな?」
「私はアサルト組、ユリアはピストル組に所属している。現地で戦わなければならないため、指揮を執ることが難しくなってしまった。そこで君たち2人を全体指揮組にまわした。君たち2人なら少し戦争を覚えれば、しっかりとした指揮も取れると判断したんだ。」
「そうだな。私もヴィクターと同じだ。2人なら作戦を預けてみても面白いかもしれない。どちらにせよ、渡辺君も伊藤君も銃は使えないのだろう?君たちにできることはこれしかないんだ。とにかく、これからよろしく頼むぞ。」
ヴィクターとユリアも納得したとなれば、皆もあまり反対しなかった。
ジャックがいまいち俺達をあまり信用していない顔をしていたけど。
「ま、まじかよ・・・・。」
「大変なことになったね・・・。」
強制的に指揮にまわされたが、ここで半端にやってはいけない。
何にせよ、他の198人の命を預かる責任が俺達にある。
これは責任重大だな。
「・・・とまぁこのようになった。名簿をこちらに用意した。自身が所属する部隊を確認後、その中で更に細かく分けられたグループごとに集まってくれ。」
名簿を確認後、それぞれが自身の所属グループに集まる。
俺もC隊の場所へ行き、渡辺と合流する。
「これからは、所属グループ同士の話し合いとなる。ある程度意見が纏まり次第、他の隊とも情報を交換して欲しい。それでは、解散!」
その後、ホールにいた皆はそれぞれのグループと集まり、場所を変えるなどして話し合いをしていた。
取り残された俺と渡辺は・・・。
「はぁ・・・信じられねぇよ、俺が皆を指揮するなんて。」
「僕もだけど・・皆の命を預かるんだ、頑張らないとね。」
「・・・まぁそうなんだけど、なんかさ、俺が皆を駒みたいに扱ってるみたいであんまり気が進まないんだよなぁ。」
そう、指揮と言ったらやっぱりこうゆう感覚が強い。
配置からなにやら、攻め方やら撤退指示やら・・。
「駒・・・・。そうか!ねぇ、伊藤君。君はチェス盤持ってるかい?」
「突然どうしたんだ?一応個室にあるけど、遊んでいる場合じゃないだろ?」
「いいから、個室にあるんだね?僕は将棋盤を持ってくるから、15分後に宿舎の近くにある公園のベンチ集合ってことで!それじゃ!」
「お、おいっ!・・・また勝手に行きやがった。」
渡辺って、こういうところは身勝手だよな。
めんどくさいけど、時間に遅れて小言を言われるのも嫌だから、俺も個室へ行くか・・・。
「ったくなんでチェス盤なんて持っていくんだよ。」
独り言を呟いて、俺はカバンからチェス盤を出す。
買うときに1万円もした、大切な俺のチェス盤。
材質は木材で、さわり心地がまた、素晴らしいもの。
「・・・おっと、気づいたらまた勝手に駒を撫でてたか。」
ついついやってしまう俺のクセ。
俺の唯一の趣味で、なによりも大切なチェス。
毎日毎日触っていたのだから、しょうがないのかもしれない。
ここに来てから、触ったのは今日が初めてだったが。
「やば、時間過ぎちまう。さっさと行くか。」
俺は雑念を振り払い、公園へ向かった。
個室からチェス盤を持ってきて、公園まで歩くと、すでに渡辺はいた。
「もう、遅いじゃないか。まぁ、そんなことより・・・チェス盤を出して。」
「お前は一体何をするつもりなんだよ。」
「いいからいいから。すぐにわかるよ。」
公園の中にあったテーブルで、すでに渡辺は将棋盤を出している。
将棋版の上には、並べられた将棋の駒達。
仕方が無いので、俺もチェス盤を出して、駒を並べた。
「ほら、やったぞ。これでどうするんだ?もしかして、お前は俺とチェスや将棋をするつもりか?」
「ん?そうだよ。何かおかしい?」
案の定、渡辺は俺と勝負するつもりだったらしい。
「おかしい?ってお前な・・。まぁ、しょうがないから一局だけ付き合うよ。んで、どっちをやるんだ?」
「え?両方やろうよ、せっかくだし。将棋とチェスを同時にね。」
「はぁ?んなもんなんか意味があるのか?どうせ勝負は見えているだろう。」
もちろん、将棋は俺が負けてチェスは・・・まぁ俺が勝つと思う。
もしかしたら、渡辺はチェスも強いかもしれないけど。
「そうじゃないんだよ・・・。これはある意味‘テスト’のようなものだから・・。それじゃ、やろうか!お願いします。」
「何でテストなんだ?・・・まぁいいや。・・・・・お願いします。」
テストとか何だとか言ってたけど、勝負はいつだって真剣勝負だ。
俺も全力で相手をする。
すぐに公園は沈黙に包まれ、二人が駒を指す音以外何も聞こえなくなった。
渡辺は笑いながら指し、俺は無表情で指す。
時間はあっという間に過ぎていった。