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第5話 決意

「いててて・・・・。今何時だ?」

 あのノートを書いてから、そのまま寝てしまったのだろうか。

 机には涎のあとが残っている。

 無理な体勢で寝たためか、身体の節々が痛い。


 時刻を確認してみると、午前6時を過ぎていた。

 

「たっぷり寝たし・・・早めに起きてちょっと身体でも動かすかな。」

 外を眺めると朝日が眩しいし、気温もちょうどいいだろう。

 俺は身体を動かすべく、着替えて外に出た・・。



 外に出ると、意外な顔を見かけた。

 朝の運動だろうか・・・ユリアが動きやすい服装で、縄跳びをすごいスピードで飛んでいた。


「おはよう。朝早いんだな、ユリアは。」

「ああ、伊藤君か。おはよう、私はいつも朝は訓練しないと気がすまなくてな。君のほうこそ早いな。」

 互いに朝の挨拶をする。

 こうやって喋っている間にもユリアは縄跳びをものすごいスピードで飛んでいるわけだが。


「伊藤君も一緒に訓練をしないか?いい運動になるぞ、気分もすっきりするし。」

「悪いな、俺はそんなハードなものを朝からしてたら、これから動けなくなるから遠慮しておくよ。」

 これは俺の本心だ。

 朝からそんなことしてたら、普通は疲れて午後に動けなくなるはずなんだが・・・。

 体力を温存しておきたい俺は、丁重に断ることにした。


「そうか・・・残念だ。また改めて誘わせてもらおう。」

「は・・ハハハ・・・そうだな・・・。また今度、な。」

 改めて誘うとか不吉な言葉が聞こえたけど、気のせいだ。

 俺は早々にこの場を立ち去るのであった・・・・。


 ちなみに、喋ってる間に彼女は縄跳びで4重跳びを高速で飛んでいた・・・・。


 

 その後南区を回って、西区、北区と一周して戻ってきた頃には時刻は7時30分。

 朝食を平らげても、まだ時間が余っていた。


「まぁ、早めに集まっておくか・・・。時間が経てば、皆来るだろうし。」

 少々早かったが、ホールへ向かうことにした。

「今日で皆の意見が纏まるんだよな・・・気をしっかり持たないと。」

 不安で仕方なかったが、それでもホールへと足を進めた。



 ホールに着いたとき、少なかったが何人か人はいた。

 見知った顔を見かけ、話しかける。


「おはよう、渡辺。」

「あ、おはよう、伊藤君。」

 渡辺も俺に気づき、挨拶を返す。


「・・・今日で戦争をするかしないかが決まる。・・・結局渡辺はどっちなんだ?」

 そういえば、昨日はなんだかあやふやにされて、聴けなかった気がする。

 渡辺の考え・・・何を思い、何が彼の決意を固めたのか。


「まぁ、どうせ後で言うけどね。僕は・・・戦争で戦うよ。といっても、戦闘能力は皆無だけどね。」

「そりゃ、俺も同じだよ。・・・昨日、渡辺が言っていた決め手について教えて欲しい。考えてみたけど、やっぱり何も思い浮かばなかった。この選択を裏付ける、決定的な理由が。」


 考えてもその答えはでなかった。

 戦争をすることが間違いじゃないという決定的な理由なんて・・・本当にあるのだろうか。

 戦争とはいえ、人を殺すことは決して許されない・・・と少なからず俺は思っている。

 だけど、そうしなければならない。俺達の未来を取り戻すためにも。


「ふぅ・・・。伊藤君は・・・昨日、しっかり自己紹介を皆としたのかい?」

「え?そりゃ、一応ほとんどの人とはやったけどさ・・・。」

「なら、君だってわかっているはずだよ。どれほどここに居る人間が頼もしいか・・・ってことをね。まぁ、それがわかれば僕の考えの1つにはたどり着けるはずだよ。」


 そんなこと考えるまでも無い。

 皆俺なんかよりずっとすごいし、俺なんて何もできない・・・。

 だけど、渡辺の言うことの真理がわからない。


「それは既にわかりきったことだろう?何が言いたいんだ、お前は。」

「・・・もっと皆を頼れってことと、大局を見れってことかな。それよりほら、皆集まってきたよ。僕もちょっと話したい友達が居るから行って来るね、それじゃ!」

「お、おい!・・・・・行っちまった。」


 相変わらず、何を考えているのかよくわからない。

 今日の話し合いのとき、彼はその答えを皆に言うのだろうか。

 


 しばらくして、約束の時間になりホールには全員が集まった。

 決意を固めた人は表情もはっきりしているが、いまだ迷っている人の表情は何ともいえない。

 

「さて、皆集まったようだし、始めよう。これから、皆の意見を聞かせてもらう。私が君たちに問うのはただの一問。戦争をするか、しないかだ。」

 時間になり、ヴィクターが進行する。

 

「自分が出した答えのままに行動してくれ、決して安易な考えで答えないで欲しい。」

 それは俺も同感だ。しっかりと決意を持って答えて欲しいと思う。


「では、問う。戦争をするべきと考えた者は右へ、しないべきだと考えた者は左へ分かれてくれ!」

 ヴィクターが聞いた途端、皆が一斉に動き出す。

 あるものはその一歩に迷わず、あるものは戸惑いながら・・・・。

 俺は右のほうへと足を進めた。


 数えたところ、100人くらいだろうか。

 右におよそ100人左にもおよそ100人分かれている。

 

「参ったな。これでは半々になってしまった。これはどうするか・・・。」

 ヴィクターが頭を掻く。

 

 確かに困った。半々ではどちらの意見も反映されない。

 強制的に戦争をさせたって、無駄に死人が増えるだけだ。

 この問題は、全員が納得しなければ・・・・。


「ったく頭固い連中は困るよなぁ!めんどくせぇんだよお前ら!んなもん戦場行って殺して生きて帰ってくるを繰り返してりゃでられるんだぜ?なんで嫌がんだよ、でたくねぇのか?チキン共が・・・。」

 ジャックが余計なことを言って場の空気を悪くする。 

 なんでこいつはこういう言い方しかできないのだろうか・・・。


「お前はそうかも知れないけどな、俺は人なんて殺したくねぇんだよ!こんなのおかしいだろ?!テロとかクーデターと同じように扱われたらどうするんだよ!」

「その通りだ!俺には人殺しなんかできない!俺達が出るために世界の平和を脅かすんだぞ?!その意味がわかってんのか?!」

 戦争をしないと答えた人たちが一斉に反論をし始める。

 こうなることは予想できたろうに・・・ジャックの奴め・・。


 喧騒に包まれるホール。

 お互いが一歩も譲らない状態が続いていた。

 ところが、反戦争派の一人が画期的なことをいいだした。


「なぁ、皆。ここには優れた超能力者や軍人がいることは知っているよな?つまり、そいつらの力を使えば戦争なんかしなくたって、俺達はここを出られるんじゃないか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「だってそうだろ。考えてみたらどうやってこの力を抑えるんだ?力を解放すれば止められないはずだろ?」


 まさか・・・そんな手があったなんて・・・・・。

 渡辺が言っていたのはこの事だったのか?

 戦争なんかしなくたって、俺達はここから出られると・・・。

 だがそれだと疑問が出る。そうなると渡辺はわざわざ戦争をするなんて言わなくても良かったはず。

 この作戦に何か落とし穴が・・・?




「うわぁ、ダメダメダメ~!そんなの絶対だめだよおぉぉぉ!」

「うわっ?!なんだ?!」


 突然現れたおかしな声の主・・・もう顔も見たくなかったが、この機関の元帥様だった。

 彼女はこれらの話を全て聞いていたらしい様子で飛び出してきた。

 そのままホールに上がり、皆に向かって言う。


「そんなの反則だよぉ!サッカーでいうとレッドカードもんだよ、マジで!」

「な、なぜですか?!いや・・・なぜだ!」

 さきほどの男子生徒が反論する。

 画期的な方法を思いついたのに、それを禁止されてイライラしているのだろう。


「だって、キミたちが世界を取れなくなっちゃうじゃーん!いや、別にいいんだよ使ったって?・・・その場合はとても恐ろしいことが起きちゃうけどねぇ~。」

「恐ろしいことって・・・なんだよ・・・・。」


 嫌な予感がした。

 こいつの言う恐ろしいことはきっと冗談なんかじゃない。

 とてつもないことが・・。


「キミたちがこの島で、オイラやオイラの仲間達、または島に向かって能力を発動した場合は、黒服さんたちが世界各地でテロを起こします。それと同時に、ここの場所を明かして、全世界とアビリティ機関の戦争が強制的にスタートさせられるようにするよ。キミたちはもちろんこちら側だからほぼ100%死ぬけどね!」


 能力を発動した時点で、戦争が始まる・・・・テロが起きる・・・。

 

「それじゃ、オイラが言いたいことは以上!引き続き、小学生みたいな話し合いを続けてくれていーよ!」


 元帥はそのままステージから去っていった。

 残された俺達は先ほどまでの喧騒とはまるで違う沈黙の中に居た。

 誰も口を開かない・・そんな時だった。



「ねぇ、皆。僕の話を聞いて欲しい。」

 口を開いたのは、渡辺だった。

 あいつはこの沈黙のタイミングを見計らって、自分の考えを話すつもりなのだろうか。


「話を聞けって・・・お前・・・どうしたんだよ・・・。」

「これは皆に関わることだし、これからの進むべき道の手がかりになってくれると思う。」


 皆の視線が渡辺に集中する。

 皆は何かを期待するような、でもきっと無理だろうなと諦めているような目をしていた。

 

「皆も知っていると思うけど、僕は無能力だ。それでも、僕は戦争で戦うことに異論は無いよ。例えば戦争について、戦争で戦う=世界の平和を脅かす・・・といった考えや、戦争は人が大量に死ぬ・・・という風に考えるのが一般的だろうけど、僕はちょっとだけ違うんだ。」


 全員が彼の話に耳を傾ける。

 当然だ、全員がそうであると思っていた戦争が違うものであると彼は言っているのだから。


「僕が考えている戦争は、戦争で戦う=世界を絶対的に安全にするといったものや、戦争は人が大量に死ぬものではないというものなんだ。」

 

 一呼吸おいて、渡辺は続ける。

 すでに俺はむちゃくちゃ驚いているけど。


「根拠はね・・・皆だよ。僕は皆を見て思ったんだ、これなら戦争の常識を覆せると・・・。国と国との争いでしかなかった戦争が・・・違うものになるとね。まぁ、話を続けよう。皆はそれぞれ素晴らしい能力を持っていることはもう知っていると思う。例えばだけど、医療に長けていたり、武器が作れたり、戦闘能力が高かったりとね。それらを上手くコントロールするとどうなると思う?」


 その問いには誰も答えなかった。

 おそらくまだ理解していないのだろう。

 

「渡辺・・・お前が言いたかったのは、こうゆうことだったんだな・・・。」

「伊藤君、ここまで言えばさすがに君も気づいたんだね。・・・それじゃあ続けよう。」


 俺は渡辺の言いたかったことがようやくわかった。

 それは確かに、俺達が伝えられてきた戦争とはまた違ったもの。

 これさえ、上手く伝われば・・・決定打だ。


「戦争というのはね、人を殺さなければいけないっていうものじゃないんだ。殺す=動けなくするということならば、別にわざわざ殺す必要は無いんだ。そう、動けなくするなら眠らせる・痺れさせるといったことをして戦闘行動を取れなくすればいい。そこを捕らえて、武器を奪えばもう彼らは戦うことはできないただの一般人といえる。それを繰り返していけば・・・。」

「敵は兵士を殺されたも同然で、兵士がいなければ戦争はできないため負ける・・・ということだな?」

「ご名答、伊藤君。」


 戦闘行動を取れないようにするなら別に殺さなくてもいい・・・というのが渡辺の結論。

 眠らせる・負傷させる・痺れさせる・・・といったことをしていけば殺すことはくなる。

 そこで問題になるのが‘どのように’だが、もう答えはわかっている。

 だからあの時渡辺は・・・。


「もちろん、そんなことが簡単にできるものではないというのはわかっている。そこで、皆の出番だ。皆の能力を上手く使えればこの問題は難なく解決できるんだ。・・・僕話すの疲れちゃったから伊藤君に交代するね、もうわかってるんでしょ?」


「はぁ・・・わかったよ。・・・・例えば、医療に長けている人が薬を作ります。兵器開発をしている人が銃を作ります。そこで2人は協力して、特殊な薬が発射される銃を作りました。その銃を戦闘能力が高い頼れる軍人さんに渡しました。軍人さんは持ち前の技術で敵の急所に銃を撃ち込んで、意識を奪いました。そこで倒れた敵さんをどこかの収容スペースに入れて、無事に敵さんは死ぬことなく戦争から離脱できるって訳さ。」


 自分なりに噛み砕いて説明したつもりなんだが・・・伝わっただろうか。

 皆の顔色が変わったところを見るとどうやら伝わったようだ。


「すごいや伊藤君!まさにそんな感じだよ!・・・じゃあこの先にある未来についても・・・?」

「ああ、大体だが予想はついている。」


 渡辺が言った『戦争をする=世界を絶対的に安全にする』の答え。

 その答えは、これしか考えられない。


「皆、もしもこの戦いで戦争に勝ち続けて、僕達が世界を取ったとしよう。世界を取っちゃったら、あとは何をしようが自由なんだ。皆なら、戦争が終わった世界をどうしたい?」


 沈黙が続き、渡辺は咳払いを一つして話を続ける。


「僕なら・・・世界から武器をなくす。核ミサイルも、軍隊も、全てだ。あくまで僕の意見だけどね、もっといいやりようがあるのかもしれない・・・けど、僕は世界にとって一番不要であるのは武器だと思うんだ。もちろん、他に納得ができることがあればそっちを優先してもらってもかまわない。僕が言いたいのは、この戦争を終わらせることができれば、いい意味でも悪い意味でも世界を好きにできるってことなんだ。」


 これが渡辺の出した究極の案。

 俺はこの意見に依存は無い。

 軍隊にも何も入っていない俺には、戦争というものを知っているようで知らない。

 きっと想像以上に辛いことや、耐え切れないこともあるだろう。

 だからこそ・・・そんなものは無くなったっていいはずだ。

 むしろ悪いわけが無い。

 

「と、いう話なんだけど・・・。皆は、この話理解できたかな?」


 数秒の沈黙の後、沈黙が破れる。


「そうすれば・・・俺達は人を殺さなくてすむんだな・・・。」

「俺達がここを出るためには・・・戦争をするしかないしな。」

「でも、本当にそんなことできるのか?」


 まぁ、そうくるだろうな。

 ぶっちゃけかなり無理がある話だけど、俺に不安は無かった。


「できるかじゃない、絶対に成し遂げてみせる。お兄様、私は絶対に作り上げますから。」

「ふふふ、アリスがそういうならもちろん協力するよ。一緒に頑張ろうアリス。君だけを頑張らせるなんて、兄として絶対に許されないしね。」


 バルチナス兄妹がすでに戦争へ向け準備を始めていた。

 その姿に感化されたのか、他の皆も目に希望が映る。


「俺はもう迷わない、この戦争を終わらせるまで、一緒に戦う!」

「私も!」

「俺もだ!世界を安全にするための戦争なら、俺達は何一つ間違ったことはしていない!」

「あいつら政府に任せたって、平和なんてこない!平和は俺達が作り出すんだ!」


「では再び聞こう。戦争をするべきと考えた人は右へ、しないべきと考えた人は左へ進んで欲しい。」

 ヴィクターが再び問う。

 俺達200人に迷いはなかった。

 全員が決意を持って右に進んだ。

 先ほどの表情の曇りは一切無い。


「どうやら全員、右へ進んだようだな。戦争をする覚悟ができたと見ていいんだな?」

 全員が頷く。


「いやぁ・・・良かったよかった。皆、頑張ろうね。」


 渡辺も満足そうに頷いていた。

 

「それでは、時間が惜しい。今すぐ作戦会議を開く。皆、共に頑張ろう。」

 ヴィクターがその場を仕切り、すぐに場は緊張感に包まれた。

 これからの戦いで勝ち抜いていくための作戦だからしっかり聞いておかないとな。



 なにはともあれ、ここからだ。

 唯一の希望を見つけた俺達は、そこへしがみ付くしかない。

 だけど、この選択に後悔はしていない。

 


 

 俺達200人だけで挑む孤独な戦いが、始まった。



いかがでしたでしょうか。

次回から戦争モードへと切り替えていきます。


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