第1話 日常の終了
「協力要請?」
「そう、あなたにだって。でも、国からそんなもの届くなんてすごいじゃない!」
何の予定も無い休日。
家でだらだらしていた俺に届いた赤い封筒を母が興奮しながら手渡してくる。
その中には、「アビリティ機関」への協力要請を通達する書類が同封されていた。
「でも、これって怪しくないかな。書類によると、何か特別な能力を持っている人間のみが集まるって書いてるし。俺が得意なことなんて、チェスくらいだぞ?」
「そんなこと知らないわよ。噂で聞いたことがあるけど、すごいところらしいわよ。特別な能力を持った未成年の人を集めて、国の威信をかけて戦う世界大会みたいなものに出場するとか。」
その噂は聞いたことがある。
それぞれの分野に秀でた人物を集め、世界を相手に戦うというものらしい。
もちろん、国の代表で行くわけだから、注目もされるわけであるが。
「でもなぁ・・・普通の日常が何よりの幸せである俺に、そんなものに協力しろといわれてもな。第一、俺よりチェスが強い奴なんて、国内にはまだまだたくさんいるし。」
そういう点で見れば、俺は何のために「アビリティ機関」に呼ばれたのかもわからなくなる。
何かの手違いだった・・・とかならいいんだけどな。
「何言ってるのよ!こんなお誘い、断れるわけ無いでしょう?国から来てるんだからね!」
面倒な話だが、お国から通達をもらっている以上、断るなんて選択肢はないのかもしれない。
そのまま有無を言わずに「アビリティ機関」に送られる・・・なんてこともありえるだろう。
「えーと、書類によると・・。あら、まずい。明日には港へ行かないと・・・。直輝、急いで準備しなさい!」
いや、集合場所を聞く限り、ほぼ100%の確立で行かされるな。「アビリティ機関」は島だし。
世界と戦うって言っても、俺には何の能力も無いのにな。
行っても負けるのは目に見えている。
しかし、学校もサボれるし、かなり面倒だがメリットは多少あるかもしれない。
「はいはい、わかりましたよ。・・・どうせ断れないんだ、楽しんだもん勝ちだろ。」
着替えなどをバカンス気分で用意する。
あっちは島だしな、海もあるだろうから色々持っていくか。
俺は何も知らずに、ただ浮かれて準備をしていた。
この選択が、自分の未来をぶち壊すなんてことを知る由も無かった。
そして、終わりのない戦いが始まることも・・・。
「やぁ、君が伊藤直輝君かい?」
次の日、待ち合わせ場所に到着した俺は早速スーツの男に話しかけられていた。
「ええ、そうですけど。」
「18歳。X高校に所属する3年生。趣味はチェス。好きなことは昼寝。性格はやや控えめ。身長165cmの体重が55kgの伊藤直輝君で、間違いは無いね?」
「なっ・・・?!」
「驚かせてすまない。私の名前は、宮崎だ。一応国の代表で行くわけだから、個人情報は多少調べさせてもらったよ。この個人情報が外部に漏れることは絶対に無いから、安心して欲しい。」
俺はただ驚くしか出来なかった。
相手がたかが一般市民なんだから、その程度は朝飯前なんだろうか。
それにしても、どうやって調べたんだろう。
なかなか、というかほとんど俺に一致するプロフィールだ。
他にも、顔は普通、運動も勉強も普通である・・・というのを入れるとバッチリだろう。
何しろ、テストも大体平均点、運動も上手くもないが下手でもないという中途半端なのが俺なんだから。あと、付け足しておくと彼女はできたことがない。
「・・・了解です。俺が伊藤直輝ですけど、この船は一体・・・?」
おおよそ、答えは推測できたが一応聞いておくことにした。
「ああ、これは「アビリティ機関」へ行くための船だよ。」
質問には最低限の答えしか返さない、そんなことを面と向かっていわれた気がした。
・・・これも聞かなければ答えてくれなさそうだな。
「あの、この協力要請って拒否権はあるんでしょうか?」
「ん?もしかして君は、この協力要請を断ろうとしているのかい?」
「い、いえ・・・ただ聞いておいたほうがよろしいかと思って・・・。」
いきなり核心を突かれ、少し焦ってしまった。
「残念ながら、拒否権は無いよ。国から選ばれたんだ、国のために頑張るのは当然だろう?もっとも、こんなに良い条件で断る人なんてそうそういないだろうけどね。」
そんなに良い条件があったっけ?
「えと・・条件、と言いますと・・・?」
「君は確か高校3年生だったね。国の代表として頑張る生徒が今年は受験生。きっと君を欲しがる大学もたくさん出てくることだろう。それに、大会中は万全の状態でいてもらうためにも、食事なども徹底的に配慮する。部屋もホテルの一等室並のところで過ごしてもらう。・・・ここだけの話、履歴書にも載るから就職にも便利だぞ?」
メリットだらけ、ってかデメリットが見当たらない。
こんな良い条件だったのかこれは・・・!
これは何が何でも行かないとダメだな。
俄然やる気出てきたし。
「わかりました。世界一を目指して、全力を尽くします。」
「どうやら質問は終わりみたいだね。それじゃ、行こうか。ちょっと長くかかるから、船にある船室で休んでもらってかまわない。予定では3時間だ。」
俺と宮崎さんは「アビリティ機関」へ向かう船に乗り組んだ。
「でも、本当に行くことになるなんてな・・・。」
波で揺れる船の感覚を楽しみながら、勝手にこの言葉が漏れた。
まさか自分が、こんな特別な場所に行くことになるなんて夢にも思わなかった。
ましてや普通だった俺と特別だった「アビリティ機関」が本来ならば交わるはずが無い。
・・・これが運命のいたずらって奴なのかな?
そういえば、結局確認していなかったけど・・・。
俺はチェスの代表としてあの島に行くのか?
チェスの実力はそこそこはあると思うが、まだまだ青い。
こんな俺が通用するほど世界は甘くないと考えてしまう。
「なら、俺は何のために呼ばれたんだろう・・・。」
考えれば考えるほど、謎は深まるばかり。
俺に特技と言えるものなんてないし、先ほども紹介したとおり、中途半端な人間である。
そんな俺を呼んだとしても、1回戦でボロ負けして終わるのが関の山だろう。
「今はそんなこと考えても、仕方ないよな。それよりもこれからどうするか、だ。」
潮風にあたって考えた結果、一つ頭に思い浮かんだのが、「交流」
特別な能力を持った人間(俺以外)がせっかく集まっているんだから、仲良くなっても悪いことは起きないと思う。むしろ、近づけて光栄である・・・くらいに考えておいたほうがいいかも知れない。
普通に友達になれればうれしいし、仲良くなれば、その分野に関することを特別に教えてもらえるかもしれない。
だけど、控えめな俺の性格だとうまくコミュニケーションを取れるのかすら、怪しいところである。
「・・・・慣れていくしかないよな。」
結局のところ、慣れていくしかない。
相手はたぶんいろいろとかなり変わっているはずだ。
こちらも、特別な集団の中の普通な人間である。普通と言う存在が特殊になる可能性もある。
そういう点では、そこを売りにしていけば・・・。
トントン・・・。
「あの・・・。」
「うわぁ?!ななな、何?!」
いきなり俺の肩を叩いてきた誰か。
色々と考えていたら、人が寄ってきたのにも気づかなくなっていた。
・・・考えすぎで周りが見えなくなるクセ、直さないとな。
振り向いて、顔を見ると、背は俺より少し低めの女の子だった。
「・・・時間を、教えて欲しい・・・。」
「へ?・・・え、えーと・・12時46分だよ。」
「そう・・・。ありがとう・・・。」
女の子は礼を言った後、去って行った。
「び、びっくりした~・・・。な、何だったんだろう、今の子。」
ただ時間を聞きに来たみたいだったけど・・・。
「でも、けっこう可愛い子だったなぁ。」
口から素直に感想が出てしまう。それほど可愛かった。
あんな子が、あの島にもいたら嬉しいけどな。
・・・・あれ?そういえば、この船って・・。
「宮崎さん、ちょっとお聞きしたいことが。」
「ん、何かな?」
先ほどの疑問を解決するため、宮崎さんに話を聞く。
「この船なんですが、俺以外にも誰か乗っているんですか?」
「ああ、ごめんごめん。話していなかったね。日本からあの島へ行く人間を、この船は乗せているんだよ。誰かと会ったのかい?」
「あ、はい。先ほど声を掛けられて驚いたので・・・。」
「ハハハ、きっと退屈してるんだよ。君は18歳だったね。あの島に行くのは未成年しかいないから、ほとんどの人が君と同じかそれより下だから、あまり気を遣わなくてもいいと思うよ。」
いや、普通初対面に偉そうにしているほうが問題だろう・・・。
「わかりました、それでは失礼します。」
あと2時間くらいか・・・。
船室で眠るとするか。
ピピピ・・・ピピピ・・・。
「・・・・んぅ・・・。・・・もうそろ、着くのかな・・・。」
アラームの音で目が覚める。
船室で寝れるか不安だったがふかふかのベッドがとても気持ちよかったので、ぐっすり眠れた。
到着予定時刻の10分前に起きた俺は、軽く伸びをすると、船を降りる準備をした。
「おお、ようやく出てきたか伊藤君。ちょうど、船が着いたところだ。」
「すいません、宮崎さん。ぐっすり眠ってしまいました。」
とにかく、船が島に到着したようだった。
「ようこそ、ここが「アビリティ機関」だよ。」
「ここが・・・・。」
初めて見る「アビリティ機関」に俺は、驚きを隠すことが出来なかった。
いま、船が泊まっているここは島の南側である「南区」
中央から東に行けば、俺達がこれから泊まる宿舎がある「東区」
中央から西に行けば、娯楽施設がある「西区」
北へ進めば、それぞれの分野の専門機関や、トレーニング施設がある「北区」
・・・という構造になっているらしい。
しかし、やはり規模が違う。
さまざまな分野のエリート達が集まるため、こんなに大きいのだろうか。
こんな中で自分が過ごすのはやはり、筋違いなのでは・・・。
「伊藤君、まずは北区に行くよ。30分後に、元帥から君たちに向けての話がある。そこで話を聞いた後に、宿舎に案内するよ。その荷物は、ここのスタッフが部屋に運んでおくから、貸してくれ。」
元帥?なんだか軍隊みたいだな。
この施設の責任者さんかな。まぁ、呼称なんて人それぞれ趣味があるわけだしどうでもいいか。
「・・・わかりました。では、お願いします。」
荷物を預け、宮崎さんについていく。
俺に背中を見せるとき、一瞬顔が笑った気がしたんだけど・・・気のせいかな。
北区に着いた時、まずその人数の多さに驚いた。
100人を軽く超えている人数だ。
それに、日本人じゃない人もたくさんいる・・・というより、日本人の方が少ない。
金髪の人。瞳が青い人。黒人、白人などさまざまだ。
「あれ?宮崎さん。なんでこんなに日本人以外の人がたくさん居るんですか?」
「そりゃ、世界各国からいろいろな分野のエキスパートが集まっているからね。日本人のほうが少ないよ。」
あれ・・・?これは日本から代表選手を集めて、世界の代表選手と競い合うんじゃなかったっけ?
勘違い・・・だったのかな。
でも、世界中から代表選手を集めているって事はここで大会を開催するのか?
「もしかして、世界中の代表選手をここに集めて、ここで大会を開催する予定なんですか?」
「・・・・・ああ、そうだ。だから規模を少し大きめにしたんだ。」
やはりここで大会を開催するらしい。
そのために、俺達日本からの代表選手はここまで船で一緒に来て、ほかの国の連中も同じようにここまで来たんだろう。
時計に目を移す。
もうそろそろ、30分が経つ。
責任者さん・・・じゃなくて、元帥の話の時間に間に合うよう、俺はステージの前のスペースを確保する。
スペースを確保した時、ちょうど島内にアナウンスが流れる。
---間もなく、元帥の話が始まります。お集まりになられていない方は、至急、北区の場外フリーホールにお集まりください。繰り返します。至急、北区の場外フリーホールへお集まりください。
やっぱり一応重要イベントなんだな。
でも、待ってるのもだるいからできれば早く集まって欲しい・・・。
5分後、さっきより30人くらいは増えた気がする。
それでも、まだ全員が集まっていないのだろうか。元帥からの話は始まらない。
アナウンスから10分後。
さきほどから集まっていた人たち+俺もとうとう待ちきれなくなる。
がやがやと人々の話声が交差する。
俺もいらいらして、宮崎さんに話しかけようとしたその時だった。
「いやー、おまたせおまたせ♪」
「ただいまより、元帥からの話を始めるよ~!」
やっと始まるのか。
ほんと、何分も待たせやがって・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・は?
その場にいた全員がほとんど俺と同じく、口を開けてポカーンとしていた。
恐らく、驚きすぎて目の前の光景が信じられないのだろう。
思考がフリーズする。
ステージの上にいる人・・・・・いや、人なんだけど・・・。
「いやぁずっと待ってたのにこない人もいるもんだねぇ!オイラ悲しいよ!」
俺の目が普通の目玉なら、あれは・・・・。
「ん、どうしたの皆。なんか目つきが怖いよ?オイラのこと愛してるのはわかるけど、そんな風に迫られたってオイラ困っちゃうよ!」
どう見ても、7歳くらいの女の子にしか見えなかった。
「ほ、ほら!オイラはちっちゃいけど、ちゃんと元帥やってるから!別にパパが元帥とかママが元帥とかそういうオチはないからね?!オイラが元帥だよ~♪」
・・・・ふぅ。やっと落ち着いた。
つまり、このお子さんが元帥ごっこやってるだけか。なんてはた迷惑な。
元帥であるパパかママがしっかりしていればこんなことは起きなかったのだ。そこをしっかり教育して欲しいと思う。
そのとき、俺と同じ結論にたどり着いたと思われる一人の男が、壇上のちびっ子に話しかける。
「なぁ、俺達は君に用はないんだ。パパかママが総帥なんだろう?はやく呼んできてくれ。」
実に見事なスルースキルだ。ついでにパパかママを呼ばせる、まさに一石二鳥。
「はぁ?!違うよ!オイラが総帥だよ!さっきそういうオチはないって説明したばっかりだろー!」
この子、ちっちゃいけどなかなか知能は高そうだな・・。
2人のやり取りを見て、周りの能力者達も、顔に苦笑の色が浮かぶ。
「子供がここにきちゃいけないよ。」
「パパとママはどこ?」
「お家に帰りなさい。」
皆がそれぞれ、あのちびっ子に向かって優しく、諭していく。
俺は・・・・なんていうか、いっても無駄な気がしてきたので、黙り込んでいる。
「ふぅ~ん・・。あっそ。まぁ信じろっつー方が無理があるわな。それじゃ、証明しますか。」
突如、皆に色々言われていた壇上の少女が態度を一変させる。
表情は凍りつき、先ほどの子供染みた雰囲気が一切感じられない。
全てを達観したような目。顔からは恐怖も、怒りも、どんな感情も感じられない。
それより、証明って・・・何をするつもりなんだ?
「宮崎さーん。ジェイムスー。アレ、連れてきて。」
「「了解しました。」」
宮崎さんと、ジェイムスと呼ばれた男が、俺と同じ歳くらいである、男子2人を連れてきた。
あの2人は、たしか集合時間3分前だったのに、東区をぶらぶら歩いていた奴らだったな。
「離せよ!何勝手に触ってんだこら!!殺すぞ!」
「んな元帥だかなんだかしらねぇけど、聞く必要なんてねぇだろ!いいから離せ!」
連れてこられた男子2人が怒りを隠さずに、暴れる。
「あのね、オイラの話に時間内にこなかった馬鹿がいたんだよ。それがこいつら。それじゃ、今からこいつらを処分するから、じっくり見ておいてね。」
そういってあの少女が腰から取り出したのは・・・黒光りする、まるで実物みたいなピストル。
・・・・いや、本物・・・?
そんなわけ、ないだろう。あの子はまだ7歳くらいだし、そんなもの所持しているはずが・・・。
「お二人さん、これ何かわかる?」
「は?そんなおもちゃで何しようってんだ?」
「俺達馬鹿にしてんのか?」
---ガン!!
何かが破裂したような音。
ピストルの銃口から煙が出ていた。
10m先ちょうどあったステージの照明が、粉々に粉砕されていた。
「フフフ・・・おもちゃじゃないんだな、これが。・・・ねぇ、これからキミたちに処分を下すわけだけど、何か言い残したことある?」
まさか、あの少女・・・。
「ほ、本物って・・・ありえねぇだろ!俺達に何をする気だ!」
「ご、ごめんなさい!もう話を聞くから!やめてくれぇ!!」
「いや~・・・キミたちにはとても失望したよ。実際キミたち2人はもういらないって判断したから、覆す気はないよ。それじゃ・・・始めようか。」
少女は銃を構えた。
片方の頭に照準を合わせて・・・。
嫌な予感がした。それも、とてつもないくらいに。
背中に一筋の冷や汗が流れる
何か・・・とんでもないことが起きる。
俺達の日常じゃありえないことが・・・・。
あの狂気じみた顔を見ればわかる。あの少女は・・・・。
「これはオイラからのお仕置きだよ!!」
「「やめろおおぉおぉぉぉぉ!!」」
次の瞬間・・・ホールに一つの銃声が響いた。
間を置かずに続けて、もう一発。
「ま、時間に遅れるなんて最低だよね。そんな奴にはお仕置きしてやる必要があるよね。・・・ま、結局はキミたちにオイラが元帥だって証明するために利用しただけだけどね、フフフ。」
ホールに広がる火薬の匂いと・・・微かに漂う血の匂い。
その場に倒れる2名の男子。頭から血を流し、自分の周りに血溜まりを作っていた。
何が起きたのか俺の脳は瞬時に理解が出来ない。
あの少女が拳銃を持っていて・・・あれを2発発砲して・・・2人が倒れて・・・血が出てて・・。
こ、殺された?あの少女に?あの2人が?
頭が真っ白になった。
「あ、一応言っておくけどね。2人以外にも遅れた人が17人ほどいたけど、そいつらにもそれぞれ同じような罰を与えたから、心配しなくていいよ。」
異変が起きてから、2分くらい経っただろうか。
それぞれ、他の皆も我に返りはじめる。
俺も現状を認識しつつある・・・・とても信じられないが。
「う、嘘だろ?人が死んでるじゃねえか!!」
「きゃああああああああああああああああ!!」
「落ち着けよ!とにかく、まずは冷静にだな・・・!」
「こんな状況で冷静になっていられるか!人が死んでんだぞ!!」
「アハハハハハハッ!!」
このホールはすっかり混乱に陥ってしまった。
泣き叫ぶもの、怒号を飛ばすもの、笑うもの・・・それぞれが違う反応を示す。
周囲の声が飛び交い、誰が何を言っているのかもすでにわからなかった。
「ねぇ、オイラ暇なんだけど。さっさと落ち着けよ。虫みたいに群れて、ブンブン騒いで。したい話もできないんだよね。まるでキミたちは小学生みたいだね。」
少女が冷めた表情で何かを言っているが、俺達の耳には届かなかった。
それもそのはず、ここにいる全員が今の状況を把握するのに必死なのだ。
ステージ上にいる少女の声なんて、聞こえないだろう。
しばらくの喧騒を眺めていた少女が、またも驚きの行動に出る。
---ガン!!
静まる喧騒。全ての音が消えた。
泣き出すものは泣き止み、怒号を飛ばす者も口を閉ざした。
この何かを破裂させたような音・・・発砲音か?
「悪いんだけどさぁ・・・。人の話は静かに聞きましょうって習わなかったの?時間は有限なんだよ?・・・・コホン、それじゃあ仕方ないから次騒いだ奴は、お仕置きするからね。これは忠告だからね、守らないと痛い目見るよ。」
お仕置き・・・さっきのがそうなら、騒いだ時点で・・・。
全員が冷静に考え、そんなことを考えることが出来ればよかった。
しかし、集団というのは全員が全員、冷静であるわけでもない。
冷静な人も居れば、落ち着きがない人も居る。頭がいい奴もいれば、悪い奴もいる。
そう、それは全ての集団において当てはまる。
このホールの集団だって・・・それは変わらなかった。
「ハハ・・・ハハハ!僕は信じないぞ、こんなこと!お仕置きだって?やってみるがいいさ!!どうせこんなのは悪・・・・・・い・・・・・・・・・・・・・・。」
叫んだ男子は突然倒れ、周りが赤色に染まっていく。
ステージ上では、少女が構えた銃口から煙が漏れていた。
今の俺なら、もう何が起こったのか理解することができた。
忠告を守らなかった男子が1名、銃殺された。
「あーあ、だから言ったのに。ま、しょうがないか。どこにでもこういうバカはいるしね。さて、これでも黙らないバカはいるかな?」
もう、これ以上騒ぐ人間はいなかった。
騒げば、どうなるか・・・いやでも理解させられてしまったのだから。
俺だって、こんなことを信じたくない。
しかしここでは・・・この場所では・・・自分の命すら容易く奪われてしまう。
言うならば、ここで皆を黙らせているのは。
圧倒的な恐怖。
「・・・いないみたいだね。それじゃあ、遅くなったけど、元帥からの話を始めるね!」
これから、この瞬間から。
俺の平凡だが、幸せだった日常が終わりを迎える。