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曇りガラス

 あなたの姿は見える。


 けれど、その姿のエッジは崩れており、顔ははっきりとは見えない。




 あなたの姿を曇らせる、目の前のこのゆがんだガラスさえなければ、あなたの全てを見ることが出来るはず。

 そう思って


 僕はそれを叩き割らんと、破壊せんと。



 拳に力を込めて。






 けれど、僕にはそれは、出来なかった。

 最新の、最強の人型兵器である僕たち。

 その力があれば、どんなモノでも壊せるけれど


 その力をもってしても、

 いや、



 そんな力を持ったからこそ、僕とあなたの間にあるそんなガラスを破ることは出来ない。






 僕がいくらそのガラスを見つめても


 あなたは見えない。

 きっと、あなたにも僕は見えていない。


 僕がわかるのは、あなただと信じられるあなたの輪郭と、

 忌々しいガラスが、叩けばやすやすと壊れてしまうはずのガラスが、どうしようもなく分厚いということ。



 それだけ。



「ソナ」

「何でしょう」

「計測機が故障しているのかしらね? 調子悪いの?」

「……僕がですか?」

「人工心の数値に少し差があるのよ。何かあった?」

 彼女はそう言って、気遣うように見上げてくる。僕は笑った。顔に張り付いている人口筋肉をゆがませて。

 ――僕にはわかっていた。

「……僕は、いつだって好調ですよ。あなたの調整のお陰で」

「最近、貴方達は少し嘘をつくようになったから、やっかいよね」

 ――彼女にはわかっていなかった。

「嘘なんてついていません」

「ついているわ。私に分からないことなどないのよ」

 彼女は妖艶に笑って、調整室に行くよう命令を告げた。僕らを創った彼女の命令は、絶対だった。

 いくら調整などされたくないと思っていても、躯体は勝手にその方向へ進む。もう、それには慣れていた。



 セカンドのような欠陥があればいいな、とふと思った。

 そうすれば、もっと上手く彼女に気取られないように出来るのに。


 不思議な気持ちだった。

 彼女を目の前にすると、埋め込まれた『心』が震動するのがわかった。

 恐怖や、怒りとは違う『感情』だと思った。でも、何なのかはよくわからない。

 それがなんなのか。

 この前、僕は『弟』に教えてもらった。



 でも、同時に、そんなものは彼女が求めているものではないと、わかった。





「他のナンバーと諍い(いさかい)もないのに……やっぱり……」


 背後に遠ざかる彼女の声が聞こえた。

 僕らの『耳』……聴覚機能は動物の耳など話にならぬほど精度がいい。何メートル離れていても、どんなに声を潜めていても、僕には彼女の声が聞こえた。


「あの人には……適わないのかしらね……」


 ――だって、彼女は他の人を追いかけている。





 僕には彼女がはっきりと見えない。






 彼女は僕を、見てすらも居ない。きっと、そう。


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