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「こんにちは~」

 百瀬は扉を元気よく開けて部室に入る。室内には眼鏡をかけた男子が本を読んでいた。その男子は百瀬を一瞥すると、読んでいた本に栞を挟んで視線を上げる。

「百瀬か、相変わらず元気だな」

「それが私のチャームポイントなんで!」

 男子の言葉に百瀬は応えながらいつもの定位置に座る。

「言ってろ」

「つれないですねー、星崎(ほしざき)先輩は。それにしても……今日は随分と集まりが悪いですね」

 男子……星崎の呆れた声を気にした風もなく、百瀬は会話を続ける。

「そうだな。優月と茅原(ちはら)はCCPからの呼び出しで公欠なのは知ってるが、後は知らん」

「あ~、だから部長が、あっ⁉」

 星崎の言葉に、部長が授業をサボれた理由を察した百瀬は納得の声を上げた。そして、すぐさま口を(つぐ)む。

「は? アイツなら学校に来てなかったぞ」

「や、こっちの話です」

 そのことに対して星崎は怪訝(けげん)そう顔をする。百瀬は手を出して深く聞かないで、と意思表示をする。その姿に星崎は疑問を感じながらも、再び呆れ声を出す。

「? 相変わらず変な奴だな」

「相変わらずは余計です」

「変な奴は良いのか?」

「それはキャラ作りです」

「言ってろ」

 星崎は嘆息をし、閉じていた本を読み始めた。

 しばらくすると、部長が扉をバッと開け、手に持ったビニール袋を高々と掲げながら部室に入ってくる。

「皆の者! 宴の準備じゃ!」

 後ろに清澄を引き連れ、異様なまでにテンションが高く、何故か時代劇風な喋り方だった。

「お前はいつの時代の人間だ」

「何じゃ、二人しかおらんのか?」

 本から顔を上げてツッコんできた星崎を気にするでもなく、部長は室内を見回す。

「優月と茅原はCCPだ。後は知らん……というか、今日の授業はどうした?」

 星崎はいつものことと諦め、先ほど百瀬に言った説明をする。それから少し語調を強めて部長に質問する。

 流石に今回はスルーをできないと思った部長が若干、狼狽える演技をする。

「あいや、(それがし)は止むを得ない事情があってな……」

「アレがですか?」

「契約違反だぞ、百瀬」

 百瀬の言葉に、急に素に戻った部長は、百瀬の前に手に持っていたビニール袋を置いた。

「口調戻ってますよー、部長」

「清澄はあの二人から何か聞いてないか?」

 ビニール袋の中身を(あさ)りながらツッコむ百瀬を無視して、部長は振り返って清澄のビニール袋を受け取りながら訊ねる

「あ、二人とも明日の準備があるみたいで今日は部活を休むって言ってました」

「と言うことは、ここの四人と……後は空音ちゃんと久遠くんの計六人か」

 言伝(ことづて)を思い出した清澄の言葉に、百瀬が今いる三人を眺めながら呟く。百瀬として全員で久遠の歓迎会をしたかったようだ。星崎は百瀬の呟きを聞いて、先週の金曜日に来栖川に伝えられたことを思い出す。

「そういえば、今日だったな。その転入生ってのはどんな奴なんだ?」

「う~ん……少し冷めてる部分もありますけど、そんなに能力者らしい性格はしてなかったですねー」

 星崎の問いに百瀬は腕を組んで考える。今日一日、百瀬から見た感じの久遠の性格は、そこら辺の男子高校生とそれほど変わらないように感じた。能力者になると大体が歪んだ性格になるが、久遠にその様子は見られなかった。

「そいつは、いつ能力者にされた(、、、、、、、、、)んだろうな……」

 能力に目覚めたばかりの人間の大体は性格が歪む。それは、能力者(バケモノ)になったことで優越感に浸かり暴れるか、能力者(バケモノ)になったことで心を閉ざすかのどちらかが多いからだ。破壊的(そとむき)自閉的(うちむき)と方向は違うが、結局は歪んだ性格になる。

空音もまだ能力者になってから、一年しか経ってない為か、やや自閉的(うちむき)な性格になっている。

「そうだな。ここにいる部員は真崎を除いて、初等部か中等部には神薙に来てっから、絆も強い。そして、多感な時期を同じ仲間と過ごせているからこそ、性格もちょっとぶっ飛んでる(、、、、、、、、、、)だけで済んでるけどな……」

 百瀬を見ながら喋る部長と、部長を見続ける百瀬。その二人を交互に眺める星崎と清澄。しかし、能力者になるということには、それなりの過去があったのだ。だからこそ、性格が歪むことが多い能力者だが、そうなることもない久遠について色々と考える二人だった。

「それはいずれ本人に訊ねればいいとして、今は久遠くんの歓迎会の準備をしましょう! さあ、部長。派手にいきましょう!」

「オウ!」

 真剣に考えている二人に百瀬は声を張り上げて歓迎会の準備を提案する。部長も他人の過去をあれこれ詮索するよりそっちが楽しいと思い、親指を立てて応えて準備を始める。

 その二人を見た星崎と清澄はお互いを見合って苦笑し、準備を手伝うことにした。

それから数十分が経った頃、扉をノックする音が聞こえた。




「ここって蔵書量が多いんだな」

「ええ」

 図書館が閉館するまで居座った久遠と空音は、能力運用部の部室まで雑談を交わしながら廊下を歩く。

「でも、四時過ぎには閉館か……」

「それは私も不満だわ。……ここを曲がった先に部室があるの」

 廊下の角を曲がったすぐ右手側に、能力運用部と書かれたプレートがぶら下がる扉を見つけた久遠。だが、それよりも気になるものが目に入った。

「なあ、あそこって何?」

「ん? ああ、あそこは鳩小屋よ。百瀬さんが管理してるの」

 久遠の視線の先には、廊下の行き止まりを改築して造られた鳩小屋があった。

「それって……いいのか?」

「ちゃんと学園側の許可は取ってあるし、いいんじゃないかしら」

「へ、へぇ……」

 久遠はただ茫然とするしかなかった。そんな久遠を気にするでもなく、空音は部室の扉をノックして中に入る。久遠も慌てて後に続いた。

「失礼します」

「……失礼します」

 中に入ると部屋の中央には大きな机がかなりの面積を占め、その上には何故かお菓子とジュース。壁際のホワイトボードには『ようこそ! 能運部へ!』とでかでか書かれていた。

「あ、お帰りなさいませー、久遠くんに空音ちゃん! ささ、こちらへ」

「お帰りなさいませー」

 そして、何故かメイド服を着た百瀬と金髪の男子。

「……」

「いつものことだから相手にしなくていいわ」

 固まる久遠に空音は一言言って席に座った。

「そ、そうか……?」

「君が転入生の?」

 どうしていいかわからず、立ち尽くしている久遠に眼鏡をかけた男子が声をかけてきた。

「あ、はい。上倉久遠です。よろしくお願いします」

「ああ、よろしく。俺は三年生の星崎(ほしざき)賢太郎(けんたろう)だ」

「で、オレが能運部部長の春日(かすが)洸太(こうた)。こいつが一年の清澄」

 久遠と星崎が自己紹介をしていると、メイド服を着た男……春日が自分と肩を組んだ後輩の自己紹介をする。清澄は若干緊張した面持ちだ。

「き、清澄(きよすみ)透哉(とうや)です。よろしくお願いします。」

「よろしくな」

「あと他に部員が四人いるんだが……」

「今日は二人がCCPで公欠、もう二人がサボりだ」

 春日の言葉を星崎が続けた。その言葉に久遠が首を傾げる。

「CCPっていうのは?」

「能力犯罪対策課、通称CCP。近年増えてきた能力者の犯罪を解決する為に出来た警視庁長官直属の課だ。まあ……ここにいる部員全員がCCPに所属してるけどな。今回は偶々あの二人にお(はち)が回ってきただけだろ。……けど、来栖川先生からCCPについての説明はなかったのか?」

 春日の説明に久遠は何やら苦々しげな表情を浮かべる。

「えっと……はい。『能力者の為の部活だ。行けばわかる。』とだけしか……」

「あの給料泥棒め……」

「でも、そのお蔭で私たちが好き勝手できる部分も多いじゃないですか」

 毒づく春日の言葉に百瀬が能天気な声を上げる。

「確かにな」

「廊下の鳩小屋みたいに?」

「そうだねー、他にも色々と奥にあるよ」

 入ってきた扉と机を挟んで対角線上の位置にある扉を指差しながら答える百瀬に、久遠は質問を続ける。

「色々って?」

「まず、キッチン! 冷蔵庫にIHのコンロ、電子レンジ、ポットでしょ……液晶テレビにソファー、パソコン、さらには洗濯乾燥機にシャワールーム!」

 ゲーム機も一通りあるよー、と最後に百瀬が付け加えた言葉を聞いた久遠は顔を(しか)めた。

「……誰かここに住んでんの?」

「そんなわけないじゃん。可笑しなこと言うね、久遠くんは」

 ケラケラ笑う百瀬から視線を外し、空音の方を向く久遠。空音は静かに首を横に振った。それだけで久遠は全てを悟った。

とりあえず受け入れようと……


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